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21 御巫家の屋敷

 ベルを鳴らすと、御巫信也が出てきて、二人を奥へと案内した。なんで巫女の家がこんなに豪華なのか、よくは分からないが、祐介と根来は案内されるがままに玄関の広い土間で靴を脱いで、座敷に上がった。

「……あっ」

 根来は小さな声を出した。根来が見ている方向には日菜とも月菜とも見える少女が座っていた。

 根来がその少女を見るのは八年ぶりのことだった。あの事件の時は十一歳であったはずだが、今ではずいぶん大人らしくなっていた。ただ祐介が感じたように、非常に未熟な雰囲気も多分に残っていたのであった。

 少女は、まだ巫女の装束をまとってはいなかった。ラフな白いTシャツにデニムのショートパンツを履いているのだった。

 根来は、これが日菜なのか月菜になのかは分からなかった。しかし、信也はすぐに、

「月菜」

 と呼んだ。

「月菜さんですか」

「ええ、髪の結び方を変えてあるのです。月菜、根来さんと羽黒さんがお見えになったよ」

 ところがその少女は少しも血の通わない人形のように微動だにしなかった。しばらくして、こちらをちらりと見つめたが、すぐにうつむいてしまった。


「やはり、口寄せの前ですので、あまり人と関わりたくないのでしょう」

 そう言うと信也は、羽黒と根来を連れて、渡り廊下を越えた別の座敷へと向かった。

「本日、来られる方は?」

「まずは胡麻博士、そして祖父が教授をしていたころの門下生だった尾崎さん、それに叔父とその娘の絢子さん、法悦和尚に、そのお寺の哲海さん、それに五色村資料館の百合子さんがいらっしゃいます」

「そう、すらすらっと言われるとよく分からないが……」

 根来は資料を取り出して、よく見比べる。そうだ。思い出してきたぞ。まず胡麻博士、これは妖怪博士だ。そして祖父、こいつは歴史学者か何かだったんだ。その門下生の尾崎、こいつも研究家か何かだ。それに叔父さんって人とその娘。そして、坊主が二人。そして、村の資料館で働いている学芸員崩れ。

 根来の適当な理解では不十分であるが、これらの人物はだんだんと分かってくることだろう。


 根来と祐介は、案内された座敷で資料を眺めまわしながら、時折、庭の景色を眺めた。

 しばらくして、緊張した面持ちで胡麻博士が歩いてきた。

「大丈夫ですか?」

 胡麻博士は根来と祐介の顔を見まわすとそう尋ねてきた。

「何がですか?」

「緊張しておりませんか……」

「そこまでは」

「私は緊張しています。ああ、これから何が起ころうとしているのか、それを考えただけでも、手足が震えてしまう……」

 芝居がかった口調でそんなことを熱っぽく語りだすので、根来と祐介はちょっと面食らってしまった。

「冷静に行きましょう、胡麻博士」

「大丈夫です。大丈夫です。しかし、今日は何という日でしょう。あっ、見てください、あの山を」

「はい……」

「羽黒さん、根来さん、あの山から霊は下ってくるのですよ。山は日本人にとって聖なる領域だったのだ。これを山上他界というのですよ。ちゃんと見えていますかな?」

「はあ……」

 そんな薀蓄を語り始めると、少しリラックスしたらしく、胡麻博士に少しずつ笑顔が戻ってきたのだった。


 するとそこに、いかにも人の良さそうな色白の女性が案内されてきた。長髪で、にっこりと笑うとえくぼの出来る面長の美しい女性だった。

「胡麻先生……お久しぶりです!」

「百合子くんじゃないか。いや、久しぶりだ。羽黒さん、根来さん、百合子くんは私の教え子なのですよ。大学のね。地元に戻って、今は誰も来館しないのに人手不足な五色村資料館を切り盛りしているのだよ。実に良い生徒だった」

「いえ、照れますよ、先生……」

 祐介と根来は、胡麻博士の教え子か、と偏見のこもった目で疑うように百合子を見つめた。

「あなたもやっぱりオカルトの研究をなさっているのですか?」

 根来がそう尋ねると、百合子はさも可笑しそうに、

「オカルトの研究じゃないですよ。民俗学です。ねえ、胡麻先生」

「何を勘違いしているのですかね、根来さんは……」

 胡麻博士はやれやれと呆れた顔を浮かべて、根来を見ていた。

 ……根来と祐介は、存在感を消したかった。

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