ありえない話をしよう
「完成した。これはすごい発明だぞ」
「何が完成したの、お父さん」
娘がゲーム機を放り出し、私の元へ駆け寄ってくる。
「何これ、ただの板じゃない」
私が完成させたモノを見て、娘は眉根を寄せた。
「ただの板ではない。ドアだ。ちゃんとノブも付いているだろう。名付けて、そうだな……。【どこにでもいけるドアー】とでもしようか」
「どこにでも行けるの?」
娘は目を輝かせている。
「そうだ。原理は、超ひも理論と、カオス理論と、ブラックホール理論と、量子重力理論を全部足して2で割ったようなものから成っている」
「なにそれすごい」
「さっそく試してみよう」
私はわくわくしながら扉を開けた。
目の前に広がる光景を見て、隣にいる娘と共に目を丸くした。
ティラノサウルスと目が合う。
とっさに扉を閉めた。
「なんてことだ。恐竜時代に飛んでしまった」
本物の生きている恐竜を見てしまった娘は、目をビー玉にして固まっていた。
私は頭を抱えた。このドアは現在の時間軸内で動作するよう設計していたのに、うっかり時間を飛び越える仕様になってしまっていたのだ。
このドアを利用すれば、いずれタイムパラドックスが発生してしまうだろう。
しかし私は好奇心を抑える事が出来なかった。次はどこに繋がるのか、どうしても見てみたい。
ちらっとだけ。一度だけ。そう心に決めた。
扉を開ける。
ティラノサウルスと目が合う。
扉を閉めた。
このドアを使うのはもうやめよう。