空気
明けましておめでとうございます。
お久しぶりです、遅くなりました……。
各教室のエアコンが、活動を開始した。
夏である。
平太と明良の教室もエアコンが動いていて、室内は涼しい。
「なんかさ、空気あれじゃね……?」
「あれって?」
明良に言われて室内を見渡すが、特に変わらない昼休みの光景が広がっている。
それぞれ友だちと話したり、ご飯を食べたり、ある者は勉強をしたりしていた。
「……やっぱさ、勉強とかした方がいいのかね」
と明良が紙パックのジュースを飲みながら、平太に言う。
「もうさ、そういう時期なんだよな」
「そうだな。難関校とかだったら、もう始めてないと間に合わないとか先生言ってたし。就職組だって今決めてる最中だろ?」
と平太は近くの男子をちらりと見て言った。
近くの男子は『就職先一覧表』というファイルを広げて見ている。
「そりゃもう、空気が変わってたって不思議はないだろ」
「そうかぁ……。平太ももうやってんの?」
「ん? うん、まあやってる。明良だってやってんだろ? 部活引退したんだからさ」
平太の言葉に、明良は曖昧に頷いてから苦笑いした。
「まあ……でもリフティングとかしたくなっちゃってさ、たまに外で蹴ってる」
「何してんだよ」
「いや、だってさぁ──」
実感とか沸かないし、と明良は紙パックを握りつぶし、机に置く。
「平太は? 保育ルームまだ行ってんの?」
「うん、行ってる。でもちゃんと勉強だってしてるし」
問題ないだろ、と弁当箱を片す。
「それに……、こないだの模試、判定合格圏だからな」
と平太はニヒヒと笑って見せた。
明良は、この余裕野郎め、と平太の肩を小突いた。
*
放課後、平太は部活を引退した同級生たちが帰っていくのを見ながら、保育ルームに向かっていた。
「……確かに、ちょっと違うかぁ──」
昼休みのことを思い出し、平太は呟く。
教室の空気は、春の頃より少し張っていたかもしれない。
これから秋、冬にかけてより空気が張り詰めていくのは、少し嫌だった。
「……はぁ──」
一人溜め息を吐いて、平太は保育ルームの扉を開けた。
「こんにちは──」
「あら、平太くんこんにちは。何にする?」
「……?」
初枝に訊かれてテーブルに近づくと、そこにはかき氷機が置いてあり、その横にシロップが並んでいた。
平太は少し考えてから、イチゴで……と答える。
「じゃあ、私はレモンでお願いね」
氷はそこにあるから、と横のボックスを指差して、初枝は集まっていた子どもたちに、平太くんに注文するのよ、と微笑んだ。
「平太、おれソーダ!」
と辰が言う。
それに続いて、薫や彩、杏も言った。
「ぼくメロン」
「あたしコーラ」
「わたしはイチゴ」
「いっぺんに言われても無理だから! 何? 辰がソーダ?」
平太はリュックをイスに置くと、かき氷機に氷をセットして、出してあった器もセットする。
「じゃあいくぞ──」
少し力を込めながら、腕を回す。
ガリガリガリガリと音を立てて、氷が細かくなって器に落ちていく。
子どもたちはわくわくした表情で落ちていく氷を見ていた。
「こぼれそうになったら、ちょっと回せよ」
子どもたちはうんうんと頷いて、熱心に見ている。
そして一つ目が完成しようというところで、平太は思った。
「なんか……暑くね? これやってるからか?」
「それもあるけど、まだエアコン付けてないから」
と初枝が散らかったおもちゃを片しながら、にこりと笑って言った。
「……ほんとだ──」
窓が全て全開になっており、時折吹いてくる風が初枝の髪を揺らす。
「どうりで……」
「平太はやく、とけちゃうぞ!」
やっている本人を無視して、辰がせっつく。
「わかってるよ、待ってるんだったら俺を扇げ。暑いんだよ」
「わかった!」
と辰が返事をして、隣の部屋に向かう。
他の三人も辰に続き、うちわを持ってくる。
そして四人は平太を囲むようにして扇ぎ始めた。
「どうだ?」
と辰。
「平太すずしい?」
と薫。
「もっと?」
と彩。
「さむくない?」
と杏。
「うん……、ちょうど良いわー、そのまま頼むぞ──」
四人に扇がせ、平太は六人分のかき氷を作った。
それぞれシロップをかけ、テーブルに集まる。
「平太くん、ありがとね、とてもおいしそうだわ」
と初枝が手を合わせて言った。
子どもたちは待ちきれないのか、もうスプーンを持って待っている。
「じゃ、平太くんに感謝して……、いただきます」
『いただきまーす!』
「いただきます──」
それぞれ一口食べて、おいしー!と笑顔になった。
「ん……うまい……」
作った当人の平太は、より一層おいしく感じた。
やっぱり、昼の時のような空気より、今のこの感じがいい、と平太は思う。
「……どうかした?」
ふいに初枝に声をかけられ、平太は笑って首を振った。
「いや、何でもないです」
かき氷を口に運びながら、やっぱり皆笑顔で、和やかなのがいいよな……と思う平太だった──
平太「かき氷、久しぶりに食べたな…」
これから不定期更新です(^^;)




