41 哲海とジャジー松岡
哲海は、少し落ち着かなそうな顔をして現れた。まさに彼こそ、最後の証人であった。骨の折れる作業だった。無論、これからも捜査は続けないといけない。それでも、一応の一区切りがつきそうに思えたのだった。
「あなたは口寄せの後、どこにいましたか?」
粉河の質問が始まる。
「皆さんと一緒に口寄せが行われた部屋にとどまっていたのですが、一時になってから、私は寺務所の方に移動しました。そして、一時四十分ごろに、寺務所に電話がかかってきまして、二時頃まで、二十分程度、電話をしていました」
「その電話の相手は誰です?」
「ジャジー松岡です」
「ジャジー松岡?」
粉河は眉をひそめて、問い返した。なんだ、そのお笑い芸人みたいな名前は。
「すみません、うっかり癖で。五色荘の店主である松岡さんのことです」
「確かに彼はジャズがお好きなようだが……、何の電話だったのですか」
根来が横から口を出した。粉河が少し嫌そうに根来を睨む。(いいじゃねえか、ちょっとぐらい)と根来は粉河を見返した。
「私にレコードを一枚下さるというお話でした。そうなりますと、私もジャズが好きですので黙っていられませんでした。それで、つい話が延びて、二十分あまりも話してしまいました。そういえば、ジャジー松岡は、遠まわしに口寄せのことを聞いてきていました。松岡さんは、実はそのことが心配でかけてきたのかもしれません。そうして、気がつけば二時になっていました」
なるほど、ジャジー松岡も口寄せを心配していたのかもしれない。
「その後は?」
「寺務所にいました」
「それを証明する人は?」
「いません」
何はともあれ、哲海は、犯行が行われたであろう午後一時四十分から二時までの間、五色荘のジャジー松岡と電話をしていたということである。電話の履歴などを調べて、確かに彼が言った通りであれば、アリバイは成立と言えるだろう。
「どうも。よく分かりました。ところで、円空仏がなくなったそうですが、心当たりはありませんか?」
「祖父から聞きました。残念ながら、何も知りません」
粉河はその答えを聞いて、残念そうに頷いた。
しばらく、哲海を事情聴取した後、退室させた。それから、五色荘の店主、ジャジー松岡に電話をかけた。取り急ぎ、事情を聞くと、確かにその時間、彼岸寺の寺務所に電話をかけて、二十分程度、哲海と通話をしていたという。
「彼はアリバイが成立しましたね」
「……そうだな」
根来はつまらなそうに頷くと、何かを思い出したものらしく、粉河の顔をじっと見据えた。
「次はあいつか……」
「羽黒祐介さんですね」
……粉河は感情のこもらない、無機質な調子でそっと答えた。