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4 羽黒祐介の困惑

 胡麻博士の恐ろしいところは、その言葉が冗談なのか本気なのか、皆目、見当がつかないところだった。

「……それで、羽黒さん。あなたは八年前に起こった殺人事件をどのようにお考えなのですかな?」

 胡麻博士は祐介をじっと見つめると、そう言った。

「まだ、これといって考えはまとまっていませんが……」

「それは確かにそうでしょうな! あなたは今日到着されたのでしょう?」

「ええ、それもたった今さっきのことです」

 祐介はそう言うと、胡麻博士はしきりに頷きながら、祀られてる仏をちらりと眺めた。


「私は、殺人事件の捜査は専門ではないので、なんとも言えんが……。八年前に起こった天才霊媒師の死、そして、その娘が霊媒師になって、その母親の霊を口寄せするというのは、世界的に見ても前代未聞のことです……」

 また胡麻博士は、少し講義調になって、語り始めた。

「そうですね……」

「羽黒さん。あなたは、今回、被害者の霊が口寄せされることの真の目的を、重々ご承知のことと思う……」

 胡麻博士はじろりと祐介を睨みつける。

「ええ……」

「それは、殺人犯を告発させる為ですな……」

 胡麻博士は、ハンカチで額を拭う。


「そこで疑問なのだが……もし、巫女が口寄せをして、誰かの名前を告発したとしましょう。その時、あなたはどうされるつもりですかな?」

 祐介は、胡麻博士の試すような目つきに気付いて、少しばかり冷や汗をかいた。

「僕にとっては巫女の語ることも、一つの意見にすぎません。あくまでも、犯人は自分自身で調査するつもりです」

 その言葉に、胡麻博士はにやりと笑いを浮かべると、

「あなたはシャーマニズムを目の当たりにしたことがないから、そのようなことが言えるのだ……」

 祐介は、その言葉の重みに思わず、押し黙った。

「あなたは、この世界のことを知らない。そのあなたが、この村で調査をすることで、真犯人を特定することはできるかもしれぬ……。しかし、霊界の恐ろしさを知らないあなたが、思いもよらぬ、深手を負わないことを切に願っておりますよ……」

 それは悪意なのか、善意なのか、祐介には胡麻博士の不気味なオーラのせいで、まったく判断できなかった。


 胡麻博士は民俗学者らしく、祀られている仏たちを眺め出した。心霊現象ばかりではなく、ちゃんと民俗学らしいことにも興味があるらしい。

「ちなみに、こちらは何という仏像なんですか?」

「えっ……これですか……?」

 胡麻博士はちょっと浮かない顔をして、祐介の方を見ると、しぶしぶ答えた。

「本尊は、どうやら薬師如来のようですな」

「薬師如来……? それって、どんな神さまですか?」

 胡麻博士は、祐介のその言葉に、露骨に嫌そうな表情を浮かべた。

 祐介はもう二、三尋ねようとしたが、胡麻博士の呆れたように開いたままの口を見て、少し躊躇した。胡麻博士は、仏像を眺めているくせに、あまり仏像の話は語りたくもないらしい。それでも、気になるものは仕方ない。


「あの、それじゃ、このまわりにいらっしゃる小さな仏像は?」

「ああ……これはね、十二神将……」

「それじゃ、薬師如来の横にいる二人の仏像は?」

「日光菩薩と月光菩薩……嫌ですね、あなたは。そんなことを聞いてどうするんですか」

「えっ……どうするわけでもありませんが、ちょっと気になりまして……」

「ふん。あなたね。大体、それぐらいのことも知らんで、この五色村の殺人事件が解けるのですか……!」

 祐介は、よほど初歩的なことを尋ねていたらしく、完全に、胡麻博士のご機嫌を損ねてしまった。そうさて、胡麻博士は不機嫌なまま、さっさと本堂を出て行ってしまった。

(参ったなぁ……今回の事件って、民俗学に詳しくないと解けないのかなぁ)

 そんなはずもないと思うが、祐介はなんとなく頼りない気がしてきたので、夕方にでも、知り合いの群馬県警の刑事、根来警部(ねごろけいぶ)に、電話をかけてみようと思った。

 ……ただ、根来警部が、こういうことに詳しい保証は微塵もないが。

(俺はな、怖いもんは駄目なんだよ……)

 そんなことを言っていたような気が……。

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