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43 三人の想い

 気がつけば、外は真っ暗だった。窓の外には静寂が……それは室内にもはびこっていた。どうしようもないほどに虚しさの立ちこめる夜の始まりだった。


 そればかりではなかった。この事件に関わりを持つ人間ならば、誰しも不安を抱えていた。

 日菜が死んだことは、幻みたいだった。薄ぼんやりして、それはとらえどころもないものだった。それでも、唐突に、彼女の死が現実(リアル)であると知らされることもあった。それは、感覚が冴え渡り、全てが生々しくなる瞬間に訪れるのであった。

 彼女は死んでしまった……死んでしまった……。そんなことばかり、悔やんで、悔やんでいても、すべては返ってくることのない真実だった。

 祐介は思うのだった。人の一生は短いものだと。泡のように、はじけて、消えてしまった、そんな命ばかりだった。悔やんで、悔やんでも、すべてを過去という取り返しのつかない日々が覆いかくしてゆくのだった。

 ああ、この夜の闇は誰の心をうつしているのだろう。悲しみにくれた人びとの心なのだろうか。不安に怯える彼らなのだろうか。それとも、殺人を犯してしまったあの人なのだろうか。

 そんなことはつゆ知らず、夜はふけてゆく。ただ、すべてを覆いかくしてゆくように。


 事情聴取だとか、現場検証だとか、そんなものは何一つ、面白みのない単純作業みたいに思えた。

 その一つ一つをこなしてゆく。気だるさ以外に何があるだろう。慌てる人々、悲しむ人々、すべての心の底には悲しみが流れているということが嫌というほどわかるこんな夜が、根来は嫌いだった。

 どうしようもないこともある。これが俺の仕事で、俺といったら、すべての人の心を癒せるわけもなく、ただただ悲劇に苦しむ人々を見守るばかりで、どうしようもなく自分が嫌になってくるものだ。そんな夜が、根来は嫌いだった。


 帰宅してゆく人々。彼岸寺の本堂は、味気のない照明に照らされていた。

 夕空を見ずに夜を迎えてしまったな、と粉河は、なんだか馬鹿みたいなことを考えていた。

 これから先、何が起こるのか、それは誰にも分からない。分からないことばかりで、自分に何ができるのか考えた。

 ……仕事だ。粉河は思った。

 感情なんか捨ててしまって、ただ地道に捜査を続けてゆけば良いのだと、そんなことを思った。でも、それができたら、苦労はしない。

 それでも、自分には、ただ働くことしか、道は残されていないようだった。


 気がつけば、外は真っ暗だった。窓の外には静寂が……それは室内にもはびこっていた。どうしようもないほどに虚しさの立ちこめる夜の始まりだった。

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