65 死亡推定時刻の問題
「ところで、月菜さんが浴場から出たのは何時何分のことですか?」
粉河はある点に気付いて、月菜に質問した。
「さあ。でも、それから私は洋服を着て、温泉の前で雑談しました。それから十五分程度経ってから、絢子さんと別れたんです。その時は、確か一時四十分でした…」
だとしたら、絢子と月菜が分かれたのが一時四十分であることから、月菜が最後に日菜を見たのは、その十五分前である一時二十五分ということになる。
「日菜さんが出て行ったと想像されている裏口は、どこにあるのですか?」
「脱衣所の脇にあります」
「なるほど。それで、日菜さんは、あなたがお風呂からあがった後、あなたの目を逃れて、その裏口から出てゆくことは可能ですか?」
「可能だと思います」
粉河は、根来の方に向くと、少し熱っぽい口調で、
「だとしたら、日菜さんの死亡推定時刻は、一時四十分から二時までの二十分間ではなく、一時二十五分から二時の三十五分間だったということになりますね」
と言った。
月菜はそこまで話し終えると、ぐったりした様子であった。
それから、月菜を御巫家の屋敷に一旦帰すと、祐介、根来、粉河の三人は再び、五色荘に集合した。
「急激に事件が展開して、理解が追いつかないところが多々あるが、これによって、重大な事実が分かった。日菜の死亡推定時刻は、一時二十五分から二時までの三十五分だったんだ……」
根来は嚙みしめるようにそう言うと、これをどう考えてよいものか悩んだ。しばらく、考えてからはっとしたように顔を上げると、
「ということは、善次にも犯行が可能ということか?」
と言った。
「なんですって……?」
「あいつには、一時三十五分より以前のアリバイがない。死亡推定時刻が一時二十五分から二時なのだとしたら、犯行は可能ということだ」
その言葉に、粉河は驚き、祐介もすぐさま頷いた。
「そうですね。つまり、双子がすり替わっていたおかげで、死亡推定時刻は誤解されていたわけです。実際には、日菜さんは一時四十分よりも以前に殺害されていた可能性があるわけです」
途端に根来は、善次が疑わしく思えて仕方なくなった……。




