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88 最後の夢

 祐介は、また夢の中で、御巫菊江に会っていた。それはどうも過去の記憶らしかった。どこかの休憩所らしい。巫女装束の菊江は、祐介と妹の未空に優しく話しかけてきた。

 祐介と菊江は楽しげに話をしていたが、走り回っていた未空が菊江の膝に飛びついた。

「お姉さんは、どうして巫女さんになったの?」

 未空は、きらきらと瞳を輝かせて尋ねた。

「そういうお家に産まれたからね」

「どうして、クチヨセするの?」

「うん。みんな、亡くなった人と会いたい気持ちがあるからじゃないかな」

「へー、じゃあ、お姉さんは誰かと会いたいの?」

 菊江は、その無邪気な問いにちょっと困ったような顔をすると、寂しげに笑った。

「私はね。どうしても、口寄せをしたい人がいるの」

「へー、どんな人?」

「そうね。なんて言ったら良いんだろう。その人は、すごく可哀想な亡くなり方をした人かな」

「死んじゃったの? 誰?」

 すると菊江はさらに困って、途端に顔が暗くなった。しかし、答えないという選択を許さない純粋さが彼女の胸をつき、声が一段と悲しげになり、震えだした。

「ふたりともよく覚えていてね。どんなことがあっても、愛している人に暴力を振るっては駄目よ。ずっと心の悲しみは残り続けるものなの。私はね。謝って欲しいの。その悲しみを少しでもなくしたいんだ。だから、私は口寄せをしている。ふたりとも喧嘩せずに仲良くね」

「はあい……」

 祐介は、はっきりとこの時の言葉を思い出した。そうして、御巫菊江の後ろ姿が小さくなってゆく。ああ、やはり菊江は、はっきりと答えていたのだ。御巫菊江は、十六年前のあの日から悲劇の真実を知っていた。そして、聡子さんの魂を口寄せして、父、御巫遠山に突き付けようとしていたのだ。その菊江を、尾崎蓮也は殺してしまったのだ。なんという憐れな話だろう。


 ……そうして、小さな祐介と未空、そして菊江の姿はゆっくりと暗転していった。

 何も見えなくなったところで、今度はいくつもの星が輝きだした。それらは魂のように美しく瞬いていたが、それが何なのかは、わからないのだった。そうして、その瞬きは次第に小さくなり、いつの間にか消えてしまった。


 ……そうして、祐介がこの夢を見ることは二度と無かった。

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