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80 すみれ到着

 祐介は、五色村の田んぼに挟まれた車道を駆けていた。ちょうど、そのタイミングで、すみれの乗った自動車がまっすぐ近づいてきた。

「すみれさん!」

「羽黒さん!」

 すみれは、祐介を見つけると、道の端に自動車を停めた。そして、すみれはドアを開けると弾き出されたように車外に出てきた。

「どうしたんですか? そんな慌てて……」

「高川さんの日記はありますか?」

「あっ、ここにあります」

 すみれは鞄の中から日記を取り出した。祐介はそれをひったくると、夢中で読みだした。しばらくして、祐介は叫んだ。

「なるほど、これが動機だったんですね。すみれさん、事件は解けましたよ!」

 その言葉にすみれは驚いて、反応に困った。

「事件が解けたって、すっかり?」

「そうですよ。でも、一点、どうしようもないことがあります。証拠がないんです。物的証拠が……」

「そんなものは警察の仕事ですよ。馬鹿らしい。それよりも真相が分かったのなら、すぐに父に話すべきですよ」


「そうかもしれません。しかし、根来さんは今、事件の捜査で忙しい……。僕にかまっている暇はないでしょう。そこで、すみれさん。今から僕と岩屋に行きませんか?」

 祐介は、子供のように瞳を輝かせて、そんなことを言うので、なんだか、すみれは気恥ずかしかった。

「えっ、私でよければ良いですけど。岩屋って、八年前に事件が起こったところですか?」

「そうです。そこで、真相をお話ししましょう」

「それ、私で良いんですか?」

「かまいません。検証したいんです……」

 すみれはそう答えながら、死体役にさせられるのは御免だ、と思った。


 すみれと祐介は、自動車に乗り込むと、彼岸寺の五重塔の方へと急いだ。今や、太陽は妖しげに傾いて、反対側に影をつくり、五重塔は、青空と赤みに帯びた雲を不安定に突き上げていた。

 その幻惑の風景を見ながら、二人はただ薄暗い過去へと向かった。

 八年前、岩屋で起こった殺人の秘密。あの憐れな巫女の魂は今いずこを彷徨っているのだろうか。その問いに答えられるものは誰もいないけれど、この大地に浮かぶ山の峰と、それを赤く染めてゆく空の色こそ、魂の行方を暗示しているようではないか……。

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