79 衝撃
祐介はこの時、ほとんど事件の真相に半分くらい気づいていた。しかし、まだ全体を知るにはインスピレーションが足らなかった。そこで祐介は、日菜の心境を想像することにした。
それで、ふとあることに気がついた。日菜の気持ちをもっとよく理解できるのは双子の月菜なのだと。
「すいません。月菜さんに会わせてください」
「月菜なら、隣の部屋で休んでるぞ」
根来はそう言うと、忙しそうに刑事の群れの中へ歩いていった。
祐介は、立ち上がると、隣の部屋へ向かった。それは月菜の部屋だった。予想に反して洋風で、全体に装飾的で、つくりものめいていた。目の前の肘掛け椅子には、まったく悲しみにくれて、血の通わぬ人形のように成り果てた憐れな少女が座っていた。そこには生命の輝きがなかった。いまや、彼女は姉と父を失い、唯一の兄が窃盗犯として逮捕される運命にあった。それは、一生癒えることない孤独の始まりを予感していた。
「月菜さん。羽黒です」
「……」
月菜は、ただ一点を凝視していた。それは、何もない空中だった。祐介は、彼女がどこか遠くにいってしまったような気がして、恐ろしくなった。
「月菜さん」
その呼びかけに月菜が答えることはなかった。祐介は、悲しみに沈んだため息をつくと、部屋を眺めた。そこに、大きな古めかしい時計がかけられているのを見つけた。いつから、ここにかけられているのだろう。
「月菜さん、この時計は……」
答えてくれないだろうと思った。しかし、彼女は呟いた。
「お姉ちゃんとこの部屋に住んでいた……その頃から……」
祐介は、月菜の凍りついた表情をまじまじと見つめた。
「その頃からあったの?」
「うん」
「それはいつ頃?」
「産まれた時からずっと」
「この部屋にお姉ちゃんと住んでいたの?」
「うん」
祐介は、立ち上がって、その古時計を眺めた。カタリカタリと振り子が揺れている。時計の盤面には、ローマ数字が並んでいた。祐介は、それをじっと見ていたが、しばらく見つめている内に、ふとあることに気づいた。そして、祐介はそのことに気づいて、途端に震えが止まらなくなった。それは、今まで分からなかった事件の秘密が一度に解けてしまったという衝撃だった。
……祐介は、そのまま部屋の外に飛び出した。




