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 二日後の朝、担任の先生からこんな言葉があった。

「えー、二日前ほど前から、士別泰造くんが家に帰っていないとのことです。親御さんは、例の事件に巻き込まれたおそれがあるとして、警察に捜索願を出したそうです」

 拓也は全身に鳥肌が立った。すぐに、彼の中にある構図ができあがった。

 前の方の席に座っている人を見た。その人は、体を丸めて縮み、少し震えているように見える。

 先生の話はそこまでだった。後は、何事もなく朝のホームルームが終わった。

 先生が教室を出ていくと、拓也はその人物を隣の空き教室に連れていった。

「ど、どうしたの?」

 別海は、目があちらこちらに泳いでいる。

「さっき先生が話していたこと、どう思う?」

 拓也はドスのきいた声で尋ねた。

「ど、どうって……、早く見つかればいいなって……」

 だんだん声が細くなって聞き取りにくくなる。

「本当か? 本当にそう思ってるか?」

「北見くん、何が言いたいの?」

 すっかり声が震えて、隠しきれる様子ではない。

「僕、昨日、ネットで噂になっている人形店に行ったんだ。そうしたら、何を見たと思う?」

「な、なんだろう。特に、何も、なかった……とか?」

 その時拓也は、両手で別海の両肩を力強くつかんで逃げられないようにした。

「君を見たんだよ、別海くん。白人男性と一緒に廃屋へ入っていく、その姿を」

 別海は、拓也と視線を合わせようとしない。拓也の胸辺りをずっと見ている。

「ぼ、僕はその時、ちょうど友達と遊んでたんだ。だから、違うよ」

「その時って、いつ?」

「え?」

「別に僕は、いつ人形店を訪れたか言っていないよ。別海くんは、一日中友達と遊んでいたとでもいうのかい?」

「そ、そうさ。ダラダラと、ね」

「それじゃ、この写真は何か分かるかな」

 拓也は、白人男性と別海が写っている写真を見せた。

「僕、将来ジャーナリストになりたくてね。この街で起きている連続失踪事件について調べているんだ。色々調査しているうちにあの廃屋にたどり着いて、別海くんがそこに入っていくところを写したというわけさ」

 拓也が持っている写真をじっと見つめる別海。冷や汗が流れているのが、拓也にも分かる。手が震え、唇も震えている。

「これ、別海くんだよね? この写真は本物だよ。もし調べたいのなら、専門の機関にでも持って行くがいいさ。合成なんてされてないって証明されるから」

 肩も震え始めた。まるで寒がっているように、全身の震えが止まらない。歯を食いしばってその震えを止めようとしているが、体がいうことを聞いてくれない。

「人形を使って人を殺すって、別海くんはどう思うかな。僕は、そんな卑怯なこと、絶対許されることじゃないと思う。君は、犯罪に手を染めたんだ。それは、紛れもない事実なんだ。殺人を犯したんだよ、君は。ねえ、この街で起きてる負の連鎖を止めたいとは思わないか? 人を自分の都合で消すなんてルール違反だ。そう感じないかい?」

 拓也の言葉に、別海は何も答えない。ただ、うつむいているだけだ。そして、恐怖している。

「僕、君が人形を持って廃屋を出たところを見たんだ。たしか、金髪に赤色のドレスを着た三十センチくらいの大きな人形だった。記憶力はいいんだ。あってるよね。その人形、まだ君の家にあるの?」

「…………嫌だ」

「もしこれ以上話しが進展しないなら、ネットに君の顔写真を載せるよ? 人形を使って人を殺した加害者ってタイトルを付けてね。どう、人の目を惹くよね?」

「…………嫌だ」

「ネットの住人を舐めたらダメだよ。今の社会、個人を特定するのは簡単なことだ。君もネットをやっていそうだから、そのことは承知しているはず」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!」

 突然、別海は教室中に響きわたる大声を出した。

「理不尽だ、理不尽だ、理不尽だ、理不尽だ、理不尽だ!」

「……何がそんなに理不尽なんだい?」

 拓也は静かに訊いた。

「僕だけいじめて! どうして他の子じゃないんだ、どうして僕なんだ、僕はずっと静かに過ごしていたいのに、どうして僕だけいじめるんだ!」

 興奮しているからか、あるいは元々語彙力がないのか、同じ言葉を連呼している。

「つまり、いじめられて悔しかったから、消したっていうことかい?」

 核心を突く質問をする。

「そうだよ! ネットで詳しいことを調べて、知らない外人に連れていかれて、やっと人形を手に入れたんだ。寿命をもらうとか、訳の分からないことを言っていたけど、とにかくタダで手に入れて……」

「そしたら、翌日には士別は消えていた、と」

「……知らない。ちゃんと確認したわけじゃないから」

 すると、拓也は別海の肩から手を離した。そのとたん、別海は足下に崩れ落ちる。

「貴重な証言ありがとう。僕の調査に大切な資料を加えることができたよ。いじわるして悪かった」

 拓也は、懐に忍ばせていたテープレコーダーのスイッチを切った。

「こういう道具は、ジャーナリストの必需品らしいからね。学校で見かけても変に思わないでね」

 拓也はフフッと笑うと、別海の手を引っ張って立たせた。

「もう行っていいよ。朝の貴重な時間をつぶしてごめんね」

 別海の顔に驚きの感情が張り付く。

「え、いいの……?」

「いいって、何が?」

「だって今、僕は北見くんに人形を使って人を殺したことをバラしたんだよ? 警察に突き出さないの?」

 声の震える別海を見て、拓也はハハハと高らかに笑った。

「そんな話し、警察が信じると思う? まだ確信的な証拠がない。人形を売った犯人の自白とか、人が消える瞬間の映像とか、そういうレベルの話しじゃないとダメだ。僕は、ただ確かめたかっただけだ」

「た、確かめたかったこと……?」

「本当に、人形を使って人を殺した奴がいるのかってことをさ」

 そして、人形売りの少女が本当にいることを。拓也は、そう心の中で確信した。

第四話は終わりです。第五話は、人形売りの少女の過去に迫ります。

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