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その5

 ここは病院だった。ルーファスはとある病院に担ぎ込まれていたのだ。

 ベッドの上ですやすや眠るルーファスに何者かが忍び寄る。まさに音も立てずに忍び寄る。忍者か暗殺者か?

「……ルーファス……起きろ……」

 謎の人物が声をかけるが、ルーファスはすやすやと眠っている。が、しかし!

「うっ!(痛い)」

 腹を殴られた。受身全くなしのクリティカルヒットだ。これは強烈だ。

 目を開けるとそこにいたのは、音を立てずに忍び寄る達人カーシャだった。

「あっ、カーシャ、おはよ(殴って起こすの止めて欲しいんだけど)」

「こんばんわ、元気そうだな」

 と言われルーファスは辺りを見回した。

「……ここは?」

「病院だ。では、行くぞ」

「えっ!?(行くってどこに?)」

 カーシャはいつでも思いつき&唐突で生きる女だった。それが彼女の生きる道!

「ハルカのところに決まっているだろう」

 起きたばっかりで、ぼーっとしていたルーファスは、今の言葉を聞いて目を大きく開けてベッドからびしっとばしっとずぼっと飛び起きた。

「ハ、ハルカ!? そうだよハルカはどうなったんだ?」

「おまえの家が倒壊した後、いろいろあってな(あ〜んなことや、こ〜んなことが……ふふ)」

「家が倒壊だって!?(私の夢のマイホームが……じゃなくって)ハルカはどうなったんだよ!」

「だから、これからハルカのところに行くぞ」

 不適な笑みを浮かべるカーシャ。ハルカは本当にどうなってしまったのだろうか?

「ハルカは生きてるの?」

「微妙だ(あれを生きていると言っていいのか?)」

「微妙ってっどういうことだよ!」

「会えばわかる(ハンカチの用意だ……ふふ)」

 退院手続きを済ませてルーファスはカーシャに連れられ、ある場所に向かっていた。

 そこは再建されたルーファス宅だった。

 ルーファスは自分がへっぽこだという自覚があるので、もしもの時のために保険に入っていたのだった。今回はその保険のお陰で、自宅は魔法大工の匠の仕事によって、一日という驚異的な早さで再建されたのだった。

 自宅を見てびっくり仰天しているルーファスはカーシャに尋ねた。

「元通りになってるなんて……私はどれくらい寝ていたの?(まさか一ヶ月なんてことないよね)」

「三日だ」

「ホントに!?(三日でこんなに……アステア王国って建築技術もスゴイんだ)」

「だが、中身はからっぽだ。家具などは保険の対象外だったらしい」

 ルーファスが自宅のドアを開けると、すぐさま誰かが飛び出して来て二人を迎えた。

「おかえりルーファス!」

 飛び出して来た『何か』を見たルーファスは、それを指差し、首だけを動かしてカーシャの方を振り向くと、無表情のまま聞いた。

「何あれ?」

「ハルカだ」

「それは見ればわかるけど……(半透明じゃん、もしかして幽霊)」

 そう、ルーファスを出迎えたのはたしかににハルカだった。でも、一つだけいつもと違うところがあった。――半透明なのだ。

「ルーファス、まあ座れ、説明してやる」

「座れってどこに?」

 家の中には家具一つなかった。

「床にだ。ハルカもこっちに来い」

「は〜い」

 ハルカはカーシャに言われるままに飛んで来た。本当にふあふあ飛んで来た。それを見たルーファスは得体の知れ無い物を見る表情だった。

「だから何あれ?(幽霊にしか見えないけど)」

「床に座れ、わかりやすく説明してやる」

 この後、ハルカについての話を紙芝居や人形劇を交えたり交えなかったりしながら、二時間ほどでカーシャが説明してくれた。

 カーシャさんいわく、爆発に巻き込まれたハルカの肉体は滅び、奇跡的にマナだけが残った状態になってしまったらしい。つまり、わかりやすく言うと幽霊の親戚のようなものにハルカはなってしまったらしい。

「質問はあるか?」 

 ハルカが元気よく手を上げた。

「は〜い!」

「何だ?」

「アタシはこれからどうしたらいんですか? ぜ〜んぶカーシャさんの責任ですよ。カーシャさんが死者の召喚なんてしなかったら、アタシはこんな身体にならなかったと思うんですけど(もう、家に帰るどころじゃなくなっちゃた)」

「ハルカがルーファスを気絶させたのがいけないのだろ?(……シュッ! ……ゴン! ……バタン!)」

「うっ……(たしかにあれはアタシがいけないんだけど)。でも、ルーファス生きてたじゃないですか!?」

「それはあとで気付いたことだ。死者の召喚をしたのはワタシの責任ではない!(本当は生きているのを知っていたのだがな……真実は言えない……言えない……ふふ)」

 カーシャは確信犯だった。しかも、重大な秘密を隠してるみたいだ。だが、それを知るものは誰もいない。

 この場で一人会話について行けない者がいた。もちろんルーファスだ。

「あのさ、死者の召喚って何?」

 この言葉を聞いて二人はいきなり口を閉じて沈黙した。ハルカは内心かなり焦っているが、カーシャは平常心。

 全くしゃべろうとしない二人に不信感を抱くルーファスは、こちらも沈黙してハルカをじーっと見つめている。カーシャは口を割らないのでハルカに集中攻撃だ。

「(お願いだから見つめないで)」

「(絶対何か隠してる)」

 ハルカは下を向いて視線を反らす。だが、ルーファスの無言の圧力は続く。で、ハルカはあっさり負けた。

「……ごめん、ルーファス本当にごめんね。だって、だってね、ルーファスが死んじゃったと思って、それで生き返らせようと思って(不可抗力だよねぇ〜)。エヘッ」

ハルカは笑顔を浮かべてみたが、口元は明らかに引きつっていた。

「……生き返らせようと思ってねぇ〜」

 そう呟くと、ルーファスはカーシャを疑いの眼差しで見た。

「(なぜ、ワタシを見る)」

 心の中で動揺がダッシュしているカーシャだが、表情はいつも通り無表情で何を考えているのかわからない。

 だが、ルーファスにはカーシャが動揺しているのがわかった。二人の仲は長いので、テレパシーみたいな感じでルーファスはカーシャの動揺を見抜いたのだ。

「カーシャ、私が生きてること知ってたような気がするのは、気のせいだよね?」

「(へっぽこのクセして、鋭い)。ワタシもルーファスが本当に死んだと思ってな。ハルカがおまえに本をぶつけて、殺したと思って土に埋めようとしたのをワタシが止めなければどうなっていたことか……それで、生き返らせようと……(だが、あんな騒ぎになるとはな……笑えない……ふふ)」

 ルーファスの目がハルカに再び向けられた。

「ふ〜ん、土に埋めようとねぇ〜」

 この時ばかりはハルカも言い訳はできない。しかも、ここでカーシャの一言が!

「しかも穴に放り込む時、ジャイアントスイングだったな(大モグラ……ふふ)」

「(何で、カーシャさん余計なこと言わなくても)」

 一瞬失笑したルーファスは、無言で立ち上がり裏庭へ向かった。

 裏庭に着いたルーファスは、二本の材木をしばって十字を作り、簡単な墓標を作ると土にぶっ刺して、どこかに行ってしまった。

 ルーファスのことを追いかけて来て一部始終を見ているハルカは、ルーファスが何をやろうとしているのかさっぱりわからなかった。

「(誰のお墓作ってるんだろ?)」

 ハルカは疑問に思い、ぼーっと空を見ていると、ルーファスが花束とペンキを持って帰って来た。

 帰って来たルーファスが何をするのかとハルカは見ていると、ルーファスは立てた墓に何かを書いて花束を手向けると、その場で泣き崩れた。

 そっと近づき、ハルカはルーファスの後ろにふあふあと移動すると、墓に書かれている文字を見た。

「(……ルーファスって書いてある?)まだ、恨んでるの?」

 ハルカの声に反応して涙を浮かべながらルーファスが勢いよく振り向いた。

「あたりまえだろ!」

 そう言ってルーファスは墓に書かれてる文字を指差した。

「いや、だから……それは(あはは)」

「私が死んだとと思って埋めようとしたって、どういうこと!?」

「(だからって、そんなお墓立てなくても、それって当てつけでしょ)でも、いいじゃないルーファスはそれだけど、アタシの身体はこれなんだから」

 ハルカはルーファスの身体を指して、そして自分を指さして言葉を続けた。

「家には帰れないし、こんな身体になっちゃうし、どうしてくれるのよ!」

「たしかに家に帰れないのは謝るけどさぁ、その身体になちゃったのはカーシャのせいじゃん?」

「そのカーシャさんは今どこに居るの?」

「ここだ」

「わっ! ……ビックリさせないでくださいよ(何でいつもこの人幽霊みたいなあらわれかたするんだろ?)。あの、カーシャさん」

 ハルカはちょっと不満たらたらな顔をしてカーシャを見つめている。

「何だ?」

「カーシャさんが『死者の召喚』なんてしなかったらこんなことにならなかったんじゃないですか?」

「……終わったことだ気にするな(……ふっ……真実は言えない)」

 真実って何だカーシャ! 隠し事か!

 プチっという音がして、ハルカは自ら堪忍袋の緒を切った。

「『気にするな』って、この身体どうしてくれるんですか!(無責任)」

「みんな生きていたんだ細かいことは気にするな」

 ルーファスもそれに腕組みながら、うんうんと同意する。

「そうそう」

 バッシーン! という音が辺りに鳴り響いた。ルーファスの頬が真っ赤に染り、続けてハルカは思わず大きな声で叫んだ。

「よくなーい!」

 あたりまえだ。ハルカにしてみればまったくもってよくない出来事だ。だが、ルーファスは完全に八つ当たりで叩かれている。

 ちなみにマナの状態にあっても魔力が強ければ物に触れることは可能らしい。カーシャちゃんいくだが、さっきの紙芝居で言っていた。

 ハルカは家に帰れないどころか、身体まで失ってしまったのだ。まさに不幸のどん底と言ってもいい。だが、そこにカーシャはお得意の留めを刺す。

「一つ、さっきの説明でしていなかった重大なことがある。……このままだとハルカは消えてしまう(これはマナの還元理論の応用なのだが、二人に説明してもわからんだろうな……特にへっぽこには)」

「「えぇーーーっ!」」

 平然としたカーシャの言葉を聞いて、二人は声を合わせて驚愕した。これは超緊急事態だ。ハルカが消えてしまうなんて、……なぜそれを早く言わない!?

 ハルカはカーシャの襟首を掴むとぶんぶんと揺らした。局地的大地震、マグニチュード七・〇くらいか?

「どういうことですか!? アタシが消えるってどういうことなんですか〜っ!?」

 ぶんぶん振られるカーシャはハルカと顔を合わせようとしない。

「さ〜て、どうしたものかな?(方法はいろいろとあるがな)」

 カーシャは無表情のまま他人事のように言った。だが、この事態を引き起こしたのはみなさんご存知のカーシャだ。責任逃れはできない。

「どうしたもんかなじゃないですよ! ルーファスも考えてもよ、アンタも魔導士なんでしょ(へっぽこだけど)」

「考えてって言われても(魔導学院の時の成績悪かったからなぁ〜、あはは)」

 ルーファスは役立たずだった。

 まだまだ局地的地震がカーシャを襲っていた。

「カーシャさん、どうにかしてくださいよ!

「……方法が無い事も無い。だが、一時的な応急手段だがな」

 不適な笑みを浮かべるカーシャ。この女は何を企んでいるのか?


 そんなこんなで、一時的な応急手段を取るために、ハルカはカーシャに連れられてカーシャちゃん宅に行くことになった。ちなみにルーファスは生活に必要最低限の物を買出しに出かけるので別行動。

 カーシャの家の中は暗かった。まだ昼間だというのにロウソクの光が室内を照らしている。

「(よく、こんなところで生活できるなぁ〜)」

 ゴン! 案の定、お約束でハルカは何かに頭をぶつけた。

「いた〜い(何にぶつかったの?)」

「気をつけろ、散らかっているからな」

 ゴン! ハルカは今度は足をぶつけた。

「いた〜い、カーシャさん掃除とかしてるんですか?」

「してない(掃除なんて生まれてから一度もしたことがない)」

 掃除をしたことがないってどういことだよ? 汚いよカーシャ!

 物にぶつかること数十回、秘境大冒険の末にハルカようやくカーシャに連れられて、ある部屋にたどり着いた。

 この部屋はさきほどよりは明るい。ロウソクの光ではなく、部屋全体がぽわぁ〜と光っている。

 ハルカは部屋中を見回した。部屋には二本の大きな透明な円筒形の入れ物があり、管の中は液体で満たされ、下から小さな気泡が上へ上がっている。そして、その中には片方に出目金、もう片方には黒猫が入っていた。

「何ですか、あれ?」

 ごもっとも質問に対して、カーシャも質問で返す。

「どっちがいい?」

 カーシャは出目金と黒猫の方を指差している。つまり、どっちが好きかということなのか?

「どっちって? 何がですか?」

「あれはワタシのペットの出目金と黒猫だ(ちなみに、ジェファーソンとマリリンという名前だった)。もう既に死んでいるものを腐らないように保管してある」

「だから、どういうことですか?」

「どっちが好きかと聞いているのだ(ワタシのおすすめは出目金だ)」

「……黒猫(ちょっとヤナ予感)」

「では、黒猫の身体を使おう(出目金がおすすめだったのだがな……しかたない)」

「使うってどういうことですか?」

「あの身体の中に入ってもらう(本来はいつか生き返らせてあげるために保管しておいたのだが、死者の召喚が失敗したのでな……ふふ、衝撃の告白)」

 な、なんと、カーシャは黒猫と出目金を生き返られるために死者の召喚をしようとしたのだ。つまり、ルーファスが死んでいないのを知っていたことになる。

 ハルカしばしの沈黙。

「…………(アタシにネコになれってこと?)」

「では、はじめるか(ひさしぶりの実験だ……ふふ、魔導学院をクビになってから、おもしろい実験はしていなかったからな……ふふ)」

 カーシャの口の端が少し上がった。カーシャがこの不適な笑みをやると本当に恐い。だって何が起こるかわかないもん。

「カ、カーシャさん、はじめるって、な、何をですかぁ〜!?(な、何で不適に笑ってるのこのひとは!?)」

 ハルカ大ピンチ!

 恐怖に苛まれてハルカは猛ダッシュで逃げようとした。が、カーシャは床を滑るように移動して、ハルカの腕を掴んだ。

「逃げるのか?(ふふ、逃げても無駄)」

「逃げるなんて……ちょっとトイレ(カーシャさん、恐い)」

「マナの状態でトイレに行きたくなるわけないだろう?」

 ぐぐっとハルカの身体が引っ張られた。

「あ、あの、カーシャさん、ちょ、ちょっと心の準備が……(殺される!)」

 殺されはしないと思うが、いい実験台にはされるだろう。ハルカ危うし!

 カーシャに腕を引っ張られて部屋の奥に引きずられていくハルカ。彼女の運命はどうなってしまうのか!?


 数時間後、ルーファスの家にカーシャが訪ねて来た。

「こんばんわ、ルーファス」

「あれ? ハルカはどうしたの?」

 ハルカの姿が見当たらない。ハルカは一緒ではないのか……まさか、実験に失敗したとか!?

「ここにいる」

 ルーファスの目線はカーシャの持っている、携帯用ペットハウスに注がれた。

「ここにいるって、その中に?(まさか、そんなところに入るわけないじゃん)」

 カーシャは膝を付き、携帯用ペットハウスのドアを開けた。中から出て来たのは黒猫である。だが、普通のネコじゃななかった。人間の言葉をしゃべるネコだったのだ。

「……ルーファスただいま」

 聞き覚えのある声だった。そして、ルーファス驚愕!

「は、ハルカ〜っ!?」

 ネコ=ハルカは小さく頷いた。

「ネコになっちゃった(出目金よりはマシでしょ?)」

 しばし驚愕のあまり沈黙のルーファス。彼が次に取った行動は、カーシャの胸倉を掴むことだった。

「ど、どういうことだよ?(ネコって何で? カーシャがネコ好きなのは知ってるけど、意味不明だよ)」

「しかたないだろ、ハルカが消えてしまうよりはマシだろうに……(本当は出目金がよかった)」

 ハルカはワザとらしく、ネコっぽく、ルーファスに擦り寄った。

「にゃ〜んってことだからよろしくね!」

「はぁ〜?(何で、こうなるの!?)」

 ルーファスは頭を抱えて悩んだ。そんな彼を頭痛が襲う……可哀想なのはいったい誰なのか?

 ネコになってしまったハルカとルーファスの生活がはじまってしまった。

 果たしてハルカは人間に戻ることができるのか!?

 むしろ家に帰ることはできるのか?

 ハルカの運命はどうなってしまうのか!?

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