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72 第三の殺人

 朝起きると、御巫遠山は殺されていた。どこにいるのか分からない。だから月菜と信也はこの祖父を探そうとしたのだった。まさかとは思ったが、押し入れを開けると、御巫遠山は体育座りをしているような体勢で、目を開いたまま、永久の眠りについていた。

 御巫家は不幸な家だ。遠山の妻はとうに亡くなってしまっていたし、菊江の夫も早くして亡くなった。それらは病死だったが、その上、菊江が殺され、日菜もまた殺されたのである。

 御巫遠山の死体が見つかった時、これが御巫家の呪いを象徴する出来事として受け取られたのも、ある意味では致し方ない事実だった。

 警察が駆けつけて、それこそ、いつにも増して破茶滅茶な捜査が行われた。それが根来流だった。

「いつ頃、殺されたんだ?」

 根来の視線はいつも以上に鋭く光っていた。御巫遠山は、夜中のうちに殺害されたものとみて間違いなかった。それも絞殺であった。押し入れの中には、懐中電灯が置かれていて、壁を照らしていた。ここにきて、三つ目の予告が当たったのである。

「……そして……息も出来ぬ……紐が絡み付いている……まっすぐな光が見える……最後の人影はどこにも見えない」

 根来は、その言葉の通りになったと思った。これで、残酷な霊媒殺人は終わりを告げたのだ。しかし、それで完結ではなかった。警察はこれから捜査をして、犯人を逮捕することに全力を注がなければならないのだった。


 根来は、見た目に反して煙草を吸えなかった。その煙草が吸えないということはさしたる問題でもなかったが、そんな根来でも、煙草を吸いたくなる衝動が起こることがあった。

 それはいわば、昭和の刑事ドラマに憧れていた頃の名残りで、こんな風に気持ちの整理がつかないような時に、かえって、彼をどこかナルシストにさせるものだった。

「これで終わりなのか……?」

 根来は、答えの出るはずのない問いを口にした。三人が殺されるはずだ。三人は殺された。それで、事件はぴったりと箱に収まったのだ。それは根来の第一の敗北を意味していた。第二の敗北は、犯人を捕まえることが出来なかった場合のことだ。

 根来は、憤激しなければならない。そして事実、彼は憤激した。それは彼の責任感がずたずたに苛まれて、跡形もなく水に流されたからでもあった。その微塵も残らぬ中に、最後の闘争が残されていた。

 彼は犯人を捕まえなければならなかった。そんな時、彼は走り出したくなった。だけれど、刑事捜査においてはまず考えなければならなかった。彼はそれが苦手だった。


 死亡推定時刻なんてどうでもよかった。そんなものを聞いて、またアリバイに振り回されるのは嫌だった。だから、死亡推定時刻なんて聞きたくなかった。

 根来は語るのである。これから、どのような戦いが待っているのか。

 粉河も祐介も沈黙していた。根来は犯人を捕まえる為には、命がけにならなければならないと思った。それは事実だった。

 祐介は、この事件の根底にあるものは、八年前の事件であり、さらには、十六年前の御巫遠山の起こしたという騒動だと考えた。十六年と八年前がつながり、それがさらには現在へとつうじる。そこに脈絡が生まれ、事件の真相が明るみに出るはずである。

 第三の殺人と過去の出来事への追求が始まろうとしていた。

 祐介は、なんと思っていただろうか。負の連鎖を止めなければならないと思った。犯人は、人を殺して、不安から解き放たれようとしている。それは間違いだ。なぜならば、人を殺しても、不安が消え去ることなどないのだから。


 ついに事件は最終局面を迎えようとしている。祐介にも、根来にも、また粉河にも、それがはっきりと分かるから不思議だった。そして、それはもはや恐ろしさとなって、心中をかき乱してゆくのだった。

 ……戦うべきか? 戦うべきだ。

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