59 碁石の殺人
その後、根来は、五色村をあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、体をフルに動かしていて、分身の術を使っているように神出鬼没だった。まわりの捜査員は、相変わらず、根来に振り回されている。
同じ頃、祐介は五色荘の中をうろつきながら、事件について考えていた。時刻は、午後四時。
祐介は考える。
まず、第一の謎は、口寄せなのだ。予言にせよ、予告にせよ、あのような口寄せが行われなかったならば、この事件はそれほど謎めいたものとも受け取られなかっただろう。
なぜ、巫女はあのような奇妙な口寄せを行ったのだろうか。故意か、それとも偶発的か。
また、月菜はあの時、確か、八年前の犯人は「女性」だったと語ったように思う。そうだ。口寄せの前に、あの八年前の岩屋における密室殺人が起こっていたのだ。そして、それが昨日の口寄せとつながり、日菜殺しに結びついたのだ。
したがって、全ての謎は、八年前の岩屋の密室殺人に立ち返って考えなければならないのだろう。
(この事件は複雑だ……)
そう考えざるをえなかった。まさにそんな時だった。祐介の携帯電話が着信した。見れば、根来からだった。
「はい」
『俺だ』
「えっ?」
『根来だ』
「えっ?ネゴト?」
『根来だ! 大変なことが起きた。すぐに善次の自宅に来てくれ』
「何があったのですか?」
『また殺されたんだ! 畜生っ!』
根来は、熱り立ったように電話を切った。祐介は、訳もわからぬまま、急いで荷物を持って、五色荘を飛び出した。
田んぼの広がる風景の中を、祐介は駆けていった。太陽が眩しく、空気が澄んでいたので、遠くの山並みまで見通せた。しかし、景色を楽しんでいる様子はなかった。
しばらく走ると、丘の上に御巫家の邸宅が見えてきた。建物はふたつ並んでいて、その一段、低いところにあるのが善次の自宅である。
門前にパトカーが止まっていて、あからさまに困惑している警官が一人立っていた。
すぐに粉河が、門から飛び出してきて、祐介を手招きをすると、
「羽黒さん。こちらです!」
と叫んだ。
「何があったのですか?」
「また殺されました」
「被害者は誰です?」
「御巫絢子です。自室で首を絞められて、倒れているところを、父の善次が発見しました」
「絢子さんが……!」
祐介は驚いて、その後の言葉が続かなかった。
「とにかく、現場をひと目、見てください! 異様な状況ですから……」
「異様な……」
二人は、殺害現場である二階へと駆け上がった。ドアは開け放たれていた。その室内の光景を見て、祐介は凍りついた。
本棚とソファー、そして小さな丸テーブルの並んだ足元の床に、長い髪の毛を振り乱して、口から泡を垂らした、御巫絢子のうつ伏せの死体が横たわっていた。
その頭の近くに、足つきの碁盤が置かれ、絢子の死体の上や付近の床には、白や黒の碁石が、大量にばら撒かれていたのである……。




