表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/511

13 決死園

 ヤシガニの魔法に対抗するために少し隊列と作戦を変更しよう。今までは敵の長距離攻撃がないことを前提に戦っていたが、これからは敵の魔法の性能を考慮しなければならない。

 まず班を、石を投げる「投手」、石弾を作る「補給」、ヤシガニをおびき寄せる「囮」の三つに分ける。攻撃しながら敵の攻撃を回避するのは難しいが避けることに専念させればなんとかなる。

 もっとも恐れていたのは囮を無視して投手を攻撃されることだったが、あまり頭が良くないのか単に執念深いのか囮の蟻を追い回している。

 馬鹿だなー。オレならさっさと逃げるか蟻を無視して渋リンを食べまくるのに。ほら今も無駄に橋脚に魔法なんか当てて……。

「あの、橋さん? なんでビキビキ音をたててるの? え、ちょっ」


 ヤシガニの魔法の猛威にさらされた橋はあっけなく崩れた。このヤシガニパワーがありすぎる!百人乗っても崩れないぞこの橋!?

 橋の一つが崩れたせいで一匹の蟻が孤立してしまった。コレが狙いか? 頭いいじゃねえか!


「別の橋から逃げろ……ってヤシガニの野郎先回りしやがった!」

 前門のヤシガニ後門の土棘、逃げ場はない―――わけじゃない。じりじりとヤシガニが迫る。何度か見てわかったことだがヤシガニの「鋏伸ばし(仮)」は連発できない。一回攻撃すると大体10秒くらい間隔が空く。逆に言えば、一度鋏を伸ばしてから次に鋏を伸ばしてくるタイミングはおおよそ予測できる。


「3、2、1、走れ!」


 ヤシガニの魔法を間一髪でかわし、そのまま橋が落ちた方向に向かって走り、助走をつけて思いっきり跳んだ! たった今オレも知ったところだが意外と蟻はジャンプするのが得意なんだよ! だが足りない。向こう岸までわずかに届かない。このままならな!


「ふぁいとー」

「いっぱーつ」


 あらかじめ紐をつなげてロープをたらしておいたのだ! それを跳んでる最中に掴む蟻も凄いけどな! 落ちそうな蟻を何とか引き上げて逃走開始!未練がましくヤシガニの魔法が放たれるが長さが足りん!

「よし! 罠の準備もできた。所定の場所までそいつを引っ張って来い!」


 巣の外にある空き地まで走り抜ける。ヤシガニもここまできて逃がすという選択肢はないのだろう。猛然と突進してくる。だがヤシガニは気づかなかった。足元に蟻達の体重では作動せず、ヤシガニが通ったときのみ作動する罠の存在を。

 それこそは人類発祥から長く使われ、マンモスを絶滅に追いやったとされる罠――――


「落とし穴だ!」


 突如として開いた大穴にヤシガニは頭から突っ込み、重い音を響かせた。

 え、ワンパターン?しょうがないじゃん。蟻の魔法だとこれが一番作りやすいんだって。ヤシガニのサイズに合わせた穴を掘るのには時間がかかったがそれだけじゃないぞ。穴の底には棘などを仕込み、上に行くほど狭まっているため簡単には出られない。さらに中の様子を観察するために物見台まで設置してある。……自分でもちょっとやりすぎたと思ってる。

 いや、訂正しようやりすぎだったと思っていた。だがヤシガニは死んでおらず、穴からでようともがいている。確殺するまで安心はできない。


「火をつけろ」

 用意しておいた松明もどきを投げ込ませる。穴には枝や葉など燃えやすいものを詰め込んでおいた。つまりヤシガニを焼き殺す。それが本命の作戦だ。硬化能力が熱に対して耐性をもつのかはわからないが、ヤシガニに炎は効くはずだ。

 さっき解説したがヤシガニは陸上でも空気中の水分や腹に貯めた水分で鰓呼吸を行う。腹の水分を蒸発させ、辺りの空気も炎に包まれれば、当然窒息する。


 魔物の内臓は地球の生物とそこまで変わらないと仮定した場合、時間さえあれば殺せる可能性は高い。だからこそ、奴は必死で穴から出ようとしている。炎の吹き出る穴から鋏と不気味な顔を覗かせるその姿は無神論者のオレでさえ悪魔の存在を疑ってしまいそうだ。だが奴は殺せる。悪魔でも怪物でもないただの生物に過ぎない。ま、その前に。


「ところでゴルフってスポーツを知ってるか? 知らない? 大いに結構。今から説明してやろう」

 テレパシーによる会話を試みたが反応はなし。ネズミや蟷螂は会話ができそうだったがこいつはそうでもないらしい。せっかく口火を切ったので最後まで説明しておこう。

「ゴルフってのはホールカップにゴルフボールを入れるスポーツだよ。こんな風にな」

 落とし穴を掘ったなら当然大量の土砂が排出される。その砂で大小さまざまな岩球を作った。地球のゴルフボールはもっと小さいけどきちんと実演すればルールは理解してくれるだろう。つまり穴めがけて球を入れさえすれば。

 まずスリングで相手をけん制した後バスケットボールほどもある岩の塊を転がしてヤシガニに叩き込む。やはり顔面は脆いのか今までのタフさがうそのように穴の中へと再び落ちていった。


 蟻達は容赦なく石を投げ入れる。ヤシガニは這い出るよりもこの穴そのものを壊そうとしているらしい。魔法と巨大な体躯による力技で大暴れしているが、いかんせん弱っているらしく投石、いや落石をしのぎきれていない。重力というどの世界でも変わらない物理法則を味方につけたこの状況ではオレ達の攻撃力が奴の防御力を上回っている。


「やっぱりな。お前の魔法は防御には使えない」

 この戦いが始まってから一度もヤシガニは魔法を防御には使っていない。ここまで追い込んでも使わないなら、しない、のではなくできない、と見るべきだ。おそらく奴の魔法は限定的なサイコキネシスに近い。鋏からでた薄緑色の光に触れたものを鋏の内側方向に動かす。それを双方向から行うことで押し潰す。かなり汎用性が低いぶん威力は高いんだろうが、こうなってしまっては何の意味もない。


「しまった。これじゃ玉入れだな。いやむしろ集団リンチか。ま、これも生存競争だ。文句はないよな?」

 ヤシガニからの返答はない。炎はゴウゴウと燃え続けやがて穴の中で動くものはなくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この主人公w人間の思考が完全保全されてここまでの流れですと完全にサイコパスですよww 人間の遺体毀損幇助、同種・蟻の使い捨て、今回のラストのセリフといい…苦笑。 慈善・利他行為が嫌いと…
[良い点] おお(≧∀≦)太古の昔に大型生物を駆逐した罠猟をアリンコモンスターが!土魔法で罠を張りテレパシーによる一矢乱れぬ布陣、飛び道具や飛行能力がなかったら有効なハメ技ですね。 [一言] ヤシガニ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ