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ぼくのかんがえた現代版シンデレラ

 昔々、ある所に美人な妻と優しい夫が居ました。

 2人の間にはひとりの可愛い娘が居ましたが、娘が小学校に上がる前に妻は病気で亡くなってしまいました。


 お母さん、お母さんと泣く娘に、父であり夫であった男はテレビを与え、パソコンを与え、インターネットで寂しさを紛らわせるよう言いながら、身を粉にして必死で娘を育てました。


 それから6年後、娘は成長し、立派なオタクで引きこもりになりました。(笑)

 彼女は母親譲りの美人だったので、SNSではいつも人気者です。

 そんな事、父親は何も知りませんが。


「大切な話がある。ちょっと良いかな?」

 ある日、父にそう切り出された娘は、ダルいなとか考えながらも応じます。


「お父さんね、結婚したい人ができたんだ」

「……別に、良いんじゃない?」


 干渉されないなら、何でも構わない。

 娘はそう思って、適当に答えました。


 しかし、これが間違いでした。


 新しい母親は、実の母親以上の美人でしたがキツい性格でした。

 継母は娘をうす汚れた娘「シンデレラ」と呼び、炊事洗濯掃除を毎日やるように言いつけます。

 逆らえば、これまで集めまくったオタクグッズもコスプレグッズも捨てられる(既に1度逆らって一部を捨てられてる)ので、シンデレラは逆らえません。


 継母のいない所で手を抜けば、継母の連れてきた2人の姉達が目ざとく見つけて言いつけます。

 仕事を全て終わらせないと、パソコンもスマホも取り上げられたまま使わせて貰えません。


「くっそ、何で私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」


 家事の辛さとSNSができない寂しさと、継母達に対する怒りで、彼女は人知れず涙します。

 それでも、シンデレラにはどうする事もできません。


「ああ、私にもエメラのような強さがあれば!」


 心の底からそう思いながら、彼女は家族の寝静まったリビングで、深夜アニメに没頭します。


『陽の運命エメラ』

 運命に翻弄されながらも自分の力で人生を切り開く、強い女性が主人公のアニメに。

 この時間だけが、シンデレラにとって日常の辛さを忘れられる癒しの瞬間でした。




「いやだいいやだい! 今日はエメラの日だぞ!」


 場所は変わって、お城に王子様が住んでおりました。

 王冠とカボチャパンツ、白タイツからは程遠い、庶民と同じごく普通のシャツとパンツ姿の、中二病をこじらせた王子でした。


「そうは言われましても王子、明日は早いのですから、早く寝るようにとのお父上からのご命令です」

「アニメなど、録画して後から観ればよろしいでしょう。あまりわがままを言いなさんな」

「アニメはリアタイで観る事に意義があるんだ!」


 家来たちは説得にかかりますが、王子は聞きません。

 結局、力ずくで部屋に閉じ込められました。


「全く、息子の育て方を間違えたかのう。政治にも経済にも興味を持たず、アニメやマンガやらいとのべるとかいう小説ばかり夢中になりおって」


 王様は、こんな息子に心底困り果てておりました。


「せめて、女の子に興味を持ってくれれば、少しは国を背負う自覚が出るかもしれないですけれど」


 王妃も困り顔で、そんな事を呟きます。

 その言葉に、王様が反応しました。


「そうかそれだ! 嫁探しの為の舞踏会を開こう!!」




 そうして1ヶ月後、お城で舞踏会が開かれました。


「私達は舞踏会に行ってくるから、お前はその間に、家の中をピカピカにしておいで!」

「手を抜いたら承知しないよ!」


 そう言って、継母と2人の姉は着飾って出掛けていきました。


「はい、行ってらっしゃい」


 素直に従ったシンデレラは、継母たちの姿が見えなくなるや態度が豹変します。


(掃除なんて、誰がするか!)


 誰も居なくなった家を横切り、両親の寝室に忍び込むと、パソコンを立ち上げます。久しぶりのSNS。そこには、懐かしの面々が勝手気ままに騒いでいました。


『みんな、ただいま!』


 そう書き込むと、一斉に反応が返ってきます。


『おかえり!!!』

『デレラたんオヒサ☆^v(*´Д`)人(´Д`*)v^☆オヒサ』

『デレラだー!』


 その温かい反応に、これまでの辛さは一気に吹き飛び、涙が滲んできました。


『しばらく見なかったけど、リア充してたの?(笑)』


 シンデレラは、継母たちが来てからの事をありのまま、全て書き込みました。


『それは酷い』

『デレラたん頑張ったね(´;ω;`)ウッ…』

『俺達がついてるZE☆』


 そこから話は、何故かシンデレラを舞踏会に行かせてやろう、という流れになりました。


『俺、デレラたんにぴったしのモン持ってるぜ!』


 その言葉と同時に送られてきた画像は、エメラのコスプレ衣装でした。

「舞踏会とか興味ない」と送りかけていたシンデレラの手が止まります。


『おお、いいじゃん! じゃあ俺が用意するのはコレしかねーな』


 そうして上げられたのは、エメラの燃えるように赤いウィッグ。


『メイクはミα(゜Д゜ )マカセロ!!』


 女装レイヤーさんもノリノリです。


 当のシンデレラはというと、この流れを見てドキドキが止まりません。

 そして1時間後、シンデレラの家にはブサメンとフツメンとイケメンが揃っていました。


「おお、本物のデレラたんだ!」

「写真よりもかわいいなぁ」


 年頃の女の子を前にテンションが上がるブサメンとフツメンを制しながら、まずはイケメンがシンデレラにコスプレメイクを施していきます。


 その間、手の空いている男2人は部屋の掃除です。(笑)


「おお! デレラたん見違えた!」

「まだまだ。衣装とウィッグ着けたら、もっと化けるぜ」


 イケメンはそう言って、着替えたシンデレラにウィッグを被せます。


「ほら、シンデレラ。鏡を見てみ?」


 言われて見た先に映った姿に、シンデレラは声を失います。

 そこには、見慣れた自分自身ではなく、胸を熱くし恋い焦がれたエメラそのものの姿があったのです。


「今夜だけはお前はエメラだ。その姿で、舞踏会楽しんで来い。ただし、日が変わるまでには帰ってこいよ。エメラが中将と決闘する今日の話、見逃したくはないだろ?」


 シンデレラはこくりと頷き、タクシーでお城に向かいました。




 さて、ところ変わってお城では、主役である王子が不機嫌そうに舞踏会を眺めていました。


『国中にお触れを出してお前の為に開いた舞踏会だ。誰でもいい。この中から、好きな女性を選ぶんだ』


 父王がそう言う以上、王子にその命令は破れません。

 背けば、今度はSNS禁止では済まないからです。

 けれども正直、王子は三次元の女になど興味はありません。


 王子は悩みます。今はまだ、二次元の嫁だけを愛でていたい。けれども、ここで誰かを選ばなければ、今度はインターネットやアニメを禁止されかねない。いいえ、あの頭の固い分からず屋の父王であれば、それくらいの事はやるでしょう。


 何とか、この場を切り抜ける上手い手はないか。そんな王子の思考を遮るように、突然会場がざわめきました。


「まあ、何かしらあの格好」

「来る場所を間違ってるんじゃないの?」

「場違いも甚だしい。あんな者を中に入れるなんて」


 パーティードレスで華やかに着飾った女性達が、口々に騒ぎます。

 そんな人垣を抜けて現れたのは


「エメラ……!」


 燃えるような赤い髪、整った顔立ち、すらりと伸びた手足。

 そこにいたのは、毎週のようにテレビ越しに恋い焦がれたエメラそのものでした。


「何だあの者は!」


 つまみ出せ、と言いかけた側近を手で制し、王子はダンスホールにへと、一歩、また一歩と降りていきます。


 パーティーが始まってから今まで、つまらなさそうな顔で場を眺めていた王子が動いたのです。そこにいる全員が固唾を飲む中


「僕と、踊って下さい」


 王子は、シンデレラに声を掛けました。




 そこからはシンデレラにとっても、夢のような時間が過ぎてゆきました。

 ダンスなど踊った事のないシンデレラに王子は丁寧に指南し、年の近い2人は、いつしか互いに惹かれていました。


 しかしそんな時間も長くは続きません。


 一際大きな鐘の音を聞いて、シンデレラは我に返ります。


「やばい、帰らないと!」


 それだけ言い残すと、シンデレラはきびすを返して出口に通じる扉に向かいます。


「エメラ!?」


 王子は呼びかけますが、そんなものに構っていられません。


「タクシーを呼ばないと。ええっと……」


 シンデレラはスマホに気を取られ、門に続く階段を踏み外してしまいました。

 気付けば、全身をしたたかに打って段の一番下に転がっていました。

 階段から落ちたのだ、と即座に理解します。


「つっ……」


 幸い骨は折れてなさそうですが、手に持っていたスマホが見当たりません。

 大好きなエメラのイラストを全身に施した、お気に入りのスマホです。けれども、暗くて見つかりません。


「エメラー!」


 王子の声が聞こえます。仕方なく、シンデレラはその場を後にしました。




 心奪われた女性の姿を追って、王子は会場から飛び出します。

 が、深く広がる闇夜の中に、彼女の姿はもうありません。


「そんな……せっかく運命の女性と出会えたというのに……」


 悲痛な面もちを見せる王子のつま先が、何か固い物を蹴りました。

 拾い上げると、エメラがプリントされたスマホでした。


「ああ、神よ!」


 王子はそう叫ぶと、そのスマホを愛おしそうに握りしめました。




 次の日、テレビはどの局も舞踏会の話題で持ちきりでした。

 華やかなパーティーに突如現れたコスプレ女。その謎の美女を、王子が探している、という内容です。

 彼女のものらしいスマホの写真も公開されます。心当たりがある女は城に来るようにと。


 継母と2人の姉は、スマホの写真を見てすぐにシンデレラのものだと気付きました。シンデレラにSNSをさせないために、普段は両親の寝室にしまっていたものでした。

継母達はシンデレラを2階の部屋に閉じ込めて鍵を掛け、城に出掛けていきました。


「ちょっと! 開けて! 開けてって!」


 シンデレラは声を張り上げますが、彼女の他に家には誰も居ません。力無く、床にへたり込みました。


 思い出すのは、昨日の、夢のように楽しかった時間。それが今、継母と姉たちによって奪われそうになっているのだと、泣きたくなる位、理解できました。

 けれども、今の彼女になすすべはありません。


 その時でした。


「デレラたーん!」


 家の外から、声が聞こえました。

 窓から声のする方を見ると、そこには昨日のコスプレグッズを貸してくれたブサメンとフツメンがいました。

 シンデレラが顔を出したのを見て、2人はいえーい、と手を鳴らしました。


「お城、行かないの?」


 フツメンの方が聞いてきます。


「部屋に、鍵を掛けられてて……」


 2人は再び、手を鳴らします。


「やっぱりな。デレラたん、ちょっと窓から離れてて」


 ブサメンの言う通り離れると、部屋に茶色い物が投げ込まれました。


「縄ばしご。使い方分かる? フックが付いてるからそれを窓枠に固定して、もう片方をこっちに落として」


 言われた通りにすると、ブサメンが縄ばしごの下を手で引っ張って固定します。

 そのお陰で、シンデレラは簡単に部屋から抜け出す事ができました。


「城まで送るから。車乗って」


 フツメンの掛け声で3人が乗った軽自動車は、軽快に走り出しました。




 さて、お城では継母が片方の姉を昨晩のエメラだと偽って紹介します。

 王子はマジマジとその顔を見つめると、利き手を出すように言って手元の小ぶりな、けれども豪華な箱を開けます。


「やだ、こんな簡単に婚約かしら?」

「ボロを出さないようにね。結婚したら玉の輿なんだから!」


 舞い上がる姉に継母が声を掛けます。


 が、箱から出てきたのは婚約指輪ではなく、テレビで度々取り上げられているスマホです。

 王子はそのスマホの指紋認証部分に、無言で姉の人差し指を押し付けました。

当然、スマホは解除されません。


「お前は昨日の女ではないな。帰って良い」


 王子はそう告げますが、こんな事で継母たちは納得できません。


「待って下さい。これは何かの間違いで……」

「そうよ。だってそのスマホは、確かにうちのものなんですから」


 継母の言葉に、王子が片眉を上げます。


「うちのもの? それがまことならば、では、お前の家の娘が、昨日の女なのか!」

「はい、そうです!」


 王子の食いつきに、チャンスとばかりに継母は目を輝かせます。

 が、それも一瞬のこと。


「ならば、今すぐその娘を連れてこい。もし先程の言葉が嘘ならば、虚偽罪で訴えてやるからな!」

「は、はあ!」


 王子の態度に継母は青くなって策を練りますが、しかし良い案は浮かびません。けれども、今すぐシンデレラを連れて来なければ、王子を怒らせてしまいます。


「こうとなれば、あんたがシンデレラという事にするのよ。いい? 絶対にバレちゃダメ。何としてでも王子を騙し通しなさい」


 継母は、連れてきていたもう1人の姉を紹介します。


「王子、実は私、指紋認証機能は使ってないのです。パスワードを入れますから、スマホを返して頂けませんか?」


 姉だって馬鹿ではありません。そう言ってスマホを受け取るとパスワードの解除を試みます。けれども、シンデレラの誕生日を入れてもシンデレラの亡くなった母親の誕生日を入れても父親の誕生日を入れても、スマホはエラーを返すだけです。

 この姉も、分かりやすく青ざめます。


「どういう事だ?」


 王子は、あからさまに不機嫌そうです。


「い、いえ、これは何かの間違いで……ははは」


 継母は顔が引きつります。


「もうよい。誰か、この者達を独房に入れよ! 準備が出来次第、裁判に掛ける」

「い、いやぁ!」

「お助けを!」


 抵抗する継母達を守衛が連れて行こうとした時、部屋に人が入ってきました。シンデレラです。


「何だ、お前は?」


 不機嫌な声で、王子はシンデレラを睨み付けます。


「王子、この子がお探しのエメラです」


 彼女に代わり、一緒に入ってきたブサメンが紹介します。当のシンデレラは、緊張で何も言えません。

 王子が、ピクリと動きます。


「それは、まことか?」


 聞き返す王子の声には、疑惑の色が滲んでいました。


「何なら、彼女にそのスマホを渡していただけませんか? それで、全て解決するでしょうから」


 ブサメンの言葉に納得した王子が、解除してみせよ、とシンデレラの前にスマホを置きます。


 緊張のひととき。シンデレラはゴクリと唾を飲み込んで、そっとスマホに手を伸ばした時です。


「我が父なる太陽神ファーよ!」


 突然、ブサメンが叫びます。その声に、その場にいた全員が飛び上がりました。

 ですがフツメンだけは違います。一瞬で、ブサメンの意図を理解しました。


「「この、真の娘エメラに力を与えよ!」」


 そして、一緒にセリフを詠唱します。


「お、おお……!」

「ちょっと、止めて! 恥ずかしい!」


 これは、前回の放送で敵と戦う際に主人公エメラが唱えていた文句です。王子はこの演出に心躍らせます。

 シンデレラが恥ずかしがるも、2人は詠唱を止めようとしません。


「「目の前の困難を、敵を打破する力と勇気を」」


 ああ、もう。シンデレラはそう小さく呟いて、詠唱が終わるタイミングを狙います。


「「我が心臓と、この指先に与え給え!」」


 そして、2人の詠唱が終わった所で、スマホに触れました。


 スマホは小さく震えると、ロックを解除しました。

 何という羞恥プレイ。シンデレラは耳まで真っ赤になると、穴に潜りたいとばかりに両手で顔を覆って縮こまってしまいました。


 そんな彼女に、王子が近付きます。


「……女よ」


 縮こまった彼女に合わせて膝を付き、顔をのぞき込みます。


「つかぬ事を聞くが……『陽の運命エメラ』これまで放送された中で、どのシーンが一番好きだ?」


 シンデレラが顔を上げます。


「……第2話の、賢者様との旅の中で、自分の運命を知った時の、エメラの表情が変わる瞬間が好き」


 余程恥ずかしかったのでしょう。今にも泣きそうに目を潤ませながら、それでもシンデレラは答えました。

 それを聞いて王子は一度天を仰ぐと


「誰か! 父王を呼べ! 決めたぞ。この者が、私の生涯の伴侶だ」


 叫んで、勢いよく立ち上がりました。フツメンとブサメンがイエーイ、と手を鳴らします。シンデレラは、急な状況変化についていけません。


「話が前後してすまなかった」


 王子は、シンデレラを立ち上がらせます。


「改めて。僕と、結婚してください」


 その言葉で、シンデレラはようやく現状を理解できました。

 このプロポーズを受ければ、今の辛い生活からも別れられます。

 何よりシンデレラは、舞踏会での一夜が忘れられませんでした。

 悩む理由など、どこにもありません。


「……はい、喜んで」


 シンデレラは、震える声と笑顔でそう答えました。



Fin.








おまけ。


 ~結婚式の打ち合わせにて~

「シンデレラ。1つ相談なんだが、結婚式のお色直しに、舞踏会の時のコスプレ衣装を着てみないか?」

「エッ」

「僕は中将をやるからさ。それで2人で、9話の決闘シーンを再現させようよ!」

「何それ超面白そう!」


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[一言] なんだろう、読んじゃった。 すごく面白かった。
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