part2奇妙な老人
俺は家族を追って電車に乗り、家族が降りた駅で下車した。
「あの野郎、結構良いところに住みやがって」
目の前を歩く家族は尾行している俺に気づかず話しながら歩いて行く。
スーパーの前で男は買い物をするからと妻と思われる女を先に帰らせ、スーパーの中へと入った。
「そう言えば道具を持っていなかったな」
俺は男を殺すための道具を買うためにスーパーに入店した。
一本のナイフを購入して外で男が出てくるのを待つ。
防寒にコートと手袋、マフラーをして帽子をかぶっているが、やはり十二月の気温は寒い。
そんなことを考えているうちに男が食材の入った袋を持って出て来た。
残念ながらその食材を家に届けることは出来ない、何故なら俺が今から殺すからだ。
「ああ、殺された両親と妹よ、俺が今から仇を取ってやるから見ていてくれ」
空を見上げ、男を殺すことを家族に宣言し、歩き始めた。
恐らく家族たちは全力で手を左右に振り、そんなことをするなと言っているだろう。
だが、俺が殺したいのだ、家族のために仇を取ってやりたいのだ。
男が住宅街に入ったのを見届け、俺はいつもよりさらに静かに歩き始めた。
「三秒でいこう。三秒だ」
頭の中で三秒数え、ナイフを構えて走り出すがイヤホンを着けている男はまだ気づいていない。
残り一メートルまで近づいた、もう勝利は目前だ。
その時目の前で信じられないことが起きた。
男の姿が消えた、その代わりに老人が立っていた。
「何をしているんじゃ?こんな物騒なものを持って」
老人は驚きで停止した俺の手からナイフを奪い取り、質問した。
身長約二メートル、着ている服の上からでもわかる筋肉、短く切りそろえた白髪と髭、どう見ても普通の人間じゃなかった。
「あんたは、何者だ?」
横を見ると、男が倒れて気絶している。
恐らく蹴り飛ばされたのだろう、そうでなければあんな倒れ方はしない。
「わしはお前に何をしていたか聞いておるんじゃ」
「見りゃわかるだろ、あいつを殺そうとしてたんだ」
「馬鹿野郎!」
老人はナイフを捨て、俺を殴り飛ばした。
「何なんだこのパンチは?馬鹿みたいに痛えじゃねえか」
「もういい、とっとと帰れ」
一方的に俺を殴った老人はどこかへ歩いて行ってしまった。
「全く何がしたいんだあのジジイは」
なんだか殺す気力も失せたので家に帰ることにしよう。
家に帰る前にスーパーによることにした。
今日の夕飯は何にしようか、今月も赤字かもしれないから出来るだけ出費は減らしたい。
スーパーに入ると店内はクリスマス一色だった。
「面白くないな。むしろ頭にくる」
クリスマスを昔から憎んでいる俺にとっては最悪の環境であることに変わりはない。
安売りされていた餅を片手にレジに立つと十個ほどあるレジすべてに男が立っていた。
どうせクリスマスに予定が無いからバイトをしているのだろう。
「餅一袋十個入り四百三十二円です」
「はい」
店員に小銭を渡し餅を受け取ったので家に帰るとしよう。
店先に飾ってあるクリスマスツリーを見た俺は昔親に聞かされた話を思い出した。
クリスマスツリーに願い事をすると叶うというものだが、幼稚園児の頃からクリスマスを憎んでいた俺は信じてすらいなかった。
殺人事件を起こしかけた俺としては気分転換に願い事をしたくなったのでしてみよう。
「家族が欲しい」
どうせ叶うわけがないので家に帰ろう。
「もし叶ったらクリスマスを憎むのをやめてやるよ。憎まれたくなかったら叶えてみやがれクリスマス」
俺は独り言を言いながら歩き始めた。
「いいじゃろう。その願い・・・叶えてやろう」
そんな彼の願いを聞き届け、彼の後を追い始めた老人の存在を彼は知らなかった。