人形遊び
子どもたちとの距離感や扱いにも慣れてきた平太だが。
今回は、杏のお話。
「……スー……スー……」
放課後。保育ルームに行くと、初枝がテーブルに伏せて寝ていた。
疲れているのだろう。
「タオルタオル……」
平太は身近なタオルを手に取り、ふんわりと初枝にかけた。
「平太ー!」
「静かにしろ辰。寝てるんだから」
「ぶう」
「ぶうじゃねえ──」
と辰を皆が居るところにつれていく。
相変わらず、薫は本に夢中だ。杏は人形で遊び、彩はおもちゃのお化粧グッズで、お化粧をしていた。
「自由だな──」
と平太は思った。
「平太お兄ちゃん」
「ん?」
裾を引っ張られ、平太は顔を下に向けた。
「せんせーどうしたの?」
「疲れて寝てるんだよ」
「ほんと?」
と人形を抱えた杏は心配そうな顔をする。
「本当本当」
と平太は笑う。
「そっか」
杏は人形をキュッと抱き締める。
「……遊ぶか。辰は薫と本読んでるし──」
というか、薫が辰に説明して、それを辰がうなずいて聞いている。
彩は飽きないのか、まだお化粧ごっこをしている。
「うん!」
「おし。俺は何役やればいい?」
人形の箱があるところに行って、座る。
「平太お兄ちゃんは、お兄ちゃん! わたしが、おかあさんで……」
そこで、杏は口を閉じる。
「どうした?」
「……ふたりじゃ、おとうさんとおねいちゃんとか、できない……」
と杏が悲しげな顔になる。
「じゃあ、皆も誘うか?」
「あ! ……でも──」
と杏は周りに目を向ける。
平太も周りを見る。
「あー……」
皆、それぞれやっているので、杏は迷っているのだ。
「大丈夫、やってくれるよ。お──」
「ダメ!」
と杏が止める。
「何で?」
「……めいわく、かけちゃう」
「そんなことないよ」
「でも……」
「大丈夫だって」
「…………」
杏は泣きそうな顔になる。
「なんで?!」
「だって……、たのしくなかったら……」
「はあ? 人形遊びするやつ集合!!」
平太は杏の言葉になぜか腹が立ち、声をあげた。
「にんぎょうあそび? やるやるー」
「ぼくも」
「あたしもー」
と集まってくる。
「ほら。大丈夫だったろ?」
「ぁ……うんっ!!」
杏はにっこりと笑う。
「よし。杏が役決めろよ」
「うん! 薫くんが、おとうさん。辰くんが平太お兄ちゃんのおとうと。彩ちゃんがおねいちゃんね」
「わかった!」
「うん」
「はーい」
平太は微笑ましくやりとりを見守る。
「やろう! はい、じゃあ、あさね。みんなおきて、ちこくしちゃうよ」
杏が人形を動かして、起こしに行く。
「おはよう」
と薫。
「おはーす」
と平太。
「おはよー」
と辰。
「おはよ」
と彩。
そして、小劇場が幕を開けた。
「あなた、きをつけてね」
「ああ。いってくるよ──」
「ほら、辰くんがっこう、おくれちゃうわよ」
「うわ、やべー。いってきまーす」
「彩ちゃんも、はやくはやく」
「サイアクー。いってきまーす」
「はい。いってらっしゃい──」
平太は思った。
「リアル過ぎだろ!」
と。
すると、騒いでいたせいか、初枝が覗きに来た。
「平太くん、ごめんね。寝ちゃってたわ。タオルありがとね」
「ああ。大丈夫ですよ」
「よく寝れたわ。今何してたの?」
「人形遊びです」
「そう。じゃあ、入れてもらおうかしら──」
初枝は笑って、皆の近くに座る。
「じゃあ、せんせーはせんせーね!」
「うふふ。久しぶりだわ──」
と初枝も人形を手にする。
平太は、まんまですよ?! 梅田さん! と内心で突っ込むのだった──
どうだったでしょうか、
感想批判評価などなど、よろしくお願いします(_ _)
すると喜びます。