part8伝説のあの人とFavaoriteThings開店
「終わったかい?」
「終わった。雪かきと俺の筋肉が」
雪かきと言うものは何でここまで疲れるのだろうか。
「外は寒いのに体が熱いわ」
「じゃあもうすぐ開店時間だから皆待機しててね」
店長と鳥栖は厨房へ下がった。
「今日のおすすめは・・・クリスマス限定ケーキか」
メニューに付け加えられた紙を見ながら俺は今日の接客文句を考えた。
「クリスマスと言えば・・・昨日はクリスマスイブだったわね、誰かと過ごしたの?」
「誰かと過ごす?そんなことあるわけ・・・あ、過ごした」
「えぇっ?あの人と同じくらい女子に対して冷たくて、クリスマスは絶対ぼっちだと確定していて、家族もいないこー君が誰かと過ごしたの?」
正確にいえばセガンが押しかけてきて家族として過ごしたのだが、どうやら誤解が生じたらしい。
「天涯さん、それはあんまりじゃないかな。あの人と同じなんて」
あの人とは、俺の学校の伝説の人物だ。
性格が異常なまでに悪く、正義感がやたら強い。
しかし、頭の良さはかなりのレベルだそうだ。
二十年前の東部結合高校は史上最悪の学校と呼ばれる程の無法地帯で、先生が生徒に手を出すなどの事案が発生していたらしい。
今の高校は普通の学校になったがその原因は二十年前の殺人事件らしい。
学校の横領を暴いたのが高一だったあの人で、横領していた先生に恨まれて殺された。
それ以来学校が非難されまくって学校を改革せざるを無くなったり、テロリストの標的なって学校を爆破されたり、インフルエンザとノロウイルスが流行りまくって三日間の学校閉鎖になったりと不幸が重なった。
そこで誰かが言ったらしい。「祟りだ」と。最初は誰も気にしなかったが、不幸が終わらないので慰霊碑のようなものを立てたらいきなり不幸が終わったらしい。
これらの話は語り継がれ、今では伝説となっている。
「本当にあの人って何者なんだろうね」
「だったら担任に聞けばいいじゃないか」
「聞いても教えてくれないもん」
俺と鳥栖と天涯さんは同じクラスで担任が二十年前の事件の重要人物らしい。
今まで色々な生徒が聞いたらしいが何も教えてくれなかったそうだ。
しかし、重要人物だという事だけは確かだ。
一週間に一度慰霊碑のような物に花を置いているのを見た事がある。
「まさか早良先生ってあの人の恋人だったんじゃ・・・」
「そんなわけないだろ、あの人は性格が悪すぎて彼女なんかできるはずが無いと先輩が言っていた」
本当に悪かったらしい、女子全員を生ごみ呼ばわりしていたそうだ。
「そうよね。何でそんなこと考えたのかしら」
「あの、もうやってますか?」
いつの間にか客が後ろに立っていた。
「あっはい。こちらの席へどうぞ」
今日は客が来るはずが無いと思っていたが、それは誤算だったようだ。
「いやーいつもこの店行列できてるからさー。今日雪が降ってくれて助かったよ」
なるほど、この店は朝から晩までの食事が楽しめるのが売りで食事がかなりおいしいから人気なのだ。
朝の客は出勤前に少し軽食を食べようとする客ばかりなので出勤が困難になる今日はほとんど人が来ない。
しかし、客が来たという事はあの客の勤め先はこの雪の中出勤させて働かせようとするブラック企業なのだろう。
「あれ、この雪だからやってないと思ったんだけどな」
入口にはぐっしょりとなったっスーツを着た常連がいた。
「いらっしゃいませ。赤木様」
「いつものを頼むよ」
この男の名は赤木、ほぼ毎日朝昼晩この店に来て小倉トースト、ナポリタン、オムライスを食べていく常連だ。
「はい、小倉トーストですね。お冷です」
「ありがとう。しかし何でこんな雪の中出勤しなければいけないんだろうね」
この店は都庁に近く、都庁の職員がよく来る。
「大変ですね、十分ほどで出来ますのでお待ちください」
「わかったよ」
厨房に戻り、鳥栖に注文を伝える。
「一番テーブル、小倉トーストだ」
「赤木さんか?」
「そうだ、なんでこの雪の中出勤しなきゃいけないんだってぼやいてたよ」
「ほれ、小倉トーストだ」
鳥栖は小倉トーストを俺に渡した。
「お前、予想してたのか」
「あの人ならいつも来るだろ、もう予想できるレベルで」
「それもそうだな」
俺は赤木さんのテーブルに戻り、小倉トーストを渡した。
「随分早いな、まだ頼んでから三分しか経ってないぞ」
「毎日毎日来店していますから、予想していたそうです」
「そうか、今日は少し早く出勤できそうだよ」
「いらっしゃいませー」
また客がやって来た、どこまでブラック企業は多いのだろうか。
「いらっしゃいませ」
ああ嫌だ、今日は少し忙しくないと思っていたのに席は満席になってしまった。
外を見れば列になってしまっている。
「独田君、これ外のお客さんに渡してきてくれるかな」
肩を叩かれ、後ろを見ると店長がお盆にコーヒーを乗せていた。
「いいんですか?一円も儲かりませんよ」
「流石金の・・・独田君だね。でも一円も儲からなくてもお客さんが寒そうにしてたらコーヒーを渡したくなるのだよ。僕はね」
「わかりました、渡してきます」
俺はお盆を受け取り外へ出た。
「これ、いかがですか?」
「ありがとう!寒くて参ってたんだよ」
「ブラックコーヒーですけどいいですか?」
「大丈夫だよ、むしろ朝はブラックの方がいいんだ」
「そうですか、どうぞ、もうすぐ席が空きますのでお待ちください」
「こっちにもください」
「こっちにも!」
無料でコーヒーを配り終わり店に戻ると赤木さんが会計の為にレジの前に立っていた。
「お勘定いいかい?」
「はい、小倉トースト六百二十四円です」
「消費税は何で八%何だろうね、小銭で財布がパンパンだ」
2014年に野田が消費税を八%にしたせいで出費が増えてしまった。
「今の安倍さんは税金を十パーセントにする気らしいですよ」
「やめて欲しいね。でも小銭は減るのか。はい、丁度」
「ありがとうございました」
赤木さんは店を出ていき次の客が来店し、それを接客する。
十一時まではこの繰り返しだ。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」