42 羽黒祐介、アリバイをまとめる
羽黒祐介が部屋に入ってくると、もう事情聴取という雰囲気ではなくなってしまった。祐介は、そもそも、根来と一緒にいたから、元よりアリバイがあるし、容疑者扱いではなかったのである。
「羽黒さん。なかなか複雑な状況ですよ……」
粉河は、一連の状況を説明した。祐介は頷きながらしっかりと話を聞いている。話が一段落ついたところで、
「なるほど。これは、アリバイが問題となりそうですね」
そして、祐介は机上に用意した紙にペンを走らせた。
*
・絢子 (アリバイなし)
12:00〜12:50 口寄せの部屋、居間。
12:50〜13:40 日菜と五色温泉で入浴。
13:40〜14:30 自宅へ向かい帰宅
・善次 (アリバイあり)
12:00〜12:30 口寄せの部屋、居間。
12:30〜13:35 彼岸寺を出る、自宅、移動
13:35〜14:00 松岡(兄)宅
14:00〜14:30 帰宅
・月菜 (アリバイなし)
12:00〜14:00 彼岸寺の別室で睡眠。
・信也 (アリバイあり)
12:00〜14:00 口寄せの部屋、居間。但し、四回外出している。
14:00〜14:30 自由時間
・胡麻博士 (アリバイあり)
12:00〜13:00 口寄せの部屋、居間。
13:00〜14:30 里田百合子と共に五色村資料館へ。
・里田百合子 (アリバイあり)
12:00〜13:00 口寄せの部屋、居間。
13:00〜14:30 胡麻博士と共に五色村資料館へ。
・法悦和尚 (アリバイあり)
12:00〜14:00 口寄せの部屋、居間。
14:00〜14:30 自由時間。
・尾崎蓮也 (アリバイなし)
12:00〜13:00 口寄せの部屋、居間。
13:00〜14:30 彼岸寺を出る。帰宅
・哲海 (アリバイあり)
12:00〜13:00 口寄せの部屋、居間
13:00〜14:30 寺務所へ
(13:40〜14:00)寺務所で、ジャジー松岡と電話。
*
「日菜さんの死亡推定時刻は、一時から二時の間です。絢子さんの証言を信じるならば、一時四十分まで日菜さんは生きていたということですから、犯行時刻はそのうち、一時四十分から二時までの二十分間に限定されます。さらに、殺害現場が彼岸寺から片道十分の位置であることも考慮しなければなりませんね。アリバイがないのは、絢子さん、月菜さん、尾崎蓮也さんの三人でしょう……」
祐介の言葉を聞いて、根来は大きく頷くと、
「絢子さんと月菜さんが怪しいな……」
「そうでしょうか。私は尾崎蓮也をもっと追求すべきだと思いますが……」
粉河はかなり不満げな口調だった。
「この三人は特に詳しく調べてみよう……。それとだな、円空仏の件はどう考えればいいんだ」
祐介は少し考えると、首を横に振った。
「さあ。手がかりが少なすぎます」
「円空仏については、五色村資料館の里田百合子に話を聞いてみよう。仏像の写真資料を保存しているかもしれんしな……」
「ええ」
それから、祐介は、何事か考え込んでから、根来の顔を見ると、
「根来さんはしばらく、この五色村から離れない方が良いですね」
「どうしてだ……」
祐介は首を横に振ると、こう言った。
「忘れたのですか。あの予言が正しければ、あと二人ほど殺される可能性があるのですよ……」