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その2

 ハルカがこっちの世界の強制召還されてしまってから三日の日数が経ってしまった。

 三日間の間にハルカはどんなことをしていたかというと、例えば――。

「はははははぁ、我が名は大魔王ハルカだ。人間どもなんて、そのぉ〜、え〜と、はははは〜っ(アホくさ)」

 ハルカのセリフはかなり棒読みだった。

「う〜ん、イマイチだな(大魔王っていったら、もっと何かこう……)」

「ねぇ、何でこんなセリフの練習しなきゃいけないの……?」

「だって、これから大魔王になるんだから」

「ならない!(……はぁ、何でこんなことになっちゃったんだろ?)」

 このようにハルカはへっぽこ魔導士ルーファスの監修のもと、大魔王になるための猛特訓(?)をしてみたり。

 三日の間にルーファスからこの世界のことをいっぱい聞いたり、出かけたりしてこっちの世界の生活に少し馴染むことができた――と思う。

 そんなこんなで三日という時間が哀しいまでに過ぎていったのだが、いっこうに元の世界に戻る方法のひと欠片の糸口すら見つからなかった。

 ハルカはルーファスの家のソファーに座って考え事をしていた。

「(みんな心配してるんだろうなぁ。学校終わって家に帰ろうとしたら、いきなり変な渦に呑み込まれて……)」

 そんなことをハルカが考えていたら、遠くの方からルーファスの声が聞こえて来た。

「ねぇー、昼ごはんまだぁ?」

「(何でアタシが?)」

 ハルカはここに来て以来、なぜか家事全般をやっている。

「昼ごはんはぁ〜?」

「自分で作ればいいでしょ!」

 ハルカの怒鳴り声が家中に――家の外まで鳴り響いた。さぞかしお隣りさんのタマも驚いたに違いない。

「だってさぁ〜」

 ルーファスはそう言いながら、気だるそうなあくびをしてハルカの前に姿を現した。

「『だってさぁ〜』じゃないでしょ!(このひと、アタシが来るまでどんな生活してたんだろう?)」

 ハルカがここに来て以来、家事全般をしているのは見るに耐えなくなって、仕方なくのことだった。

「ふぁ〜(眠い)」

 頭をぽりぽりと掻きながら、ルーファスは大きなあくびをまたしている。そして、一言を言い放つ。

「おなか空いた」

「…………(死!)」

 正直ハルカはこの時、ルーファスに対して殺意が沸いた。包丁を持っていたら絶対に刺していたに違いない。

 ハルカはこの世界に来て三日の間、この世界についての知識を学ぶともに、それ以外のことで膨大な時間を費やした作業があった。――それは掃除、この部屋の掃除である。

 この家に散乱する魔導具の類が大地を形勢し山を創り、まさに足の踏み場のなかったこの部屋を彼女は三日間のほとんどの時間を費やして掃除。

 そして、ついに今日の昼間、家中がピカピカに片付き、疲れた彼女がソファーに座っていたところをルーファスにおなかが空いたと声をかけられたのだった。殺意が沸くのも当然だ。

「あのぉ〜、昼ごはん」

「アタシはもう食べた」

「仕方ないなぁ〜」

「(仕方ないじゃないでしょ)」

 両手を広げてルーファスは大きく深呼吸をして、口いっぱいに空気を溜めて、モグモグと口を動かし、ゴクンと何かを呑み込んだ。その光景は変としか言いようがない。

「(何やってんのこの人)」

「(やっぱり空気じゃおなかいっぱいにならないか)」

 そんなことでおなかがいっぱいになるはずない。おまえは仙人か、とツッコミを入れたくなってしまう。

「(気晴らしに散歩でもしようかな)」

 そんなことよりも自分で昼飯作れよ、とツッコミを入れたくなる。

「私はちょっと散歩に行って来るけど、ハルカも来る?」

「……うん(外の新鮮な空気が吸いたいかも)」

「じゃあ、行こうか」

 そんなこんなで二人は心地よい日差しの中を散歩することになった。だが、まさかこの散歩があんな事態を引き起こすなど、二人は夢にも思っていなかった。


 この世界はガイアと呼ばれている。名前の由来はとても古く、はっきりした答えはわかっていないが、このガイアの地には不思議なエネルギーが宿っている。

 そのエネルギーとは大地が発するエネルギーと、この世界に存在する全てのモノが持っているマナと呼ばれる命の源のことである。その二つのエネルギーが共鳴して、魔法が使えるということらしい――ルーファスがハルカに説明した内容だと。

 この世界に存在する魔導士とは、マナのエネルギーを自在に使うことにより、魔法を使うことのできる人々のことで、魔法の使い方は自分自身のマナを消費して魔法を使う場合と、自分以外の人や物などのマナを借りて魔法を使う二種類の方法がある。――この説明もルーファスいわくだが。

 ルーファスの住むアステア王国はこの世界でも三本の指に入るほどの魔法国家で(ちなみに一番はこの国なのだが)、街のあちこちには魔導具を売る店が多く存在する。

 そんなわけで二人は散歩のついで、というかハルカを元の世界に戻す方法を探しに一軒の魔導ショップに立ち寄ることにした。

「あ、ここ、ここ(それにしても、いつも思うけどこのネーミングは)」

 ルーファスが指差した先には店の看板があった。それを見てハルカが顔をしかめる。

「……美人魔導士のいる店?(こ、これが店の名前!?)」

 ハルカが店のネーミングにだいぶ困惑しているところへ、不意にルーファスから声をかけられた。

「何してんの、入るよ」

「あ、う、うん」

 店のドアを開けるとカランコロンというベルの音が鳴った。

「(綺麗な音色)」

 そんなことを思いながらハルカがふとルーファスの方を見ると、彼は耳を両手で押さえて目をぎゅっとつぶっている。ハルカは思わず声をかけてみた。

「何してんの?」

「…………」

 返事がない。。

「ねぇ」

「……ぷはっ、苦しかった」

「(何してたんだろ?)」

 ハルカが疑問で頭を悩ましてた時、真っ暗闇な店の奥から、低く呟く感じの女性の声が聴こえて来た。

「耳を塞ぐのはわかるが、目つぶって息止めることないだろう(さすがはへっぽこ)」

「あははは、そうなの」

 暗がりの中に明かりがポッと浮き上がったかと思うと、そこに女性の顔が現れた。

「こんばんわ、へっぽこ(……ん、もうひとりは誰だ?)」

「やあ、こんにちわカーシャ、ちなみにまだ外は昼だよ」

「ワタシの服は黒づくめだから、部屋の中はいつも暗いから、ワタシにはいつでも夜(ワタシは夜に生きる女……ふふ)」

 ハルカはこの時にビビッと思ったことがある。

「(この人も変わり者だ)」

「だからって、ろうそく一本で客を迎えることないでしょ(だから変な客しか寄り付かないんだ)」

 ルーファスもその『変』なひとりだと断言できると思う。

「で、今日は何をお求めだ」

「あぁ、それがだね」

 ルーファスは店のカウンターに歩み寄って、自分の顔をカーシャの顔に近づけた。

「実はね(やっぱり、近くで見た方が綺麗だ)」

 そのために近づいたのか、ルーファス!

「あの後ろにいる娘のことか?(あ、ああ勝手に店のものに触るな)」

「ビンゴ(さすがカーシャ、勘が鋭い)」

 ガシャン!

「だから店の物に触るなと言っただろうが」

「ご、ごめんなさい(高そうなの壊しちゃった)」

 店の物を物色していたハルカは綺麗な置物があったからつい触ってしまったら、床にガシャンと落として壊してしまったのだった。ちなみにカーシャは心の中で『触るな』と思っただけで直接口には出していない。

「壊してしまった物は仕様がない、へっぽこおまえが弁償しろ」

「な、何で私が」

「おまえが連れて来たのだろう(へっぽこだから……ふふ)」

 二人の会話の間にハルカが割り込んで来た。

「あ、アタシが弁償しますから(でも、アタシこの国のお金持ってないんだよね)」

「……二万ラウル」

 カーシャがボソッと呟くように言った。

 ちなみにラウルとはこの国で使われているお金の単位で、日本円でいうと一ラウル約一三円といったところで、二万ラウルは円に換算すると約二三万円。もうひとつちなみにラウルっていうのはこの国の初代国王の名前だ。

「ねぇ、ルーファス二万ラウルって高いの?」

「一ラウルチョコが二万個買える(二万個も食べきれないな)」

「例えが悪い(一ラウルチョコって五円チョコみたいなのかな)」

「じゃあ、うめぇぼう(二ラウル)が一万千五百個買えるとか(う〜ん、これも食べきれないな)」

「だから、わかんないって!(うめぇぼう……これも聞いたことあるような名前)」

 そんなやり取りを闇の奥から見つめるひとりの女性が、ってカーシャなのだが。

「二人はどういう関係なのだ?(衝撃スクープ、へっぽこに恋人が! なんて……ふふ)」

「あぁ、そうそう、そのことでここに来たんだけど(話をそらして弁償はパーだ作戦発動だっ!)」

「さっきの話の続きだな」

 ルーファスは『ハイ、こちらは』って感じのバスガイドみたいな手のポーズをバシッと決めて、ハルカの紹介をはじめた。

「大魔王を召喚しようとして間違って召喚してしまった代魔王ハルカちゃんです!」

「(大魔王を召喚しようとした……このへっぽこが?)」

「こんにちは加護ハルカです」

「ワタシはカーシャだ、よろしく」

「(カゴハルカっていうのがフルネームだったのか、今知った)」

 ルーファスはちょっとショック!

 だが、ルーファスのことなど完全無視でカーシャは話しはじめる。

「それで、ワタシの店に来た理由は?(かわいそうな娘……かわうそう……かわうそ……カワウソ娘(仮)。……ふふ)」

 『(仮)。』って何なんだカーシャ!

 他人事のようにルーファスが言う。

「え〜と、それがだねぇ。帰せなくなったんだよね」

 この無責任極まりない発言に、ハルカは思わず店のカウンターに身を乗り出して、愚痴をこぼした。

「そうなんですよぉ〜、このひと勝手にアタシのこと呼んどいて、帰せないとか言うんですよぉ!(あ、このひと近くで見ると綺麗)」

「なるほどな。このへっぽこのせいで元いた場所に還れなくなったとそういうわけか(今年のへっぽこ大賞もこいつで決まりだな……ふふ)」

 ちなみにへっぽこ大賞なんてものはカーシャの中でしかない。

「ホントへっぽこですよねぇ〜(あっ、今このひと口元が緩んだ。それにしても綺麗なひと……でも、あの店のネーミングはないと思う)」

 不適な笑みを浮かべたカーシャはその後、ちょっぴり真剣モードに切り替えてしゃべりだした。

「召喚というのは役目が済む、あるいは召喚者が無理やり戻すか、召喚されたモノが自ら戻るかだが、この娘に与えた役目はなんだ?」

 ルーファスは口に軽く手を当てて小さな声で言った。

「え〜と、世界征服をしてもらうためだったかなぁ〜」

 『かなぁ〜』じゃないだろルーファス!

「一つ目の条件は無理だな。では二つ目は?(世界征服なんて……子供の夢か)」

「知らない」

 ルーファスはあっさりさっぱりきっぱり答えた。

「……だろうな(へっぽこ)。この娘に自ら戻るチカラがあるとは思えん。やっぱり世界征服が一番打倒だな(大魔王ハルカか)」

 ガボーンって感じにハルカはショックを受けた。まさにハルカ的大ショック!

「そ、そんなぁ、二つ目の方法、カーシャさんは知らないんですか?」

「召喚者が無理やり戻すというのは可能性の話で、実際に戻す方法はあるのかどうかは知らん(適当な思いつきで言ったからな)」

「じゃあアタシやっぱり、大魔王になって世界征服するしか……(サイテー!)」

 落ち込んでいるハルカを見て、ルーファスが人事のように笑った。

「あはは、大変だねぇ」

「って誰のせいよ!(このへっぽこ)」

 愕然といった感じのハルカに追い討ちをかける一言がカーシャの口から発せられた。

「さて、では弁償してもらうか」

 しっかり覚えていたカーシャに対して、ルーファスは軽く舌打ちをした。

「二万ラウルなんてあるわけないじゃん(チッ、作戦失敗)」

「金はいい、ただ」

「「ただ?」」

 二人の声が揃った。

「新薬の試薬をしてもらう(自分じゃ、恐いからな)」

 瞬時にハルカはあっさり、きっぱり、断った。

「それはヤダ(ヤナ予感がする)」

 ヤダと言われてもカーシャは飲ませる気だった。

「まぁ、ぐぐっと飲み干せ」

 不敵な笑みを浮かべるカーシャは、カウンターから身を乗り出し、ハルカの口を無理やりこじ開けて変な液体を流し込んだ。

「にゃににゅるの!(何するの! しかもマズイじゃん)」

「ハルカに何を飲ませた!?」

「マナのチカラを増幅させる薬だ。まぁ、効果は一・二倍程度だがな」

 すぐに薬の効果は現れた。

「(か、身体が熱い……意識が)」

 ハルカの身体が当然まばゆい光を放ち、暗い店内を一瞬にして白い世界へと変えた。そして、光はハルカの身体に吸い込まれるように消えていき、少し間を置いてハルカを中心に衝撃波が巻き起こった。

「な、何だ!」

 とルーファスが叫んだ時にには、彼の身体は宙に浮き、そのまま衝撃波によって壁に叩きつけられていた。

 失笑するカーシャ。

「予想外の効果が出てしまった、気を付けろルーファス」

「ダメだ、もう背中打った(かなり痛い)」

 ハルカの身体が、また輝きはじめた。

「カーシャ、あれどういうこと?」

 『どういうこと』とは、『何で光ってんの?』という意味である。

「マナの暴走だ。ひとまず店の外に走れ!(まずいことになったな……ふふ)」

 ハルカの放出した光はまた吸収され、第二波が店の出口へと走る二人を襲う。

 衝撃波に押された二人の身体は自分の意志に反して、宙を飛び、店の外に投げ出されるよに放り出されてしまった。

 その光景を見ていた通行人が群がって来た。その中の一人の中年男性が二人に声をかける。

「お二人さんどうかしたか、服がボロボロだぞ」

 その時、店がスッゴイ轟音とともに大爆発を起こし、店の破片が辺りに飛び交う光景を目の当たりにした人々は口をあんぐり開けて固まってしまった。

 そして、ルーファスは首だけをカクカクとロボットのように曲げ、『カーシャさん質問があります』をした。

「マナの暴走って何?」

「そんなことも知らんのか(へっぽこ)。マナの暴走とは自らのマナもしくは借りたマナが大きすぎて制御が利かなくなり、大爆発を起こすことだ!」

 などとカーシャが説明をしていた最中、またも衝撃波が巻き起こり、辺りの建物を全てなぎ払い、ハルカの周り半径一〇メートル先までをまっさらな大地にしてしまった。

 それを見た野次馬たちは大声をあげながら一斉に逃げ出した。――二人を残して。

 予想外の展開であった。カーシャ計算ミス!

「予想以上だな。あの娘は凄いマナの持ち主のようだ(ただの小娘だと思っていたのだが……ふっ)」

 風が、またも爆風が!

 二人は瓦礫となった家の壁の裏まで走りそこに身を潜めた。

 頼りない顔をしてルーファスはカーシャを見つめる。少し目が潤んでいる。

「でも、ハルカはマナも知らない異世界の人だよ(何かスゴイことになってきた)」

「今はそんなことはどうでもいい、あの娘を止めるぞ(たぶん、このままいくと、この地区は崩壊だな)」

「どうやって?」

「作戦はこうだ。次の衝撃波を合図に走っ――」

 カーシャの言葉途中で途切れた。なぜならば、凄い爆風とともに、それも今までで一番スッゴクてデカイ衝撃波が巻き起こり、隠れていた壁とともに二人は天空へと巻き上げられたからだ。――この日、二人は鳥になった。

 だが、二人はそんなことなど全くお構いなしに、空へ舞い上がりながらも会話を続けていた。……この二人の神経普通じゃない。

「作戦変更! このままレビテーションでハルカのところまで飛んで行き、マナを大地に逆流させる。いいな?」

「なんとなくわかった」

 レビテーションとは空中を自由に飛ぶことのできる魔法で、大気のマナを大量に消費する高等魔法だ。

 二人がレビテーションでハルカに近づくその姿は、さながら獲物を狙う鷹のようであった。が狩は失敗に終わった。衝撃波がまた巻き起こったのだ。

 カーシャは乱気流によって地面に叩きつけられ重症。ルーファスは奇跡的にハルカの近くに不時着した。

 カーシャは声を出すのも精一杯なほどの重症で、血反吐を吐きながら最後の力を振り絞ってこう叫んだ。

「ルーファス、マナを大地に逆流させろ!」 

 ルーファスも着地した時に身体を強く打ちつけて足をやられたらしく、地面に這いつくばりながらも手だけでハルカの足元までなんとか行ったのだが、ここでルーファスの口からとんでもない一言が!

「マナを逆流させるってどうやるの?(さっきはわかったとか言っちゃったけど、実はわからなかったんだよね、あはは)」

「…………(世界一のへっぽこ魔導士が!)」

 そう思うが、カーシャはもう声を出す力すら残っていなかった。

「くそぉ、こうなったら一か八かだ!」

 ルーファスはハルカの足を掴むと、目をつぶり全神経を集中して念じた。

「(ハルカのマナがガイアに逆流……ハルカのマナがガイアに逆流……)」

 と、まるで呪いを架けるかのように心でなんどもなんども念じてみた。がしかし、マナの波動は治まることはなく、ハルカの身体が激しく輝き出し、衝撃波が――起こらなかった?

「治まったのか……?」

 いや、間があっただけだった。

 第六感をフルに活用して嫌な予感がしたルーファスは、すぐさまカーシャに声をかけようとしたが間に合わない。

 爆風がルーファスを襲った。そして、彼は見た。一瞬だったが、あるものを見た。カーシャの方を振り向いた時に見た――何を見た?

 死にそうなカーシャがいるはずの場所には彼女の変わりに『ピンクのうさぎの人形』があったのだった。

 ウサギの人形を見たルーファスは、吹き飛ばされながらも大声で思わず叫んだ。

「なんじゃこりゃー!」


 ――そして、全てが終わった。

 ルーファスが気がついた時には、彼は自宅のソファーで寝かされていた(ちなみにハルカがこの世界に来て以来、彼はここで寝ている)。

「う、ううん(どこだ……ここは?)」

「こんばんわ、ルーファス」

 『こんばんわ』を四六時中言う人。耳に届いた声はカーシャのものだった。

「カーシャ!?」

 ルーファスは思わずびしっとしゃきっと立ち上がった。

「ここは、へっぽこの家だ」

「私の家……あの後どうなった?(いや、むしろ私はあの『うさぎ人形』の方が気になるけど)」

「あの後か? あの後、ハルカは結局マナを大暴走させマナをほどよく消費させ、バタンと気を失ったが、今じゃもう」

「ルーファス、おはよう」

 ハルカが笑顔でルーファスを見ている。

「よかった、無事だったか」

 深くため息をついたルーファスはソファーにバタンと倒れこんだ。

 突然カーシャの顔が渋い表情になった。

 せっかく一息ついたところだったが、ルーファスは身体を起こした。

「どうしたのカーシャ?」

「実はマナの暴走で出た損害が予想を遥に越えたもので……ワタシの店から半径一キロメートルが消し飛んだ。まぁ、けが人は多数出たが、奇跡的に死人は出てない(……これは笑えない……ふふ)」

「「はっ!?」」

 これを聞いた二人は同時にびくっり仰天してしまった。そんことなどお構いなしにカーシャが話を続ける。

「というわけでだ。誰がこんなことを起こしたかを国をあげて探している。すなわちバレるとマズイので今日の出来事は三人だけの秘密にしよう」

「秘密にしようってカーシャのせいだろ!」

「まぁ、そうだが、今回のことで一つ大きな成果があった。それはハルカが元の世界に帰る方法だ」

 この言葉にハルカが身を乗り出して来た。

「えっ、どういう方法ですか?」

「あのマナの潜在能力はすばらしいものだ。あのチカラを使えば、きっと世界征服も夢ではない(大魔王ハルカ……ふふ)」

「はっ?」

 口をあんぐり開けて、ハルカは動きを思わず止まってしまった。

「それでは、ワタシは店の再建のため帰らせてもらう。さらばだへっぽこ、そして大魔王ハルカ!」

 カーシャはそんな感じで言いたいことだけ言って勝手に帰ってしまった。

「よかったねハルカ、大魔王になれるってさ(大魔王ハルカ……結構いいかも)」

「アタシ、大魔王何かじゃない!」

 ハルカは怒りながらドシドシと足音を立て、自分の部屋(元ル―ファスの部屋)に閉じこもって鍵を掛けてしまった。

「(何か悪いこと言ったかな?)」

 これ以降丸二日間、ハルカはルーファスとろくに口を聞いてくれなかったという。

 だが、へっぽこなルーファスには、いつまで経ってもその理由は不明なままだったらしい。

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