本が……
なんとなくも続いているお手伝い。
今回は、薫のお話。
「こんにちはー」
放課後、いつものように平太は保育ルームに入る。
かれこれ数週間。よく続いたものだ、と平太は思う。
「こんにちは。あら、それは何?」
と初枝が平太の持っている物を見る。
「これですか? これは、小さい頃読んでた本です。もう読まないんで」
と紙袋に入っている本を見せる。
「ありがとう。皆喜ぶわ」
初枝は笑うと、紙袋を受け取り、椅子に置く。
「……今日は?」
平太は静かな室内を見渡す。
四人が見当たらないのだ。
「ああ、あの子たち今寝てるのよ。ほら──」
「ぉ……」
初枝が見たところに視線を向けると、四人がスヤスヤと寝息をたてていた。
「静かでしょ?」
「はい──」
平太は静かに近寄って、しゃがみこむ。
「……はは//」
平太は寝顔を見て笑う。
案外可愛いかも、とちょっとだけ思う。
「ふ……ぅん?」
「やばっ──」
平太は素早く下がる。
が、下がるのが遅かったのか、辰が目を擦りながら起きてきた。
「ふあっ……?」
「おはよう……」
「……平太?」
「そうだよ」
「平太!」
その声に反応して、続々と起きてくる。
「ぁ……平太」
「平太お兄ちゃん……!」
「平太お兄ちゃん!」
最後の彩の言葉で、一斉に四人が平太に駆けていく。
「ちょっと待っ──うげっ」
「平太!」
「平太」
「平太お兄ちゃん!」
「あ、ダメだよ、平太お兄ちゃん死んじゃうよ!」
と最後に来た杏がわたわたする。
すると潰されていた平太がブワッと起き上がる。
「おらあっ──」
「うわあっ」
「わっ」
「きゃ」
三人がごろんと周りに倒れる。
「あ……」
内心平太は焦る。
「だいじょ──」
「ビックリしたぁ」
と辰が起き上がる。
二人もゆっくりと後から起き上がってくる。
「大丈夫か?」
「なにが?」
「ん?」
「なんで?」
三人は首を傾げる。
平太はそれを見て、
「何でもないわ」
と安心する。
「平太お兄ちゃん?」
「ん? 大丈夫大丈夫――」
平太は不安げな顔をしていた杏の頭を撫でた。
「よし。今日は遊んでやる。何したい?」
「せんたいごっこ!」
「おままごと」
「かくれんぼ!」
「薫は?」
「ほん、よむからいい」
と一人本棚に歩いていく。
「そっか──よし、辰。準備しとけ。俺はちょっとトイレに行ってくるからな」
「うん!! おれレッド!」
「あたしきいろ!」
「わたし、ピンク──」
三人は準備を始める。
平太は室内から出ていく。
「薫くん」
「ん?」
初枝が本棚の前で本を選んでいた薫に向かって、笑って手招きする。
「はいこれ。新しく入った本。平太くんが持ってきてくれたの」
と紙袋から本を数冊取り出して、薫に渡す。
「平太から?」
「そう。皆にって。読むでしょ?」
「わあ……うん//!」
「大切にするのよ」
「わかった!」
初枝はうなずいて、本棚に向かう薫を見送った。
「あたらしい、ほん……!」
薫は両手で本を掲げる。
どんなはなしだろう! と薫はワクワクしながら表紙を開いた──
「平太えい!」
「やったな辰〜」
「わああ! イエローいけ!」
「やあ!」
「痛っ! 彩!」
「ゆだんすんな!」
「って! 辰てめえ!」
「わー!」
辰は逃げ回る。
杏は飽きたのか、初枝とお喋りしている。
薫はうとうとして、首がかくかくしている。
「……んぁっ──」
ビリビリビリ。手元から、何かの破れる音がした。
「ぁ……」
一ページの真ん中辺りまで破れてしまっている。
「…………」
サアッと薫の血の気が引いていく。
「どうしよう……っ」
とりあえず、セロテープを探して修正する。
「……できたけど、あやまんなきゃ……」
と平太の方を見るが、辰を締め上げているので声をかけられない。
「……」
おわってから、ちゃんとあやまればいいよね……? と薫はうなずく。
「だあ! もう休憩!! 辰と彩で戦って、勝った方が俺と勝負だ」
と平太は伸びをする。
ふと、本を抱き締めている薫が目に止まり、忍び寄る。
「なにしてんだ」
「べ、べつに!」
薫は本を後ろに隠す。
「ん? あ、持ってきたやつじゃん。読んでやるよ」
「いいよ!」
「遠慮すんなって──」
本を取り、ペラペラめくっていく。
「これ、俺好きだったんだ」
「ぇ……」
薫はどうしていいか分からず、泣きそうな顔になる。
「……ん?」
平太は、破れているページを見つけた。
「平太……」
「あ? ……うお?!」
「やぶけちゃった……ごめん、なさい……」
薫の目には溢れんばかりの涙。
「……薫がやっちゃったのか」
「うん……っ」
ポロポロと涙がこぼれる。
「でも、読めないことはないからな」
「えっ……?」
「いいよ。ちゃんと謝ってくれたし、ご丁寧にセロテープまで……。さすが薫だな」
と平太は笑う。
薫は平太を見つめる。
「どうした?」
「平太ぁっ──」
ぽてっと頭を平太の胸に当てる。
「かお」
「うっ……ひっ……うえっ」
「大丈夫だって──」
と頭を撫でながら、いつもツンツンしてんのになと平太は思う。
「……薫?」
「う゛ん……」
「めっちゃ濡れてる……!!」
薫が泣き止み、ワイシャツから頭を離すと、うっすらと円形に濡れていた。
「あー。最悪〜」
「ふふっ」
「なに笑ってんだ」
「えへへ。平太、ありが、とう//」
「……!!」
薫はトコトコと奥に行ってしまう。
「……え? ちょっと可愛──」
可愛いかもと言おうとした瞬間──
「うちとったりー!!」
「っっっったあ?!!」
スパンッと辰が新聞紙を丸めた棒で背中を叩いたのだ。
「やあい! かったかった!」
「……おい辰」
その時、初枝と杏、彩、薫は、辰の負けを確信した。
「辰くーん。ちょっと、こっち来いやあ!」
「ギャー!!」
「待てクソガキがああ!!」
やっぱ可愛くねえ! と辰を追いかけながら、平太は内心で叫ぶのだった──
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