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俺とジジイと貧乏生活  作者: Mr.OKB
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part9FavaoriteThings閉店

 十一時になると昼飯の為に店は三十分間閉店する。

 珍しいシステムだが、客が多いのに接客担当が二人しかいないので仕方がない。

「こー君は今日もおにぎり二つ?」

「うちは貧乏なんだ、仕方がないんだよ」

「じゃあこれあげるよ」

 天涯さんはおにぎりの包み紙の上に卵焼きを置いた。

「おっ、じゃあ僕もトマトをやるよ」

「ありがとう。でも鳥栖、お前トマトが嫌いなだけだろ」

「ばれたか、部下に弁当を作らせてるんだが、あいつトマトなんか入れやがって」

「部下ってなあに?」

「いや、何でもない」

 鳥栖はたまに変なことを言う、さっきも独自の交通網があるとか言ってたし、いまも部下がいるとか言っている。

「店長、塩くれないか。朝作った時にかけるのを忘れてしまった」

 俺のおにぎりの中に具は無い、だからいつも塩をかけて味を付けている。

「はい、どうぞ」

 横でオムライスを食べていた店長が塩を渡してきた。

「後三分で開店です、速く食べてくださいね」

「お父さん、もう一人雇わない?正直こー君がレジに行くと一人で接客するの大変なの」

「うーん、どうしようかな。もう一人雇うと出費が増えるから嫌なんだよ」

「いいじゃん別に、この喫茶店かなり人気なんだからお金あるでしょう」

「しかし、新入りを入れると人間関係がなあ」

「確かに、俺らは作為的かと思うほど同じ学校で同じクラスだから人間関係は良好だと言えるだろう。しかしそこに第三者が入るとなると面倒くさいことになる可能性がある」

「そうだよねーだから迷うんだよ」

「でも、入れてみなければわからないよな。人間関係は複雑だというしな」

 唐揚げを食べながら鳥栖が呟く。

「そうだな。こういう時に一番簡単な解決方法があるんだ、多数決だよ」

「じゃあ私の新しく人を雇う案に賛成の人は挙手」

 全員が手を挙げた。

「これじゃ多数決の意味ないわね」

「じゃあバイト募集の張り紙を張っておかなくちゃね」

 丁度十一時半になり俺達は仕事に戻った。

 店を開けるとすぐに昼飯を食べに来た客で満席となった。

「いらっしゃいませ」

「また来たよ」

 一時になると入口には赤木さんが立っていた。

「ナポリタンですか?」

「三分で出てくると嬉しいね」

 俺が厨房に向かうと鳥栖がナポリタンを渡してきた。

「一分で出てきました」

「速すぎるね」

 赤木さんが帰ると、もう一人の常連がやって来た。

「こんにちは」

 身長は百七十センチ程度で真っ黒なコートに真っ赤なマフラー、真っ黒な帽子をかぶり、学生鞄を持った男が低い声であいさつをした。

「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」

 男を席に案内し、注文を聞く。

「ご注文は?」

「コーヒーと、カツサンドを三つ、後唐揚げを頼む」

「コーヒーとカツサンドを三つ、唐揚げですね。かしこまりました」

 この男は近くの中学校に通う生徒だ、学生鞄を見たらすぐにわかる。

 しかし、この低い声が中学生だとは思えない、完全におっさんの声だ。

「店長、紳士のテーブルはコーヒーと、カツサンドを三つ、唐揚げだ」

 赤木さんのように名前を聞いたことが無いのでこの店では紳士というのがあだ名だ。

「わかった。すぐ作るよ」

 しかし、店は満席状態でなかなか出来ない。

「どうぞ、オムライスです」

 紳士の方を見ると、指でカタカタと机を連打している。

 あれはイラついている証拠だ。

 前にあの状態の紳士の後から来た客に間違って紳士と同じ料理を出したら声が聞こえないほど低くなっていた。

「店長、紳士の料理はあとどれくらいで出来る?」

「あと二、三分くらいかな」

「良かった、後十分とか言われたら冷や汗をかくところだったぞ」

 三分後、紳士に料理を渡しすと、店長が一枚の紙を渡してきた。

「バイト募集の紙はこれでいいかな」

「店長、読めないんだが」

 店長は異常なまでに字が汚いので、手書きの紙を読むことが出来ない。

「だよねー皆も言われたんだよ」

 何で読めないものを見せてくるんだよ。

「店長は何故こんなに字が汚いんですかね?」

「自分の名前だけは書くの美味いんだけどね」

「いつものようにパソコン使えばいいじゃないですか」

「ねーこー君、また混んできたからお父さんと話してないで仕事してよー」

「店長、俺だけじゃ厨房は回らない事知ってんだろ!早く戻ってくれ」

「済まない、すぐに戻る」

「ごめんねー戻るよ」

 数時間後、午後九時になると店を閉め、掃除を始める。

「あー何でこんな雪の日まで客が多いんだろうな」

「お父さん、まさか元旦まで店を開ける気じゃないでしょうね」

「大晦日と元旦は流石に閉めるよ。僕行かなきゃいけない場所があるし、流石に元旦は休みたいし」

「店長、どこに行くんだ?」

 鳥栖が店長に尋ねる。

「お父さんは三十八にもなってコミケに行ってるのよ」

 コミケか、高校生になったら行こうと思っていたが行けてないな。

「いいじゃん別に、自分が楽しむだけなら」

「店長、要するに三十日までは普通に開店、二日からも普通に開店という事だな」

「でも、三日から学校始まるから丸一日働けないんだよな」

 丸一日働けばいつもの三時間のバイトよりも四倍の金を稼ぐことが出来る。

 しかし俺の学校の冬休みは十日ほどしかない。

 宿題は少ないが、丸一日のバイトが入れにくいので少しつらい。

「皆二日しかない休日はどう過ごすの?」

 俺達は毎日バイトを入れているため、休みが無い。

 さらに俺達が高校に行っている間は店長は一人で接客と料理をこなさなくてはならない。

 この店は料理が美味いと評判だが、接客に問題があると不評なのだ。

「俺はセガン・・・いや爺さんと過ごすかな」

「僕は部下・・・いや家族と過ごすだろう」

「私は、何しようかな」

「皆さーんちゃんと掃除してください」

 掃除を終わらせ、外に出ると俺はあることに気が付いた。

「やべえ、財布を持ってくるの忘れた」

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