part7雪かき
「テロリストの話だ」
話していると一人の女が入って来た。
「こー君、露手君、おっはよー」
この女は天涯久戸子店長の娘でかなりの美人だ。
俺と同じ接客担当で、彼女が目当てでここに来る客も多いが、店の利益になるのは良いことだ。
同じ学校の同級生で、最初の顔合わせで出会った時は鳥栖と共に驚いたものだ。
今日は長い金髪をポニーテールにして、真っ赤なジャンパーを着ている。
「おはよう、天涯さん。最悪の朝だな」
「こー君、一体どうしたの?」
「確かに通勤、店に来る客の事を考えると最悪の朝だな」
「露手君まで!みんな今日はネガティブなの?」
当然だ、客が来なければ店の売り上げは減る、売り上げが減れば俺の給料も安くなる。
今でもギリギリの生活をしているのに今より給料が安くなれば俺は生活できなくなる。
「あー皆、そろそろ開店の準備を始めよう。この雪だからお客さん来ないと思うけど」
「お父さん、そんなこと言わないでよ。病は気からって言うでしょ」
「天涯、お前その使い方は微妙に間違っている気がするぞ」
店長はいきなり手を前に出した。
「じゃんけんをしよう。最初はグーじゃんけんぽい」
「えっ?いきなり?」
俺と久戸子はグーを出し店長と鳥栖はパーを出した。
「じゃあ負け組は寒い外で店の前の雪かきを頼むね。勝ち組は暖かい店内で掃除をするから」
店長がかなり面倒くさいことを言ってきた。
「待ってくれ店長、今のは不正だ。いきなりやったら勝てるものも勝てないだろう」
「知りませーん、早くやってきてください」
あんたは子供か!
「行こうこー君。お父さんこうなったら聞かないから」
「外は寒いんだよ!」
「いいからいいから」
俺は天涯さんに引っ張られいやいや外に向かった。
「これはすごいな」
店の前はかなり雪が積もっていた。
さっき俺が入店したときは雪をかき分けただけの獣道のような状態だったので、この道に客を歩かせるのは気が引ける。
「ニュースでやってたよ。記録的な雪だって。あ、こー君テレビ見ないんだっけ。はい、スコップ」
雪かき用のスコップを持った天涯さんが話しかけてくる。
「見ないんじゃなくて見れないんだよ」
スコップを受け取りながら返答した。
「そうだったね。じゃあこー君はこっち側、私はこっちね」
雪の上にスコップを使って線を引かれた。
「待て、明らかに俺の方が多いじゃないか」
俺に割り当てられた雪の量は雪全体の三分の二、天涯さんの量は雪全体の三分の一だった。
「こー君はレディーファーストと言う言葉を知らないのかな?」
「何で女に楽をさせなきゃいけないんだ。どっちかと言えば貧乏人の俺に楽させてくれればいいのに」
俺達はにらみ合いを始めた。
「わかった。わかったからそんな目で俺を見るな」
十秒後、俺はにらみ合いに負けていた。
「じゃあこー君、頑張ろうか」
結局俺は三分の二を担当し、天涯さんは三分の一を担当することになった。
「なぁ天涯さん、前から気になってたんだが何で俺をこー君と呼ぶんだ?」
雪かきをしながら天涯さんに話しかけた。
「えーっと、なんでだっけ。多分理由はあるんだろうけど忘れちゃった」
たまに何故だか聞くのだが、毎回このように返されてしまう。
「そうか。相変わらずだな」
「それよりもこー君も私の事さん付けしないで呼んでよ」
「嫌だ女を呼ぶ時はさん付けしろと親にしつけられたんだ」
なぜ両親はそんなしつけをしたのだろうか。
「変な親だね」
「俺もそう思う」
両親はどちらも変人だったが、とてもやさしい人だったと記憶している。
「そう言えば・・・」
雑談をしながら雪かきを終えた俺達は店の中に戻った。