2 彼岸寺の仏
羽黒祐介は、その老婆に教えられた通り、古びた店が並んだ参道をまっすぐ歩いて行った。
この参道には、祐介のほかに誰も歩いていなかった。異様に閑散としているのだ。それもそのはずだ。そもそも、この村は大した観光地でもないのだった。
最寄りの駅からは、一日に四本だけのバスが、この彼岸寺の参道に差し掛かるのである。それ以外には、タクシーを使うほかに、この彼岸寺に訪れる交通手段はなかった。
祐介は参道の先に、石の階段があって、その上に重たい瓦屋根を担ぎ上げているような、いかめしい山門が建っているのが見えてきた。
その山門には、怒り狂ったような凄まじい形相を浮かべた金剛力士像が、迫り来るように拳を振り上げていた。
(すごい迫力だな……)
祐介はそれを見て、ここは彼岸寺だということを理解した。
そこから、祐介が階段を登ってゆく。山門の向こう側にも、一段一段が大きな石段が続いていて、その階段の両側にある岩と植木の間には、顔面や身体のいたる箇所が崩れ落ち、欠け落ちた、地蔵の像がぼつぼつと並んでいた。
そうして、その階段の上に、厳かな瓦屋根の本堂が建っていたのである。
「これが彼岸寺か……」
ずいぶんと立派な本堂である。祐介は感心したように見つめていたが、日差しの暑さに、すぐに思い直すと、その本堂へと歩いていった。
本堂の開かれた扉、木造りの色の黒ずんだ賽銭箱の先へ入ると、堂内は薄暗く、蝋燭の灯りが爛々とともっていて、空気といったらひんやりと冷え切っていた。
堂内の真ん中には、荒削りな木彫りの仏像が何体か並んでいて、その真ん中には等身大ほどの仏像が座禅した格好をしていた。
蝋燭の灯りに灯されて、ぼんやりと浮かび上がった仏像の無表情。
人間ではない武具を身にまとった小さな仏たちが、それを取り囲むように並んでいて、目を吊り上げて激怒しているように見えた。
その姿は、祐介には妖しげで、不気味に映っていた。
祐介にはこれが何という仏なのか、よく分からなかった。
祐介はハンカチで口を押さえながら、その仏像をまじまじと見つめていた。その時、不意に後ろから声がした。それはいくぶん、空気が乾いてしゃがれてしまったような低い声であった。
「羽黒さんじゃありませんか。いつ、いらしたのですか……」
……祐介は振り返った。