71 根来は語る
祐介はふと思い出した。
ある時、
「良い社会とは何ですか?」
と祐介が根来に尋ねると、根来は、
「そんなものは、個人が個性をもって輝ける社会が良いに決まっている」
と呟いたのだった。根来もまた個性が強烈な男であるから、それが警察という組織の中で、否応なしに均一化させられることに抵抗を感じているのだろう。
人間は感情を持つ動物であり、繊細な感性を持ちうる可能性を授けられながら、権力を持つものは、時として人間に、ひどく鈍感で、ロボットのような生き方を強制するものだった。しかし、人間はロボットではない。原始人でもない。人間は人間だ。だから、根来は時として破壊的な行動にも出るし、問題も起こすし、入院する羽目になるのだった。
「しかし、個性的な人間ばかりですと、社会的な調和が損なわれるのではないですか?」
「個性的な人間を排除してまで、社会的な調和なんて保つ必要もない。俺は、個人が輝ける社会を作るために戦ってきたんだ。それが絶対的な理想だ」
根来は、そんなことを語ったものだった。よく考えてみれば、根来の生き方そのものがまさにそれだった。捜査は、彼のせいで難航しているとも言える。それでも、彼は自分のやり方を貫いていたし、通り一遍の捜査では駄目だという気持ちがあったのだろう。




