元、会社員
裏主人公登場 ラブコメ担当
私が生きているこの世界が、どうもおかしなことになっている。
それまで一方的に盲信していた世界からの裏切りに気がついたのは、幼稚園入園式だった。
それまでは、自分はきっと「前世の記憶をもって生まれた」そーんな珍しいが、聞かなくもない、特別な赤子の一人だと思っていた。
オカルトは嫌いではないし、前世やら胎内記憶やら、眉唾だが誰も傷つかないファンタジーは楽しい。
踊ろうが踊るまいが阿呆なら、踊った方が人生は楽しいのだ。
さあ、踊りましょうランラララン。
生憎『前世は滅びしアンドロメダ帝国の聖戦士で、魔神バスタードの呪いで離れ離れになった義理の妹兼許嫁の姫巫女アルデェインを探すため転生を繰り返している』みたいなドラマティックかつユーモア溢れるファンタジックな設定もなくて。
生前の私と言えば、中央値付近の経済状況の家庭に産まれ、家族に恵まれ、贅沢言わなきゃ問題ないレベルの容姿と脳味噌でなんとなく大学まで進み。希望の業界の企業に就職して、なかなかの収入でそこそこ恋愛もして。
ある日、突然、胸の痛みに倒れて、死んだ。
多分、死因は心筋梗塞。
まあ、だから、産まれてすぐに「ああ、私、産まれたんだ。」って理解した。
目はまだ光しか感じなかったから、耳で情報収集に励んだ結果、ここは母国であり、母は自分を愛していて、家族仲も悪くなく、比較的恵まれた環境であることは感じた。
それだけわかりゃ、二度目の人生、要領よくやるだけだ。
ずいぶんと育てやすい赤子だと誉められたもんだよ。
折角転生したんだから、出来れば異世界なんか楽しそうだったよな、とはおもったが。やはり理想と現実は違うよね。
剣と魔法なんか、それじゃあゲームの世界だし。
やりたかったな、中二病的魔方陣で呪文の詠唱。
ただの現代人たる自分は、これから始まる長い長い人生を、出来るだけ安寧に楽しく暮らすため、今ある「前世の経験と記憶」をなんとか忘れず有利につかっていかねば。
でも、勉強、嫌いではないが怪しいわ。
今の子、円周率って3だっけ?
楽しみもある。
どうやら、私は男として生を受けたらしく。
常々男子楽しそうだなー、と感じてた身からしたら、ありがたい。
毎月毎月月によりゃ二度もやってきた生理が来ないの確定してるだけで、勝ったわ。
無駄毛に、化粧に、ダイエット。
私服通勤に着回し迷い続け、制服でいっそ通勤したろうかと、なんど思ったか。
転生ものでお決まりの「神様とのご対面」とかしてないから、神がいるのかいないのか、わかりゃーしないが、一応お礼は言おう。
神様、ありがとう。
あと、今生のおかあたまとおとうたま、二人の顔面偏差値が平均以上であることから、これはもう、ハーレムいけるんじゃない?!とか思ってる。
乙女心に精通し、前世知識で学業優秀、遺伝子優良イケメン。
こりゃ、モテる。
確信した。
だれにでも言える人並みだった人生の中で、けして彼氏にも言えなかった趣味。舐めるようなエロゲー攻略の成果がいま!!!!!
って、思ってた。
いや、暇だったんだよ。
頭脳は三十路でも体は新生児だから、喰う寝る排泄妄想する、しか出来ることもなく。
PCに遺してきた負の遺産、あ、あと家族や彼氏が気掛かりじゃなかったわけではないが。
それは、どうしようもないし。
悩もうが、後悔しようが今さらだしねぇ?
後悔するような生き方をしてはいなかったが、若くして死んでしまったのは、申し訳なかった。
だけど、全ては前世の話。
寝返り覚えたころにゃ、もう目指せエロゲー主人公!目指せハーレムエンド!とか考えてた。
我ながら、阿呆だ。
本当、ファンタジー世界じゃなくてよかった。
心読まれたら、死ぬわ。
ベビーベッドの角に頭ぶつけて死ぬわ。
そんな阿呆な事ばかり考えてた私が、
違和感を感じたのは、幼稚園入園式
母さんの母校だと言う『学校法人聖ソレイユ学院 幼稚舎』
でじゃびゅ
ソレイユ幼稚園、って聞いてたが、この文体、見たことある。
「あああああ!!!!!!!!」
多分、前世含めて、一番驚いた。
驚いた。
見たことあるわ。聞いたことあるわ。
よくよく考えたら、色々思い当たる。
好きなエロゲーのシナリオライターが、よくSNSで呟いてたわ。
『今度、乙女ゲーのシナリオ担当になりました!!エロ無しマジ何年ぶり?!!!』
『聖ソレイユ学園シリーズ★紅の薔薇と黄金の月』
『今度、アニメでオリジナルストーリーやります!なんと、聖ソレの暁と誉の幼児期wwwヤンデレ王子と陰陽委員長が仲良しショタ回!腐界の民よ!次の発表を刮目して待て!』
「あーくん?!虫でもいたの!!?」
突然叫んで頭を抱えて座り込んだ私に、お母様はかけより、優しく抱き上げた。
西尾 暁
それが現世の私の名前。
どうころんでもバッドエンドな、難攻不落のヤンデレ王子。
ハーレム作る側じゃなくて、攻略される側、それが私。
神様、聞いていますか?
ぼく、ちょっと、はなしがあるんで、でてこいや。こら。