現実逃避したので異世界を歩きます
全然進まねぇ……けど頑張る
さて、メンチも食べ終えて、
なじみもいくらか落ち着きを取り戻したようだ。
「錯乱したのはほとんどお前のせいだけどな……。」
幸いな事に、わたしの羊羹と、なじみが爆買いしたメンチがまだあるため、
少なくとも二、三日は持つだろう。
それまでに街や村を見つけられれば、とりあえずは野たれ死ぬ事はない。
……見つけられればの話だが。
「…は?…いやいや、いくら異世界って言っても、村のひとつも無いなんて事は無いだろ?」
まぁ、最悪の想定は常にしておくものだ。
時になじみよ、君の周りには何が見えるだろうか?
「なんだよ急に?草原だろ?地平線の先までずーっと広がってるな。」
そう、360度あたり一面見渡す限りの大草原だ。
木は一本も生えてない。池も川も見当たらない。山どころか丘もない。
当然ながら街道どころか砂利道のひとつもない。
ではなじみよ、わたし達はどこへ向かえば街へ着けるだろうか?
「……ぇ?…」
ようやく理解が追いついたようだ。
なじみの顔は血の気が失せたように青くなっている。
心なしか呼吸も荒くなっている気がするが、気のせいだろう。
そう、今のわたし達は海を漂う漂流者と言っても過言ではない。
陸を求めてあてのない漂流を続ける、哀れな漂流者、または遭難者である。
「ひょう……りゅう?そうな…ん?」
そうなんです。遭難です。いやギャグではなく本当に。
わたしはそうなじみに告げた。ツッコむ余裕もないようだった。
なじみはみるみるうちに萎んでゆく。
「嘘だそんな馬鹿なだって私今年の運勢大吉で今年は健やかな年て書いてあったもんなんでどうして私がこんな目に会うの理不尽だやっぱり神なんていないんだ神はしんだんだ畜生畜生畜生………」
まぁまぁ、落ち着け。わたしはなじみの肩をたたく。
兎にも角にも、まずは動かなければならない。
なぁに、悪い予感というものは大抵杞憂に終わるものだ。なんとかなるさ。
それに死ぬのがきっかけで現実に戻れるという可能性もあるし、
希望は僅かだがにあるのだ。
わたしはなじみにサムズアップをしてみせる。
「要は絶望的ってことじゃないのよ!
ねぇ?嘘でしょ?私を揶揄って楽しんでるだけなんでしょ?そうなんでしょ?
本当は助かる手立てがあるんだよねそうだよね?!
お願いだから”そうだ”って言ってよぉぉ!!」
なじみは涙目になり、口調も険が取れて、なんというか少女のようであった。
若干の幼児退行も見受けられる。カワイイ。
頼むから泣かないでほしい。言っただろう、希望はあると。
そう言ってわたしは空を指差した。
「?…空?あの並んでるキラキラの事?」
その通りだ。というよりそれしかない。
行動の道標となるものが、この草原には存在しない。
ただただ広いだけの場所だ。これではどこへ歩いて行っても同じだろう。
それならいっそ、あの帯のように連なった星たち…仮に星の道と呼ぼう、
あの星の道に沿って歩いていった方がいくらかマシというものだ。
それに昔の人々は星を見ながら旅をしていたというし、
現実世界でも文明と星はとても密接な関係にあったという。
少なくとも、星の道の下には何もありませんでした。
な〜んてことにはならないだろう。
「…そっかぁ〜、……そうだよな!なら大丈夫だなきっと!
だったらこんなところで突っ立ってねぇで行こうぜ!
いそがねぇと日が暮れちまうよ!」
暮れる日がないことに彼女は気づいているのだろうか?
なじみは元気が湧いたのか、男勝りな口調に戻っている。
先程までの焦燥はどこにもなかった。少し希望が持てたようだ。
よきかなよきかな。
まぁ、先の仮説は文明、または知性を持った生物がいること前提の仮説なので、
この世界が白亜紀レベルの弱肉強食の世界であった場合はどうしようもないのだが。
「おーい、早く来いよー。」
こちらに手を振っているなじみを見て、わたしは思考を中断する。
なんだかんだでどうにかなるだろう。わたしはそう楽観的に考えることにした。
思考停止とも言う。正直疲れた。
ひとまずは星の道に沿って歩いて行くことにする。
きっとなんとかなるだろう。
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・・・三時間後、
「…イスタンブール」
ルクセンブルク
「クランベリージャム」
ムガル帝国
「……クラミジアトラコマチス」
スカンディナビア
「あ…あー……アドバンテージ」
ジブラルタル海峡
「う、ウラジオストク!」
クシャン帝国
「は?なにそれ?」
1世紀頃に実在した国の名前である。今はない。
「へ〜。じゃあクレンジングオイル」
ルーブル=リヴォリ駅
「どこだよそこ?」
パリの駅の名前である。
1900年に開業し、89年の間、ルーブル美術館に一番近い駅であった。今は違う。
「えぇ〜それありかよ?じゃあ、そうだな〜…」
現在わたしとなじみは、暇すぎて7文字しりとりをしていた。
さらにわたしは地名縛りと、”ル攻め”などの悪質な行為を禁止された。
よくもまぁ一時間も保ったものだ。我が事ながら感心してしまう。
と言っても所詮はしりとりなのだが。
「もうしりとりにも飽きたな。あんたに勝てる気しないし。」
”ん”がつかない限り終わらない遊びだ。
最初こそ楽しいが、長く続けば苦行でしかない。
そのためしりとりで勝敗がつくことはほぼない。
無間地獄か何かだろうか?
案外わたしたちのいるここが無間地獄かもしれないが。
「怖えこと言うなよ…ん?なぁ、あそこになんかあるぞ。」
わたしはなじみの指した方に目を凝らす。
そこには建物があり、明かりが灯っていた。
少なくとも人はいるようだ。
大きな門と高い石造りの壁と柵が、堅牢で強固なイメージを抱かせる。
はっきり言って砦だった。
「マジか…行って大丈夫なのか?殺されたりしない?」
殺されることはないだろう。せいぜい捕縛されて、牢屋にぶち込まれるくらいだ。死にはしない。
どっちにしろ行く当てもないのだから、行って事情を話すしかないだろう。
「日本語通じると思うか?」
通じる可能性は限りなく低いが、大丈夫だろう。
言葉が通じなくても意思は伝わっているものだ、身振り手振りや表情でなんとか察してもらおう。
「そもそもいい人たちじゃなかったら?」
祈りなさい。主の導きがあらんことを。
「チクショォォ!神なんか嫌いだ!!」
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わたしとなじみは砦に近づいていった。
門の前には兵士の格好をした男が立っていて、腰には剣を下げている。
「おい。お前らここで何をしているんだ?」
男は日本語で話しかけてきた。どうやら言葉は通じるようだ。
多少警戒されているが、仕方がないだろう。まずは警戒を解かなければ。
だがいきなり”異世界から来ました!”などどいえば、
わたし達は気狂いのレッテルを貼られるのは間違いない。
わたしだってそう思う。
なので事実をぼかして、事情を説明することにした。
曰く、
記憶喪失であると。
気がついたらここにいたと。
この場所のことは何も知らないと。
行く当てがないから助けてほしいと。
わたしは声を震わせ、必死さを醸し出しながら言う。
なじみはわたしの迫真に演技に言葉も出ないようだった。
「あー、お前ら”異界人”だろ、見慣れない服着てるし。
ここ無駄に広いから疲れただろ?
歩いてきたんだろ?そこの嬢ちゃんも大変だったなぁ。
今日はもう遅いから、ウチらの宿舎で休んでけよ。
ほらこっちだ、案内してやる。」
「え、あ、はい。…ありがとうございます。
でも、持ち場離れても、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫!どうせ誰も来やしねぇよ!」
わたしの迫真の演技は無駄だったようだ。
どうやら異世界のことも知ってるらしい。
過去にもわたし達のようなものがいたのだろうか?
後でこの男からいろいろ話を聞かなければ。
そう思いながら、ふと、空を見上げると。
空は黄昏時といった具合に、茜色に染まっていた。
先程は見当たらなかった太陽が沈みかけており、向かいの空には月が昇ろうとしていた。
「イーン=ティアケスィへようこそ異界人!いいところだぞここは!」
男はそう言ってわたし達を歓迎した。
「恋愛も戦闘も特典もないのに、展開はほしいとか何言ってんの?馬鹿なの?死ぬの?」と、友達にマジ顔で言われたので少し設定変えます。




