105 三人目の転生者
運よく時間が空いたファティとタストはラオの応接室を訪れようとしたところ、一人の少女に案内されることになった。歩きながらも空気が重いのは主に案内している少女の小言が多いせいだ。
「いいですか。本来であればあなた方などティキーお姉さまに拝謁する権利などありません。ですがティキーお姉さまたっての頼みである以上やむをえず案内しているのです。それを忘れないように」
角を曲がるたび、人とすれ違うたびにこの調子である。ここまで来るとむしろよく悪口が尽きないと感心してしまう。
この少女の名はラクリ。三人目の転生者であるティキーの従姉妹にあたるらしい。話しぶりからかなりティキーに心酔しているようだ。
「いくら銀色の髪を持つとはいえただの田舎者に、神から見捨てられ始めたルファイ家の男など、ティキーお姉さまも何故招待なさったのかしら」
ファティ本人は別に罵倒されても構わないと思っている。何しろ全くの事実であるのだから。
しかし、タストを悪く言われることには苛立ちを感じる。だが、ファティが何か言おうとするたびにタストが眼で制するため口をつぐんでいた。
ピタリ、とある扉の前で立ち止まった。
「ここにティキーお姉さまがいらっしゃいます。粗相のないように」
扉の前で敬礼してから声をかける。
「お姉さま。お客人をお連れいたしました」
「ラクリー。入っていいわよ」
扉を開けると、部屋にいたのはまごうことなき美少女だった。簡素などこにでもある部屋着だというのにまるで輝いて見えるほどにその顔つきは整っていた。
十人中十人が深窓の令嬢に違いないと答えるだろう。
ただし、寝っ転がってベイを食べながら何やら本を読んでいなければ。
「「………………」」
あまりにあまりな光景にファティとタストは絶句する。このいかにも礼儀にうるさそうなラクリなら雷を落とすことを二人は予想したが、
「お姉さま! ラクリはお姉さまの言う通りにしました! 褒めて頂けますか」
いつの間にかラクリはティキーに対して跪くような姿勢になっていた。……ホントにいつ移動したんだこの娘。
「うん。偉い偉い」
ティキーが頭を撫でると、今にも昇天しそうな恍惚とした表情を見せるラクリ。二人の知るありとあらゆる知識をもってしても粗相をしているのはティキーの方なのだがそれを指摘しても意味がないことはもう理解していた。
「では、失礼いたします」
ラクリは今度も一体いつの間に移動したのか全くわからない速度で部屋の外に立っていた。妙な武術の達人か何かなのか? もちろんファティとタストに突き刺すような視線を最後に送っていくのも忘れない。
部屋の中には注文したはずの料理がいつまでたっても届かないのにさして親しくない人と一緒にいるレストランのようないづらい沈黙が漂っていた。
意外にも沈黙を破ったのはタストだった。あえて日本語で。
「君……家でもこんな風なのかい?」
声をかけられてようやくティキーが座りなおした。
「まあねー。誰も怒んないし。でも久しぶりに日本語喋れるからね。よし! 自己紹介でもしますか! ……て言ってもこっちは大体知ってるんだけどね。タスト・ヌイ・ルファイ君にファティ・トゥーハちゃんだっけ」
「は、はい。私がファティです」
「僕はタスト。君は……ティキーとしか聞いていないけど、何か事情があるの?」
「んーまあね。あたしのフルネームは色んな意味でややこしいから。二人なら問題ないかな。私はティキー。ティキー・アースル・リシャオ・リシャン・ソメル。長いでしょ」
その言葉に明らかな驚愕を示したのはタストだった。
「王族のミドルネーム!? 君は王族なのか!? いや、ならなぜラオの領主に?」
しかしファティは二人の会話に全くついていけない。
二人ともそれに気付いたらしく、名前についての解説が始まった。
「正確に言うとあたしは家の跡取りにはなるけど領主にはならないのよね。それは後にして今は説明が必要みたいね。ファティちゃん。貴族にはミドルネームが付くのは知ってるよね?」
「それは、知ってます。タストさんならヌイですよね」
「そうだね。僕らが住む教皇領ではほとんどヌイと名がついている貴族しかいないけど、他の領ではもっと色々あるんだ。もっともミドルネームは国王が直接決めたものしか名乗ってはいけないからミドルネームを聞けば大体どこの出身かは予想がつく。ラオの領主の家は今ソメル家。ミドルネームはボディアのはずだけど……」
「そういうこと。私、正確には私の母はソメル家の人間じゃないのよ。王族だったけど事情があってラオの領主の養子になった。具体的な理由は知らないけどね。本当に王族なら苗字がソメルじゃなくてクワイになるらしいわ」
「もともとはソメル家の人じゃなくても後継者になれるんですか?」
「その辺はややこしいけど王家の血筋ってことの方が優先されるらしいわね。ラオ家にとっても王族は貴い血筋らしくて、特別大事にされてるのよ。ま、私はお飾りみたいなもんで実務は別の人間がやるらしいわ」
「だからってだらけすぎだと思うけど……」
「いーのよ。ちゃんと仕事はしてるんだし。お偉いさんの応対とか。あ、そうだ、日本での名前は田中紅葉。紅葉でいいわよ。そっちは?」
「藤本雄二だ」
「林奈夕です」
「オッケー。ねえ貴方もしかしてバスの運転手さん? 私の記憶が間違いじゃなかったらだけど」
「……そうだよ」
空気がピリッと張り詰める。その質問が本題だったのだろうか。口調は変わらないが、目が笑っていない。
じっとタストを見つめた後、大きなため息を吐いた。
「駄目ねー。恨み言の一つや二つ出てくるかと思ってたけどなんもないわ。やっぱりあなたたちもバスに乗っている時に何があったのかは覚えてないのよね」
「僕らも覚えてないよ。でももっと恨まれてるかと思ってた」
「可愛くないわね。そこはもうちょっとこっちの本音を引き出そうとか思わないの?」
「藤本さんは他人の嘘がわかるんです」
「ああ、神様からもらった能力って奴? 私の奴は使えない能力だからうらやましいわ。奈夕ちゃんはどんなの貰ったの?」
「えっと、ただ単に強いだけです。私も選べるなら他の方がよかったですけど……」
「神様ってのも案外融通が利かないわねえ」
「転生させてもらっただけでも温情があるんじゃないかな……」
「まあそれもその通りよね。あんたらもベイ食べたら? お茶もあるわよ」
二人も座り、バリバリとベイを食べ、お茶をすする。日本ならどこのお年寄りだと思いたくなるが、クワイではこれでも若者扱いされるのだ。……多分。
「一応質問したいんだけど転生者って4人よね? 他に誰がどこにいるか知ってる?」
「いや、君が三人目だ。君はもしかして知っているのかい?」
タストがそう答えると彼女はほんのわずかに目を伏せた。
「確信はないけど、もしかしたらもう一人はトゥッチェって部族にいるかもしれないわ」
「トゥッチェ? でもあれは部族っていうより草原の名前なんじゃ?」
「まあね。そこにいる一族に王家の一人が養子に迎えられたそうよ。そして一人息子が凄く優秀らしいわ。何の手掛かりもないよりはましでしょ。その一族は……日本語の場合だと騎馬民族みたいなものかしら」
「ありがとう。機会があれば訪れるよ」
「真面目ねえ。でも急いだほうがいいかもしれないわよ。うちの家も武闘派だけど、あそこはそれ以上に魔物との戦いが激しいらしいから、いつまでも無事かどうかはわかんないわよ」
「……覚えておく」
神妙な顔つきで心の中のメモ帳に書きこむ。
そこでティキーはじっと自分をファティが見つめていることに気付いた。
「どうかした? 奈夕ちゃん?」
「武闘派って言いましたけど……紅葉さんは、魔物と戦ったことはあるんですか?」
「直接戦ったことはないわよ。せいぜい遠目で見たことがあるくらい。あなたたちは?」
「僕も似たようなものだけど……奈夕さんは直接戦ったことがあるはずだよね。何か気になることがあるの?」
「あの……二人とも、魔物の声を聞いたことってありますか?」
「声? 魔物と会話なんてできるの?」
「……過去にそういうことができた人がいたって記録はあるけど……それは限られた聖人の話だよ。君は魔物と会話したことがあるの?」
「この前のトカゲさんが死ぬときにこう言ってたんです。もう殺さなくていいって」
思わずタストとティキーは顔を見合わせる。お互いの顔には困惑の色が濃く表れていた。
「どういう意味かしらね。殺したくて殺したいわけじゃなかったようにも聞こえるけど」
「……君はどう思うんだい」
「私は……トカゲさんも何か事情があってテゴ村を襲ったんだと思います。だから……もしその事情が何かわかれば魔物とも争わなくて済むと思うんです」
「でもそれはセイノス教としては……」
「わかってます。でも傷つけあわずにすむならその方がいいと思うんです」
「魔物と共存するってこと? この世界の人ならそんなこと考えたこともないでしょうね。セイノス教以前に、実際に魔物に襲われた人は少なくないもの。人の恨みって厄介よ」
「それでも、戦いをやめる方法を探さないと、いつまでたっても終わらないじゃないですか」
しばし、静寂が満ちる。ファティの言葉はごく普通の日本人としては正しかったかもしれないが、クワイの民としてはありえない言葉だった。
「んー? 奈夕ちゃん? あなたはセイノス教についてどう思ってるの? そこをはっきりさせておいた方がいいと思うけど」
「みんなで助け合おうとか、そういうことは素晴らしいと思います。でも、」
「魔物と戦うことを勧めるのは間違ってる?」
静かに、けれどしっかりと頷くファティ。
「別にセイノス教を頭から信じてるわけじゃないのね。私としてはセイノス教に文句を言うつもりはないけど……あなたはどう? 藤本さん?」
「僕は……」
そこで角笛の音が響いた。リブスティの競技が一つ終わったことを示す角笛だ。
「次は確か君たちの出番じゃなかったっけ」
競技の順番は予め決まっており、次は跡取りの出場する競技だった。もしも時間に間に合わなければ失格になる。話題を変えたがっていたようだったが、ファティはそれに気付かなかった。
「あ、そうですね。行きましょうか、紅葉さん」
「あたし出ないわよ」
「「へ?」」
「ラクリを代理人にしてるから、あたし出ないわよ。別に男じゃなくても代理人は立てられるのよ。ばあちゃんもあたしをあんまり表に出したくないみたいだし、それでいいってさ」
「ふ、普通はそんなことしないよ。多忙な頭首はともかく、跡取りにとっては自分を売り込んでコネを作るチャンスなんだよ!?」
「ま、王族特権って奴よ。ファティちゃんラクリとも仲良くね。根は良い子だからちゃんと言えば答えてくれるはずよ」
「そうですか。では、失礼します。藤本さんも紅葉さんもまた会いましょう」
ぺこりと一礼して部屋を出ていった。
「あの娘、悪い子じゃないわよね。優しいし、美少女だし」
ティキーからの見え透いたカマかけだがタストは動じた様子もない。
「そうだね」
「可愛くないわね。そこはもうちょっと恥じらいなさいよ」
「本当の年齢はいくつだと思ってるの?」
二度目の人生だ。とっくの昔に恋焦がれるだけが人生でないことはよくわかっている。酸いも甘いも嚙み分けてきてしまった。
「真面目な話をするけど……あんたこの世界の人間とまともに恋愛できるの?」
今までとは声のトーンを変えて話しかける。
「……自信はない。ここと地球だと恋愛や結婚の定義が違いすぎる。……他所の男に抱かれて平静でいられるとは思えない」
誰が、誰を、それを意図的に省いた話し方だった。
「普通そうよね。あの子しか恋愛対象にはできないわよね」
「君は……受け入れられるのか?」
「しょうがないんじゃないかしら。そういう習慣だってだけよ。どんな国にいたって、どんな文化だって、私たちが人間だってことは変わらないもの。それで十分よ」
「そう……だね。それさえわかっていれば大丈夫だよね」
「でも気をつけなさいよ。私はあの子、ちょっと危ういと思う」
「魔物についてかい?」
「それだけじゃなくて、ちょっと純粋すぎるというか……」
「僕らと違って子供のころに死んでしまったみたいだからね」
「……ねえ。ファティちゃん、もしかして家庭に何か問題があったの?」
「そう聞いてるよ。どうしてそれを?」
「うーん。思うところがあるというか……これは余計なおせっかいをしないとダメかなあ」
「?」
「気にしなくていいわよ。それよりファティちゃんってなんか力貰ってるんでしょう? うちのラクリとどっちが強いかしら」
「僕も実際に魔法、ああいやここでは神秘っていうんだっけ。神秘を使っているのは見たことがないから、よくわからないかな」
先ほどの会話通り、この二人は魔物と戦うどころか見たことさえ少ない。せいぜいが遠巻きに見かける程度。魔物の被害に遭った人は見たことがあっても、魔物がどのくらいの力を持つかは伝聞系でしか知らない。
つまるところ彼女らは皆魔物という生き物についてあまりにも無知であることに気付いてすらいなかった。
神話や伝承にはそれこそ山を踏みつぶすような魔物が登場するが、地球人がそれを創作だと受け止めるように、ファティの強さについても嘘はなくとも誇大広告が含まれると解釈してしまっていた。タストに至っては直接アグルから話を聞いたにも拘わらずに。百聞は一見に如かず。
噂には尾ひれがつくものだがしかし、世の中には噂の方が慎ましやかであることも稀にある。二人がそれを知るには少し時間が必要だった。
競技場へと向かう途中にファティはラクリとばったり出会った。開口一番飛び出したのはやはり悪態だった。
「お姉さまに話しかけられたからっていい気になるんじゃないわよ。せいぜい恥をかいて無能で汚らしい男もろとも田舎に帰りなさい」
今までタストの手前黙っていたが、遂に堪忍袋の緒が静かに切れてしまった。
「あなたはどうしてそんなにタストさんを嫌うんですか」
「はあ? ルファイの男はみんな呪われてるのよ。そんな奴が神学までかじってるのよ? 神に対する冒涜に決まってるじゃない。男は子供の面倒さえ見てればいいのよ」
昔の、前世の記憶を思い出す。両親の口論の火種になっていたのは我が子の教育方針についてだった。父は地球においての女らしく育つことを願い、母は英才教育を望んでいたようだ。
最初はちょっとした口論だったが、やがて怒鳴り、つかみ合いの喧嘩へと発展していった。
そんな状態が何年も続いてしまった。自分に両方の期待にこたえられるだけの器量があればよかったのかもしれないが。
そんな時でも優しくしてくれたのは祖母だった。祖母は元看護師でいつでも優しく、父と母の間を取り持ってくれた。あんな状態でも家庭として機能していたのは祖母がいたからだ。
祖母は看護師という職業が今に至るまでどんな苦労をしてきたか、過去の偉人がどんな苦難を乗り越えてきたか、また他者への献身と博愛が大事だったかを語ってくれた。だから自分も大きくなればそういう道に進みたいと思っていた。その祖母とはここに来る少し前に永遠に分かれてしまったけれど。
だからこそ、今の発言を看過することはできなかった。タストがいわれのない侮辱を受けることを見逃すのはきっと祖母の心を裏切る行為だから。
「私の尊敬する人は病に侵された人にも分け隔てなく接することができる人でした。だから私も誰かが頑張っていれば応援しますし、いい人なら悪口を言われたくありません」
「病に侵された人を……ああ、銀王様のことね。邪悪な悪魔どもから呪われた善良な民を救うために自ら足を運んだという……何、自分の知識をひけらかしたいの?」
彼女は暖かい物が体に満ちるのを感じていた。
(この世界にも地球にいた偉人のような人がいたんだ。)
人種が、時代が、国が、例え世界が違ったとしても真心は決して変わらない。
彼女はそう確信した。
「そんなつもりはありません。でも私もそんな風になりたいと思っています」
「ふん。銀色の髪を持つことからって調子に乗らないことね。いいわ。あんたは聖女なんかじゃない。あんたが私に勝てたら謝罪でもなんでもしてあげるわ」
聖女。そんな風に呼ばれるほど立派な人間じゃないけれど……もしも誰かの力になれるなら……。やらなければならないことがある。
壁に囲まれた角丸長方形。それがリブスティの開催会場だった。辺りの壁が傷一つ見当たらず、一面の純白なのはこの場所が国民から愛されている証拠だろう。
そこで貴族の一人が今回の競技の解説を行っていた。もっとも跡取りの参加する競技は大体決まっているため、説明しなくてもこの会場がいる全員がわかっている。
「まずは<光剣>の光を競い合う! 最も光輝く剣を作り出したものが最も神の恩寵を受けし信徒であり、若き栄光ある彼女らはいずれも劣らぬ信心を持つと確信している!」
競技場には王都の民衆の他、貴族、豪商なども集まっており、中には立見席で押し合っている観衆もいた。その中にはもちろんティキーとタストもいた。ただし二人は特等席でゆったりと競技を眺めていた。
<剣>の輝きはセイノス教徒にとって重要であり、剣が輝いているほどその心が清らかで、神の愛を受けていると言われており、例えばタッシルを行う場合でも光が強い人物が好まれる。顔の美醜よりも神秘の輝きの方がよっぽど重要なステータスなのだ。もちろんこの世界の住人でなければさっぱり理解できない感覚だろう。
そしてわざわざ夕方近くに行われるのは光が良く見えるようにするためだ。
「では皆、剣をかざせ! 祈りを捧げよ!」
歓声が轟く。参加者の全員が一斉に空に向けて剣を作り出す。聖句を唱える者や、目を閉じる者もいた。
しかし、それらはすぐに止まった。
今が真昼かと疑いたくなるほどに輝く白い、いや銀色の剣が彼女らの目を、口を、手を、ピタリと止めていた。
もはや比べるまでもない。
否。
比べることさえおこがましい。観衆も参加者も誰も彼も茫然としていた。本来ならここから一人ずつ参加者を減らしていくはずだったがそれさえも忘れるほどの輝きだった。
ピタリと喧騒が途絶えたため不審に思ったファティは剣を消してしまった。
「えっと、あの……?」
辺りをキョロキョロと見回すと会場の全ての視線がファティに集中していた。誰も口を開かないので戸惑う他ない。
誰かが叫んだ。
「聖女様に神の御加護を!」
一斉に歓声が爆発する。近くにいたものは彼女に跪き祈りを捧げ、観衆も涙を流しながら祈りと敬礼をとるか、さもなくば気絶していた。
「なんて素晴らしい! 貴女様こそ神に愛されし娘です!」
「美しい剣と髪です! この場にいることができて光栄です!」
アグルやサリあたりからしてみれば見慣れた光景だが、当人はむしろこんなことがあるたびにいつもいづらさを感じていた。
「聖女様」
恐々とした表情で近づいてきたのはラクリである。
右手で作り出した<光剣>を左手で包み、首を差し出す。謝罪、それも罪人が行うような最も重い謝罪である。
「数々の無礼をお許しください。貴女こそ真の聖女様です。貴女を見出した御子様も尊敬するべき信徒です。私など矮小にして卑小な信徒にすぎません」
「い、いいえ。私もちょっと言いすぎた気もしますし……別に無礼だとかそんなことはないですよ」
「ありがとうございます聖女様! お姉さまが貴女を気にかけていたのもこのことに気付いていたからですね! やはり神に愛されしお方々は惹かれ合うのですね!」
この喧騒は長引き、一時リブスティが中断されることになった。
「ねえ、タスト君」
「何?」
「アレ、知ってたの?」
「話には聞いていたけど……あんなに凄いとは思ってなかった」
二人もまた、言葉を失っていた。ありとあらゆる意味で予想を超えて、頭がマヒしていた。
「正直さ。あっちの能力の方がよかったって思ったでしょ」
「少しね」




