表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねえ、人形売りの少女のうわさ、知ってる?  作者: 和田喬助
第二話 『掴まれた右腕』
10/29

 一時間目の授業が終わると、深川は隣のクラスに顔を出した。ある女子に用があるからだ。

「植野!」

 後ろのドアの辺りで、彼女の名前を呼んだ。すぐさま、教室の窓際の一番後ろで他の女子と駄弁っていた植野がこちらを向いた。深川が手招きすると、たたたっと走ってきた。なぜか、他の女子も一緒にくっついてきた。

「大事な話があるんだ。ちょっと来てくれないか」

 深刻そうな表情で、彼はそう告げた。

「え、え? それって、何?」

 ポニーテールが特徴の彼女は、たちまち顔が赤くなった。学年一、二位を争うイケメンに声をかけられたのだ。一体こんなわたしに何の用だろう?

「いいから。二人っきりで話がしたい」

 すると、ついてきた女子がキャーキャーと騒ぎだした。

「何何? もしかして告白?」

「マジで!? やったじゃん植野! ハッピーエンド!」

「このこの! ずるいぞ、この裏切り者!」

 女子共はニヤニヤしながら植野にちょっかいをかけている。

「いいから、来い。時間がないんだから」

 彼女たちから引きはがすように、植野を階段の踊り場へと連れていった。


「植野の親って、PTA副会長だろ? 相談したいことがあるんだ」

「相談?」

 そして、深川は弓道部顧問の雄武先生に居残り練習をさせられていることを話した。

「森先生に話をしてから一週間経ったんだが、全く状況が変わらない。だから、お前に相談することにした。PTAに、雄武先生のことを訴えたいんだ」

「そ、それは……。お母さんに話をすることはできるけど、改善されるかは保証できないよ?」

 植野は、告白ではないと分かると、少し気を落とした。

「今の時代、親からクレームが来たらペコペコ頭を下げるのが先生の仕事だろ? PTAで問題になってると分かったら、雄武先生も変なことはしなくなるはずだ」

「そんなことしたら、雄武先生怒らないかなぁ。学年主任でしょ? 来年の受験に影響出たら困るよ」

「ふん、そんなことになったら、またPTAに訴えればいいさ」

 深川の意思が固いことが分かると、植野は、

「分かった。とりあえずお母さんに話してみる。明日、また話そ?」

「ありがとう。ぜひ頼む」

 その日は、それで話が終わった。


 翌日、一時間目の授業が始まる前に、植野が深川の教室を訪れた。

 後ろのドアの辺りでもじもじしているのを彼が見つけ、また階段の踊り場へ連れていった。

「とりあえず、深川くんから詳しい話が聞きたいって。PTAを動かすのも、キチンとした証拠がないとダメみたい」

「そうか……。話しができるのはいつだ?」

「仕事で忙しいみたいだから、来週の日曜日まで待ってほしいって」

「……んー、仕方ないな。分かった。ありがとう。近い日になったら、何時頃が都合いいか聞いてくれ」

「うん。聞いておく。……頑張ってね。雄武先生に負けないで」

「ああ、頑張るよ」


 三日後の夜、雄武先生と桜子は、彼の部屋でお酒を飲んでいた。

 ちょっとヤバい話があるんだけど、と彼女は話を切り出した。「あなた、PTAに訴えられるかもよ」

「訴えられる? 俺が何をした?」

「ほら、深川くんに居残り練習させてるでしょ。彼が、PTA副会長の娘に声をかけたみたいなの」

「そんな情報、どこから仕入れた?」

「階段の踊り場で話をしているのを盗み聞きしたのよ。彼が、皆も協力してくれって話をして回ってるみたい」

「……それはまずいな。奴は、もうPTAに話をしたのか?」

「ううん、副会長さんの仕事が忙しいらしくて、次の日曜日に詳しい話をしに行くみたい」

「つまり、日曜日が期限ということか……。どうしよう、どうすればいいんだろう」

 すがりつくような声を出した先生に、彼女はフフッと笑った。

「心配しないで。いいものもらってきたから」

 そうして桜子は、手提げバッグから一つの人形を取りだした。

「ねえ、人形売りの少女の噂って知ってる? 今、ネットで超流行ってるんだけど」

「……ネットをやらない俺に、そんなことを聞くのか?」

「ですよねー。実は、この人形に人の名前を書くと、書かれた名前の人が呪い殺されるんだって」

 興奮しながら話す彼女に、先生は鼻を鳴らした。

「バカバカしい。そんなオカルト、誰が信じるんだ」

「ネットをやらない先生でも、この街で起きてる連続失踪事件は知ってるでしょ? その原因はもしかしたらこの人形のせいなんじゃないかって検証が立てられているの」

「ますます信じられない。そんなの、ただの偶然だ」

「本当にそう思うの? こうして人形を手に入れたっていうのに?」

 桜子は、先生に人形を手渡した。手のひらサイズの日本人形で、顔はひどくリアルに作られている。

「こんなの、どこで買った?」

「買ったというか、もらったの。すぐ近くの駅から、少し歩いた所の人形店よ。十三歳くらいの少女と、二十前半くらいの外人の男性がいたわ。ネットに、詳しい住所が載ってたの」

「仮にこれが呪いの人形だとして、一体それを何に使うつもりだ?」

「決まってるじゃない。深川くんを呪い殺すのよ」

 彼女は、さも当たり前かのように真顔で答えた。

「こ、殺す? どうしてそんなことを……」

「先生は、今危ないわ。あなたの経歴に傷がついちゃう。彼には、そんな権利なんてない。絶対許せない」

「で、でも、それは殺人事件になるんじゃないか?」

「何言ってるの。呪いの人形で殺しましたって、誰が信じるっていうの? これで本当に呪い殺せるのなら、やってみましょ? もし上手くいかなかったら……」

「う、上手くいかなかったら……?」

 先生は顔を強張らせた。

「あたしたちが自分の手で殺すしかないわ。どうせ、今のこの街だったら連続失踪事件の一つとして片づけられるわよ」

「お、お前、今日は酔いすぎなんじゃないか? もう帰れ」

「大丈夫よ。今のあたし、超頭すっきりしてるから」

 ハハハッと彼女は高らかに笑った。


 時は夏休みが始まってすぐの頃。北見拓也は図書室で返却された本の整理をしていた。表向きは。

 最初の三十分はその作業をしていたが、先生がいなくなると新聞の切り抜きをまとめたノートを開いた。

 そこに五日前、新たな記事が加わった。『旭高校、行方不明相次ぐ』という見出しが大きく目立つ。弓道部部長の深川隼人が、三日間行方不明の状態であり、自力で捜せないと踏んだ保護者が警察に通報したという。警察は、連続失踪事件との関連性も含め、捜査を始めているらしい。

 バサッと本が落ちる音がした。拓也は顔を上げた。図書室の奥で、東千歳が棚に本を戻しているのだが、手を滑らせたのだろうか。

「東先輩、大丈夫ですか」

 図書委員になって間もないから、指導係は北見くんにお願いするわ、と先生が押し付けた。先生の狙いは分かっている。彼が図書室でサボらないように、見張り役をたてたかったのだ。だが、その役割はあまり果たされていない。千歳はおとなしくておくびょうで、拓也に注意することはない。だから、以前と変わらず少々手を抜きながら作業をしている。

「大丈夫です。ありがとうございます」

 千歳は二年生だから、別に拓也に敬語を使う必要はない。だが、図書委員としては新人ですから、とあまり交流のない同級生や後輩にも敬語を使っている。

「どこに仕舞ったらいいか分からなくなったら、いつでも言ってくださいね」

 パタンとノートを閉じた。

「はい。今の所は大丈夫です」

 小さくか細い声が返ってきた。

 次に拓也は、デスクトップパソコンをネットにつなげた。図書室便りを作るのがこのパソコンの本来の役目だが、今はだいたい彼のために動いている。最近、図書室便りは三年生が自分の家で作ってきているようだ。

 彼は、あるまとめサイトを読み始めた。少しずつスクロールさせ、ブツブツつぶやきながら読んでいる。それが彼の癖なのだ。

「棚に、全部本を入れ終わりました。次は何をしたらいいですか」

 気がつくと、目の前のカウンター越しに千歳が立っていた。手を組んだらいいか体の横に置いたらいいか迷ってるらしく、腕を前と横に動かしている。

「じゃあ、準備室にある新刊を段ボールから出してビニールを破っておいてください」

 隣の部屋を指さしながら言った。

「分かりました」

 準備室に入っていこうとする彼女を、ちょっと待ってくださいと止めた。

「どうかしましたか?」

「いえ、東先輩に聞きたいことがあるんですけど……」

 拓也は視線をパソコンに向けながら続けた。

「人形売りの少女の噂って知ってます?」

 目をパソコンに向けていたからよく分からなかったが、若干後ずさりしたような気がした。

「い、いえ……、わたし、あまりオカルトには興味がないので……」

 奥歯に物が挟まっているような言い方だなと思った。

「知らないんですか? 今、学校中で噂になってるじゃないですか。街での連続失踪事件の後、ここの生徒が二人も姿を消しましたから。そんなオカルトチックなものが疑われるのも仕方ないですね」

 明らかに目が泳いでいる彼女に、また質問をぶつけた。

「先輩、元バレー部ですよね? バレー部の女子も一人行方不明じゃないですか。しかも先輩と同級生で同じクラスの香田佐緒里さんですよ。何か知りませんか?」

 何も言わない千歳に、さらに言う。

「先輩が図書委員になった日って、香田さんが姿を消して一週間も経ってなかったですよね。どうして、今になって部を辞めたんですか?」

「何か……、いづらくなったから……」

「人間関係ですか? よくあることですよ。学校でも会社でも」

 何も答えなかった。うつむいて、まるで先生に怒られている生徒のようだ。

「まあ、いいです。それよりも……」

 拓也はメガネをくいっと上げて、パソコンの画面を指さした。

「帰りに、一緒にここへ寄りませんか? 知りたくなったんですよ。人形売りの少女についてね」

 彼は、サイトの一番下に記載されている、この街の人形店の住所を指していた。

第二話はこれで終わりです。引き続き、第三話をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ