第1章 教室にて
「まずは1つ目、真夜中に校庭を走る下半身……これは決まった時期に目撃される事が多いの体育祭や陸上部の大会といったイベントの2,3ヶ月前からが多いわね」
「あぁそれなら知ってる、夜22時くらいから見かけるってやつだろ。昨日見たって女共が騒いでたぜ」
「そういえばもうすぐ連合陸上大会ね。時期的にも調査にはぴったりじゃない」
ナイアスはクルクル回していたペンを鼻の下と上唇で挟みながら話を続けていく。
「2つ目、歩く人体模型ね、歩くと言ってもその場には生首と手足しか存在しないみたいだけどね。これは警備員さんから聞いた話よ、ヒタヒタとゆっくり歩いて来るんだって、ライトで照らしても消えず、どんどん近付いて来るから怖くなって逃げたんだけど逃げてくる途中で女性の笑い声が聞こえたそうよ」
「そいつは知らねぇな……だが体が無いならその開いた空間くぐって逃げるのも面白そうだな」
何を言ってるんだ俺は、そんなモノに出くわしたら怖いじゃないか。
「どんな逃げ方よ……3つ目、夜の20時を過ぎると誰もいないはずの音楽室から不規則なピアノのメロディとすすり泣く女性の声が聞こえるそうよ」
我ながらこの話に乗ったのはうかつだったと思えてきた。
いや、出くわしても信じなければどうという事はないさ、と昔の偉い人が言っていたはずだ、だから俺もそう考える事にしよう。
「続けて4つ目、夜の体育館から若い男女の呻き声が聞こえ、その声を聞いた後にバスケットゴールの下で転ぶと……」
そこまで言ってから俺を見るナイアス、まるで続きを話すのに俺の顔色をうかがっているようだった。
「どうした? 続けろよ」
その話も知っている、転んだら最後忽然と消えてしまい行方不明になるそうだ。
ナイアスは行方不明という言葉に気を使ったのだろう、だがそれはそれ、これはこれだ。
別段気にすることなど無い。
「その……」
「行方不明に、だろ? その話なら知ってるさ。皆これみよがしに俺の側で話しやがるからな、何が楽しいんだかわからねぇよ」
頭の後ろで手を組みながら俺は言いながらナイアスにアゴで先を促した。
「うん……行方不明になり異世界に行ってしまうって言う話だよ……じゃあ5つ目ね……ウチの校舎の裏に使って無い旧校舎があるじゃない? そこには戦死した兵隊の亡霊が現れて今でも戦い続けてるって話なんだ。文化祭の前日、資料を取りに行った学生が目撃したそうよ。その時はまだ夕方過ぎだったから消えちゃったみたいなんだけどね」
「行方不明になるのにどうしてその先が異世界だって分かるんだよ。それに兵隊ねぇ……この地域が戦場になったなんて話聞いた事ないけど? そういうのって昔処刑場だったとか拷問場だったとかって場所に沸く話じゃねぇの?」
首を切る処刑人が徘徊してるとか、火あぶりの男が叫んでるとかならまだ分かるが兵隊とはこれいかに。
いかにもうさんくさい話だ。
「そういう噂があるってだけよ、それを確かめに行くんでしょうが」
「あぁ、はいはい……そうでした」
「そして6つ目、文芸部があるのは知ってるよね?」
文芸部、確か1年前、当時在籍していた生徒が交通事故で亡くなってから廃部寸前になったって話だ。
今は在籍しているのも数人で名前だけの幽霊部員しか居ないらしい。
「知ってるさ、そこが何か?」
「うん、そこで自殺が有ったのは知ってる?」
「自殺だとっ!? 俺は交通事故って聞いたぞ……」
「表向きはね、けど当時の文芸部の子に……って言っても1つ上の先輩なんだけど、に話を聞いたんだ。そしたら…………」
その時だった。
ガララッ!!
いきなり教室の扉が開いたのだ。
「「うひぃいっ!」」
「いつまで残ってるんだー部活ももうすぐ終わる時間だから早く帰りなさーい」
巡回の教師だった。
くそっ情けない、女みたいな悲鳴上げちまったじゃねぇか。
「あの……べ、ベリアル痛い……」
ナイアスの声が聞こえた、細い声、いつもの快活な声とは様子が違っていた。
結論から言うとだ。
俺の両手がナイアスの手を握り締めていた、まるで恋人のようにがっしりと指を絡ませながら。
「んぉ、すまんすまん。痛いってお前合気道やってんだから痛くないだろ」
冷静な顔をして俺は素早くナイアスに絡まっていた両手を離す。
どうやら驚いた拍子に彼女の手を握っていたらしい、俺は女子か。
だがこれで俺が怖がっていると分かればナイアスも俺を頼る事を止めるかもしれない。