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元、魔王

ああ、また、負けたのか。

現実を受け止めて、まず感じたのは己の敗北。


最初の一月は、夢だと思った。

半年は、試行錯誤した。

現実を直視するのに、一年かかった。

そして、取り返しがつかないかもしれない現実に、自暴自棄になり、一年を過ごした。


命を絶つことを考えなかったわけではない。

諦めたわけではなかった。

リセットしたかった。

『転送』を試す、そのために。

『転送』には満たさなければならない条件があったし、認識していた範囲ではとても成功するとは思えなかったんだが・・・・

それでも、試したい衝動に、襲われた。

・・・・・まあ、幸か不幸か、出来なかったわけなんだけど


そして、今。

現実を見つめ、周りをみると。

ただ、自分を抱き締める柔らかく暖かいヒトがいて。

俺は、彼女の頬に、そっと手を添え口を開く。

ごめんなさい。

貴女の想いは、伝わってたんだ。

貴女の温もりは、俺をいつも包んでいたから。

だから、俺は、狂わずにいれた。

だから、俺は、諦めないことを、諦めた。

だから、だから、どうか、泣かないで。


「なかないで?」

そっと顔を覗きこむと、彼女は、大きな瞳をさらに見開く。

「だいじょうぶ?」

そっと、流れる涙を手の甲で拭う。

涙で揺らめく双眸に映る俺の顔は、とうてい受け入れられるものではなかったけれど。

それでも、決めたから。

俺はもう、泣かせたくないのだ。

今の生が現実なのだから、俺を抱き締める貴女をもう、悲しませはしない。

だから、泣かないで。

「わらって、ください。」

貴女は、笑顔が誰より美しいのだから。

俺は、彼女の涙を止めたくて、久方ぶりに、表情を作る。

さあ、こちらは笑いましたよ?

次は、貴女の番ですよ?


俺の笑顔を見つめた彼女は、くしゃりと顔を歪ませ、下を向き。

そして、天を仰いだ。

結んだ口から漏れる嗚咽。

それはだんだん大きくなって、子供のように泣き出した。

いつもの静かな涙ではなく、感情を爆発させたような号泣に、俺は驚いたが・・・・・


バン!!!


「母さん?!何があったん・・・・・!!!!!!」

「何事だ?!!っつ!!!!!」

「うぇ!!!!!!」

背後で開いた音にさらに驚き、振り向くと。

文字どおり、老、若、男、女。

知った顔と知らない顔が、あんぐり口をあけてたっていて。


ただただ響く、彼女の泣き声。


沈黙と言うには些か煩い間に耐えきらず、俺が最初に口火を切った。

「おはよう、みんな」

ヒラヒラ手をふり、笑顔を作るが。



一瞬の空白

視界を覆う影



突然、衝撃を受け、俺の意識は暗転する。

薄れゆく意識の中で、悲鳴と怒声が聞こえた。

「デブ猫!?おま、幼児になんっ!!!おい、大丈夫か?!」

「!!救急車!!」

「うわ、これ、白眼むいてる。」

「いにゃーーーーー!!!!死んだーーー!!!」

「あ。こっちも気絶した。」


あー、大変そうだなー・・・・

俺は、意識を手放した。


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