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その4

 カーシャちゃん考案の『おしゃれ泥棒大作戦』の実行日から二日が経ちました。

 あの作戦の後『ライラの写本』はカーシャちゃんが自宅で解読するからと言って持っていってしまったのですが……どうなったのでしょうか? 連絡すらありません。まさか、持ち逃げでしょうか?

 ハルカは椅子に深く腰を掛けながら、両手を天上に向けていっぱいに伸ばした。

「はぁ〜、いつになったら家に帰れるのかなぁ」

 その問いにルーファスはまるで他人事のように答えた。

「さぁ、いつだろーねぇ〜」

「ってあんたのせいでしょ!」

 瞬時にハルカは床に落ちている魔導書をさっと拾い上げると、ルーファス目掛けて投げつけた。

 ゴン! という音とともにルーファスの首がガクンと曲がり、そのまま床に身体が倒れ落ちた――。

「(当たっちゃった)」

 床に倒れたルーファスは身動き一つしない。

「ル、ルーファス! だいしょぶ!?」

 ハルカは凄まじい勢いでルーファスに近づき、膝を付いて床に倒れる彼の身体を思いっきり揺さぶった。

「ル、ルーファス!」

 返事がない。ハルカはかなり焦って、ルーファスの上半身を起こして肩をガシっと掴むとルーファスだけが大地震に見舞われた。ルーファスの首がガクガクと揺れている……骨折れてないか?

「ねぇ、返事してよぉ〜!」

 ハルカは思った。

「(殺したかも……ショック!)」

 ハルカ的大ショックのあまり、ハルカの身体からは力がすぅーっと抜けていき、支えを失ったルーファスの身体がパタンと床に転がった。

 ゴン! 床に頭がぶつかった。

「(殺っちゃった……)」

 灰色の世界が辺りを包み込む。

 ハルカはまばたきをせずに首をゆっくりと直線移動だけで動かし、床に転がるルーファスを見下ろした。

「……るーふぁす……生キテル?」

 ハルカの呼びかけに対して、返事がない……ただの屍のようだ。

「あぁぁぁぁぁっ! 殺っちゃった! どうしよう、どうする、何が、いつ(When)今日、どこで(Where)この家で、誰が(Who)アタシが、何を(What)ルーファスを殺した、なぜ(Why)不可抗力で、どのようにして(How)分厚い魔導書を投げて、なんてこったい!(Oh my God!)」

 ハルカは完全にパニクっていた。

「(どうするアタシ……!?)」

 ハルカは思いついた、ハルカ的に完璧な作戦を。

 作戦はこうだ。


 1.まずハルカちゃんは物置に行きます。

 2.そこでスコップを見つけ出して庭に行きます。

 3.庭についたら大人がひとりくらいが入れる穴を掘ります。

 4.そして、掘った穴に先ほど殺害してしまったルーファスを入れて土をかぶせてあげましょう。

 5.それが終わったら、手を綺麗に洗って、ルーファスを殺害した魔導書を焼き捨てて証拠を隠滅しましょう。

 6.全部の過程を終わらしたら、何食わぬ顔をして紅茶でも飲んで一休みしましょう。


「か、完璧だわ」

 ハルカはこぶしにぎゅっと力を入れて目をキランと輝かせると、さっそく作戦を実行に移した。まずはスコップを探し出し、次にルーファスを庭まで運ぶ。

 スコップを直ぐに手に入れ、第一肯定をすんなりとこなしたハルカは、次にルーファスの足を掴むと、力いっぱい引きずった。

「(重い)」

 そして、そのまま庭まで引きずって行った。途中何度か手に伝わる振動とともに鈍い音が聴こえたが気にしない。だって相手は死んでるんだから、エヘッ。

「あははは〜、早く穴掘んなきゃねぇ〜」

 ハルカ完全にイッてしまっていた。しかし、作業は冷静かつ淡々としていた。……やっぱりしていなかった。

 穴を掘るハルカの姿はまるで悪魔にでも取り憑かれたようであった。

「きゃはは、きゃはは」

 と奇声をあげながら一心不乱に穴を掘っているし、掘るスピードも異常なほど早い。

 穴を掘りはじめて、三分ほどで大人ひとりがすっぽり入れる穴が掘れた。

 落とし穴を掘ったことのある人ならわかるだろう。三分というスピードが異常な早さだってことが……。

「はぁ……はぁ……(これだけ掘れば)」

 ハルカの肩は大きく上下に揺れていた。あったりまえだ、穴を掘るというのはかなり重労働なのだから。しかも三分とは、『あんた凄いよ賞』を授与してあげたいくらいだ。

 一息ついたハルカはルーファスの足を掴んで、ぐるん、ぐるんと遠心力を使ってジャイアントスウィング風に掘り終えた穴にルーファスを投げ込んだ。

「(ひと段落完了)」

 ひと過程を終わらしたハルカは先ほどの穴掘りの疲れがどっと押し寄せ、倒れ込むようにバタンと地面に尻餅をついた。

「はぁ〜、疲れた……」

 空を見上げると青空に太陽が輝いている。――日差しが目に沁みる。

「(空って何であんなに青いんだろう?)」

 空を眺めるうちにだんだんと落ち着きを取り戻して来たハルカは、ことの重大さが今になってわかって来た。

「(……ヤバイ。人を殺して埋めちゃおうなんて、アタシどうかしてた。もし、こんなところ人に見られたら)」

「こんばんわ」

 突然ハルカの耳元で声がした。

 ハルカは頭を動かさずに目だけを動かし横を見ると、人の顔が自分の肩の所に後ろからニョキって出ている。

「こんばんわハルカ、今日は日差しが強いな」

「カ、カーシャさん!?」

 ハルカは思わず声を張りあげた。

「どうしたのだ、そんなに慌てて」

「な、何でカーシャさんが!?」

「どうしてって魔導書のことで来たのだが?」

「そ、そうですか、じゃあ家の中で話しましょう(ど、どうしよう)」

「そうだな、そうしよう。……ところでルーファスはどこにいるんだ?」

「えっ、ルーファスですか、ルーファスは、えーと、その、……どこ行ったんでしょうねかねぇ〜、あはは(言い訳が思いつかなかった)」

「そうか、ではあの穴は何だ」

 と言ってカーシャは前方の穴を指差した。

「あ、あの穴は……大モグラがさっき当然現れて……(大モグラって何? アタシの言い訳苦しすぎ)」

 少しの間沈黙があったがカーシャがその沈黙を破った。

「そうか大モグラが……(大モグラが……ふふ)」

「そうなんですよ大モグラが」

「では、その大モグラがルーファスを殺害して、穴を掘ってジャイアントスウィングで穴に投げ込んだわけだな」

「うっ……(もしかして、見られてたの)」

「どうした、顔が青いぞ(……ふふ)」

 ハルカは完全に観念して自白した。

「ご、ごめんなさい、アタシがやりました(もう、サイテー)」

「……見てた」

 カーシャはルーファスが死んだというのに、しかも、殺害したのがハルカだというのに全く驚きもしなかった。冷静なのか冷血なのかどうちらなのだろうか?

「いつから見てたんですか?」

「魔導書を投げたところからだ(……シュッ! ……ゴン! ……バタン!)」

 つまりカーシャは一部始終を見ていたらしい。

「ど、どうしましょうカーシャさん」

 ハルカはカーシャに抱きつき泣き崩れ、助けを求めた。涙がまさに滝のように流れている。

「……海に沈めてしまうのがいいのではないか?(コンクリートで固めて)」

 ハルカは涙目でカーシャを見上げている。

「(カーシャさん、そうじゃなくて)……うわ〜ん、もう私の人生終わりだわ」

「そうだ、そんなことより魔導書のことだが」

「そうだじゃなですよ、今はそんなことより(ルーファスが死んだんですよ……アタシが殺したんですけど)」

「そうかじゃあ」

 そう言ってカーシャは庭を見回し、庭の片隅に立てかけてあった大きめのベニヤ板をよいしょっと持ち上げて穴の上にパタンとかぶせた。

「これひとまず安心だ(たぶんだが)」

「安心ってベニヤ板かぶせただけじゃないですか!」

「細かいことは気にするな」

 決して細かいことではないぞカーシャ。

「だ、だって、カーシャさん」

 カーシャの顔が急に真剣モードになった。

「さて、外は日差しが強い、中でゆっくり話をしよう」

 と言うとカーシャはさっさと家の中に入って行ってしまった。

「カ、カーシャさん、待ってくださいよ〜」

 ハルカも仕方なく取り合えずカーシャに続いて家の中に入って行った。

 家の中に入ったカーシャは至って普段どおりで、勝手に自分で紅茶まで入れて飲んでいる。うさしゃんのティーカップで。

「済んだことは仕様がない、ルーファスのことは諦めろ(……一分間の黙祷を捧げます……Zzzz……ふふ)」

「カーシャさん、どうしてそんなこと言うんですか!」

「じゃあ生き返らせるか」

 カーシャはすらっとさらっと言い放った。

「えっ……?(生き返らせる?)」

 ハルカの中だけで時間が少し止まった。その間ハルカは全頭脳を集結させ、『生き返らせる』という言葉を検索したが、出た答えはやはり死者をこの世に呼び戻すという意味だった。

「(まさか……死んだ人を……生き返らせるなんて)」

「信じていないのか?」

 ハルカは首を横にぶんぶんぶ〜んと振ってこう言った。

「そ、そんな……でも(でもぉ〜)」

 カーシャは目を細めハルカを見つめ、ふんと鼻で少し笑った。その顔は自信に満ち溢れている。

「この前博物館で借りたライラの写本の中に『死者の召喚』についての記述があった」

「(借りたんじゃなくて、盗んだんでしょ)死者の召喚ですか?」

「そうだ、おそらく死者を蘇らせる召喚魔法の類だと思うが(たぶんだが)」

 また、たぶんかカーシャ!

 不安はいろいろとあったがハルカのこぶしには力が入っている。

「じゃあ、早くやりましょうカーシャさん」

 輝くハルカの瞳には希望に満ち溢れていた。


 そんなこんなで、ルーファス宅の地下室にカーシャは妖しげな機材を運んで来た。

 この地下室はルーファスが魔法の実験などをするために特別に作ったもので、中は異常なまでに広く、壁は頑丈にできているので決して外に魔法の影響が漏れないようになっている。

 召喚の方法は意外に簡単で魔方陣を描いて、呪文を唱えるだけらしい。カーシャいわくだが。

 カーシャはさっそく死者の召喚をはじめた。

 さっきから、ず〜っと不安でたまらないハルカはカーシャに聞いてみた。

「本当にこれだけでいいんですか?」

 ハルカはかなり不安そうな顔をしてカーシャを見つめた。

 カーシャはなぜかハルカと目線を合わせようとせず、淡々と魔導書を広げながら、魔方陣のミスがないかチェックをしていた。

「あのカーシャさん」

 ハルカはカーシャの顔を覗き込むように見ようとしたが、ハルカと目線が合いそうになると、不自然なまでに身体をクルって回して方向転換をしたり、突然上を見上げて考え事をしているフリをした。

「魔方陣は完璧だ、後は呪文を唱えるだけが、心がまえはいいか?」

 やっとこの時カーシャはハルカの方を見て目線を合わせてくれた。

「はい、いつでも(でも何かちょっと不安になって来た……)」

「それでは、呪文の詠唱をはじめる」

 ハルカは緊張のあまり唾をゴクンと飲み込んだ。

 カーシャはゆっくりと瞳を閉じ、魔導書を両手でパタンと閉めて、魔導書の表紙の上に右手をゆっくりと乗せた。どうやらこの魔法を使うためにはこの魔導書の表紙に手を乗せて呪文の詠唱をしなくてはいけないらしい。

「ライラ、ライララ、リリラララ……」

 歌を詠うように呪文の一節を唱えはじめると同時に、カーシャの立つ床の下からやわらかい風のようなものが巻き起こり、衣服を揺らし髪の毛を上に舞い上げた。

「(スゴイ、これが本物の魔法なんだ)」

 ハルカはちゃんとした魔法――これが魔法なんだと思えるものを今まで見たことがなかった。

 『美人魔導士のいる店(カーシャの魔導ショップ)』での事件の際はハルカは気を失っていたし、『おしゃれ泥棒大作戦』の時はルーファスが凄いスピードで走ってるのを見ただけだった。

 真剣な顔をしたカーシャの呪文詠唱はまだ続いている。

「ルラ、ルララ……死者の首を狩りし、太古の神よ、我は貴女の名を呼ぶ……」

 カーシャの身体が突然黄金の輝きに包まれた。これは強力なマナがカーシャの身体に注ぎ込まれている証拠だ。

 目の前で起きている出来事にハルカに圧倒された。

「(カーシャさんってスゴイ人だったんだ)」

 ハルカはそう思った。

 カーシャの呪文詠唱にチカラがこもる。

「慈悲を知り、悲しみを知る神よ、我の願いをどうか聞き入れてください。闇の中で眠る其を……」

 その時だった、階段を下りて来る足音が聴こえた。

「ルーファス!(何で生きてるの、ゾンビ!)」

 ハルカが見たものとは――それはあくびをしながら階段を下りて来るルーファスの姿だった。しかし、ルーファスは死んだはずでは?

「何だぁ、地下室にいたんだ二人とも。ところで何してるの?」

 頭が混乱するハルカ。呪文の詠唱を続けるカーシャ。そして、ルーファスは床に描かれていた魔方陣を足で踏みつけた。

「何をするルーファス!」

 カーシャが叫んだ時にはすでに遅かった。

 足によって遮られた魔方陣はその力を失うか、もしくは暴走する。

 今回は暴走だった。

 魔方陣から激しい閃光が放たれ爆発を起こした。物が飛び、カーシャもルーファスも吹っ飛ばされ、ハルカも爆発に巻き込まれた。

 立ち込める硝煙の中、口に手をやりながらカーシャは辺りを見回した。

 ルーファスは壁に叩きつけられぐったりとしている。ハルカはどうなったのか?

 煙が治まって来ると辺りの酷い有様がよくわかった。機材の破片が辺りに散乱し、床にこぼれて薬品からは煙が立ち込めている。そして、最悪なことに妖しげな薬品が突如発火したではないか!

 勢いよく燃え上がる炎は瞬く間に部屋中に燃え広がる。この場所は危ない。早く逃げねば爆発が起こるかもしれない。

「ルーファス逃げるぞ!」

「ハルカは!?」

「地下室に姿がない。もしかしたらもう上に逃げているのかもしれん!」

 炎の中を掻い潜りながらカーシャとルーファスは一階へと急いだ。

 何重もの丈夫な扉を閉めつつ、命からがら一階に逃げ出したところで、ドカンという音と激しい揺れが起こり、床が爆発に耐え切れずに崩落した。

 そして、ルーファス宅は激しい音ともに全壊してしまったのだった。

 ルーファス宅を包み込む煙。果たして、ルーファス、カーシャ、そしてハルカは本当に逃げていたのか?

 三人の運命はどうなったのか!?

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