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19 御巫菊江

 その時、胡麻博士は確かに天才霊媒師に思いを馳せているらしく、どこか遠い場所を見つめているようだった。

「五色村には江戸時代から巫女がいました。巫女は主に御巫家の人間が世襲していました。ところがその口寄せの儀式はかなり儀礼化したもので、真実の霊媒が行われているとは到底考え難い状況が続いておりました。その為、私はこの村の習俗にさほど関心を抱いてはおりませんでした。ところが、私は民俗学者仲間から天才霊媒師、御巫菊江の存在を聞かされたのです」

「御巫菊江……八年前に殺された巫女だな」

 根来はぼそりと呟いた。


「ええ、私はその話を聞いてすぐに、その巫女に会いにこの五色村にやって来ました。私はその時のことを今でも忘れられない。はじめて会った御巫菊江は、何か尋常ではない雰囲気を醸し出していました。私は亡くなった祖母の霊をおろしてもらったのです。そして、その時に御巫菊江が行った霊媒は、私の知る五色村の口寄せの儀式とはまったく違うものでした……」

「つまり、新興宗教的な側面があったということですか?」

 祐介がそう尋ねると、胡麻博士はちょっと機嫌を損ねたように、

「新興宗教的な側面とはどういう意味ですかな。そもそも、あなたには新興と伝統の違いも分からない人間でしょう。そうではない。御巫菊江の口寄せは五色村の伝統を正確に踏襲しながらも、その内容のレベルを遥かに高めたものでした。そして、その為に下らない形式は取り払ってしまったのです」

 もはや何を言ってもお叱りを受ける気配があるので、祐介は静かになった。よくは分からないが、斬新なものだったらしい。


「まあ、御巫菊江の口寄せは、日菜さんと月菜さんに受け継がれているはずです。明日の口寄せを目の当たりにすれば、全て分かるはずです。非常に生々しい……これだけ話せば、あなた方も明日の口寄せが楽しみでしょう」

「楽しみと言いますか……」

 肝心のところがよく理解できなかった感があるが、祐介はそれ以上言うと胡麻博士を興奮させてしまうと思って敢えて言わなかった。まあ、胡麻博士の言う通り、明日になれば分かるのだろう。

「羽黒さんも、根来さんも……明日になれば菊江殺しの犯人も分かりますよ」

 そう言ってから、胡麻博士は意味深な笑いを浮かべた。そして、胡麻博士は満足げな顔をして退室していったのである。


 祐介も根来も、ぼんやりとその場に座り込んでいた。結局、何も分からない。何なんだ、これはちゃんと解決できる事件なのだろうか。

「なんか疲れたな……」

「根来さん。どうするんですか? 今から前橋に帰るのですか?」

「ここに泊まっていくよ。明日の口寄せっていうのも見ておきたいしな」

「口寄せに興味があるのですか?」

「そんなもん興味ねえけどよ。ただ、犯人が逮捕できなかった責任を感じてるのと、これ以上おかしなことにならねえか、ちょっと気がかりだからな……」

 根来はそう言うと、少し眠そうに目をこすったのだった……。

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