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 前回はこそこそと例の人形店を見張っていたけれど、今日は堂々と潜入する。だから、行動も大胆でよい。

 駅から住宅街へ向かう群衆に交じってそこまで行くと、前回と同じくシャッターは閉まっていた。でも、気にすることはない。なぜなら、この中に人がいるのは明らかなのだから。

 拓也は、シャッターを三回ノックした。金属の叩かれる音が辺りに響く。その音に気づいて群衆の数人が彼を見たが、それ以上は気にも止めずに去っていく。

 もう一度三回ノックし、十秒待ってみる。でも、中から物音はしない。外出しているのか、それとも休業日なのか……。

 お店の奥で休んでいるのかもしれない。だったら、裏口から声をかけた方がいいだろう。そう思って裏口の方にも行ってノックしたのだが、まったく反応がない。

 再びお店の前に戻ると……

「あれ……」

 シャッターが十センチくらい開いている。おかしい、さっき見たときは確かに地面まで下りていたのに。

 店員が客の気配に気づいて開けたのだろうか。それだったら、こっちから行動を移そうではないか。

 拓也はシャッターを全開にした。入り口以外木製の壁で、窓はない。

 自分はここの取材に来ているのだ。こそこそしていては泥棒だ。彼は意を決してドアを開けた。

 蛍光灯が点いていて明るい。壁に沿って雛壇が置かれ、たくさんの人形が並べられている。すぐに数えることは出来ない。様々な種類の人形がある。日本人形や西洋人形、もふもふなぬいぐるみ、手のひらサイズのお姫様のぬいぐるみなど、一目見ても種類が多いと分かる。

「いらっしゃい」

 突然、店の奥から女の子の声がした。

「待ってたわ。奥までどうぞ」

 声は若いが、冷静で落ち着いている。でも、姿がどこにも見えない。雛壇の陰に隠れているのか。

 陳列棚に挟まれた通路を進んでいく。気のせいか、並べられている人形から視線を感じる気がする。いや、そんなわけない。人形はちゃんと前を向いている。

 店の奥には長机が置いてあり、そのまた奥にはドアがある。おそらく、従業員専用の部屋へとつながっている。そして、机の向こう側にこちらを向いてイスに座っている黒い着物の女性がいた。本を読んでいるらしく、長い髪が垂れていて顔を隠している。

「あなたの姿を見るのは三度目ね。直接会って話すのは二度目。そろそろ名前を教えあうのはどうかしら?」

 クスッと笑って、女性は顔を上げた。年は十三歳くらい。まるで精巧につくられた人形のように顔が整っていて綺麗だ。

 あれ、と拓也は首をかしげた。この子、どこかで見たことあるぞ……。あ、もしかして、

「あの、以前に道案内したことありましたよね?」

 ちょうど別海がこの店から出てきて拓也が後を追おうとした時、着物を着た少女に声をかけられたのだ。旭高校への行き方を教えてほしいと言って。それがこの少女だった。

「そうよ、あなたとは少し話しをしたことがあるわ。高校に用事があるってうそをついて」

「う、うそ、ですか?」

「あなた、別海っていう男の子に声をかけようとしていたでしょ? あのまま放っておいたら、貴重なお客さんが減っちゃうところだったから。おかげで、ちょっと遠出する羽目になっちゃった」

 杏子はクスクスと袖で口元を押さえた。

「お客さんが減る? それはどういうことですか?」

 どうやら、この子から興味深い話が聞けそうだ。慌てて拓也は懐のテープレコーダーのスイッチを入れる。そして、バッグからメモ帳とペンも出す。

「あら、この店のうわさ知ってるでしょ? 今、世間ではかなり有名になっているみたいだけど」

「う、うわさ、ですか? それは……」

 こちらから誘導尋問みたいな質問をしてはいけない。あくまでも、少女の口からキーワードを聞き出すのだ。

「呪いの人形のうわさよ。ここではそれを売っているの。だから、人間に人形を使ってもらわないと意味がないの。一人でも多く使って、それを他人に広めてほしいわけ。だから、あの時あなたを止めたの。別海って子、気弱そうだったから、きっとあなたに脅されれば人形は使わなかったかもしれないわ」

「あの、確かにネットでは人を呪い殺す人形と書いてありましたが、どうにも信じられなくて。オカルトの類としか思えなくて。ここに売ってある人形を使えば、本当に呪うことが出来るんですか?」

「当たり前よ。お客さんのあなたにうそをつくわけないじゃない」

「そう……ですよね」

 まずい。このままだと、相手のペースに持っていかれてしまう。

「さて、お話もいいけれど、人形を選んでみて。好きなのを手に取って見ればいいわ」

「え、は、はい。それじゃ、選んできます」

 十分ほど店内を歩き、拓也は手のひらサイズのもふもふしたお姫様人形を選んだ。

「これでお願いします」

 値段が書いていなかったが、すべて同じなのだろうか。彼はバッグから財布を出した。

「ああ、お金はいらないわ」

「え、でもこれ売り物ですよね?」

「ええ、でもあたしが取るのはお金じゃないの。人間の寿命をちょっぴりもらうの。それでもいいなら、売ってあげる」

 人間の寿命……。つまり命を削られるということか。ちょっぴりというのがどれくらいか分からないが、今すぐ死ぬというわけではないだろう。信じがたい話しだが、呪いの人形が存在すると言っている以上、そちらの話しも飲み込んでおくべきだ。

「分かりました。この人形を買います」

 とりあえず、人形を手にいれ、これをゆっくりと調べればよい。そうすれば、何か新しいことが見つかるかもしれない。今日の所はこれで引き上げよう。

「いいことが起きるよう祈るわ」

 少女はクスクス笑った。

 拓也がその場を去ろうとした時、彼女は呼び止めた。

「ねえ、あなたの名前、そろそろ教えてほしいわ」

「北見、拓也です」

 彼は少し緊張した声で答えた。

「いい名前ね。あたしは杏子。よろしくね」

 クスクスクスと杏子は微笑んだ。

第六話は終わりです。最終話に続きます。

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