34 口寄せの謎
「ところで、確認しなければならないことが一つありまして……」
粉河は聞き忘れていたことに気づいて、尋ねた。
「どういうことでしょう」
「日菜さんの背中には傷跡があるそうですね」
「はい」
「いつ頃に、どういう理由で傷跡がついたのでしょうか」
そう言われて、月菜は少し思い返すように視線を巡らした。
「あれは、三年ほど前に交通事故にあった時についたものだと思います」
「三年前ですか。なるほど。分かりました。それと、犯人に心当たりはありますか?」
「私の知る限りでは……誰も犯人とは思えません」
その言い方には、やけにきっぱりとしたところがあった。ところがすぐに、
「ですが……」
少し戸惑いが見えた。
「八年前の母を殺した犯人は、きっと姉を殺したいでしょう……」
「それはなぜです……」
「姉は、その時、殺害現場の中の木箱に隠れていました。もしかしたら、犯人の顔を見ているのかも……」
「わかりました……」
月菜にはここで退室してもらった。
「どう思う?」
根来は、月菜が居なくなるのを見計らって、粉河に尋ねた。
「アリバイもありませんし、殺人予告とも取れる口寄せを行ったのは他でもない彼女ですからね。まず、一番疑わしい人物と言えるでしょう」
「それは確かにそうだな。しかし、なんだって、あんな予言みたいなことを口寄せで口走ったのかな」
それが根来には腑に落ちない点だった。
「この事件を超自然的なものに思わせる為でしょうか、それとも、犯罪者的な虚栄心の表れか……」
そう言いながら、粉河も割り切らない。
「どうにも、そんな単純な話だとは思えねぇんだけどな。もしかしたら、月菜さんは誰かに弱みを握られていて、あんな殺人予告をさせられたのかもしれないな……」
これは元はと言えば祐介の推理だったが、根来は自分の推理のように語った。
「月菜さんが犯人に操られていたというのですか、そうかもしれませんね。月菜さん本人が主犯でありながら、人前で本人が殺人予告をしたというのは、あまりにもナンセンスですからね」
「そうだな。月菜さんは犯人に指示されて、あんな殺人予告をしたのだろう。それを言わないところを見ると、よほど弱みを握られているか、脅されているかというところだろう」
「ええ」
頷いたものの、本当にそうなのだろうか、粉河は少し腑に落ちなかった。
「次は善次さんを呼びましょう。この口寄せを企画したのは善次さんなんですよね?」
「ああ」
そうだ。こんな口寄せをどうして計画しようと思ったのか、善次本人に聞いてみよう。
粉河は、この複雑な事件に頭を痛めた。双子の謎。日菜の背中の傷。一時四十分から二時という短い犯行推定時刻と容疑者たちのアリバイ。
羽黒祐介ならどう暴くだろうか。彼は今、待合室にいて居眠りでもしているのだろう。