作戦前夜
1日目、兵の士気も高く、野営地ごとに大宴会が開催された、誰1人として死ぬとは考えていない顔をしていた。
2日目、また宴会だ、明日からはいよいよ敵の領地へと踏み入る、それだけに不安も出て来たのだろう、泣いたり、弱音を吐きだす兵士達も居た。
3日目、フェデラシオン領地内、宴会は行われず、ここで最終点検を行い第1から第6師団を3分割して進軍、第1特殊機動師団と第2騎兵砲工作師団の2師団は敵の正面から、他の4部隊は左右で展開しさらに部隊を細分化してゲリラ戦にも対応できる布陣だとフローが言っていた。
4日目、最終日、ここまで来ると兵士達の間には張り詰め過ぎなぐらいの緊張感が漂っていた、俺もギンギンに緊張している、ここを発ったら部隊は散り散りになる、肩を抱き合って泣く者、生きて帰る、と意気込んで酒を飲む者、俺はそんな兵士達を横目に見ながら作戦会議用のテントへと入って行った。
「来たな、それではこれよりフェデラシオン遠征攻略の最終確認を行う、各々細部まで頭に入れどんな戦局でも乱れる事無く作戦を決行せよ」
「「「ははっ!」」」
テントの中には第1と第2師団の各隊長面々が敬礼と共に気合の入った一声が飛び交う。
中央に置かれた机に図面が広げられる、その図面にはびっしりと書き込みがされており、幾度も修正、加筆されたのだろう。
ナイアスのキャンパスノートもこうだったな、今あいつはフェデラシオンで何をしているのだろうか、もしかしたら俺と接触を図っているかもしれないな、あいつがただ待っているとは思えない。
「まず我ら第1特殊機動師団1万6千を400人大隊として40分割それぞれ500mの間隔を保ちつつ進軍。その後ろから第2騎兵砲工作師団が同じ配置で追従。追従の距離は200mとする。敵軍と交戦が始まり次第、大隊長は各々の判断で小隊と班を編成、生き残る戦いを行う事を心掛けよ! 皇帝陛下はこの戦いで終止符を打つつもりだ、このような大規模編成は未だかつて無い、だからこそ勝利し、誇りを胸に凱旋しよう。そして最後に一つ、敵前逃亡は死罪だが、私は咎めぬ、逃げ帰って来たなら生きているという事、されば戦線を整え後方からの支援に回れる、意識しろ、追い詰められて突貫し死ぬのは英雄では無い、愚か者だ! 生きれば未来がある、その事を忘れるな、出発は太陽が頂点へ位置した時! 以上だ!」
「「「ハッ!」」」
フローの作戦発表と演説が終わった、さしが第1師団長様だ、カッコイイぜ。
俺は後方で師団長様の護衛か、退屈だな……
そう考えていた時、フローが静かに耳打ちして来た。
「俺が後方でふんぞり返ってると思うな、俺は前線で指揮を取る、だからこそお前を護衛に頼んだのだ、頼んだぞ」
「うっへ……まじっすか……けどアンタのそういう所、好きだぜ」
前言撤回だ、俺は死にに行けと言われている様なもんだなこりゃ、だが、俺は生きる、なんとしても、そして守り通す、それでけの力が今の俺にはあるんだ、やってやるぜ。
「出発は明日の日の出と共に行う、各自それまでゆっくり休め、解散!」
「「「ハッ!」」」
フローの号令と共に敬礼をしてテントから出て行く兵士達、テントの中には俺とフローのみが残された、無言で立ち尽くす2人、その姿をテント内にある松明の炎が照らし、パチパチと薪の燃える音だけが響いていた。
「俺が前線に出るなんて思っていなかったか?」
不意にフローが口を開く、それは独り言のようにも聞こえた。
「そうだな……師団長様なんだ、てっきり司令部に居るのかと思っていたよ」
「後方から指令を出すのは第2師団長だ、第1師団は前線で色々な作戦を展開するから現場に居た方が何かと有利なのさ。しかし今回は今までの作戦とは規模が違う……6個師団約10万の兵を投入だ、これじゃあまるで全面戦争じゃないか、ここだけの話変な噂も聞いている、俺には嫌な事が起きる気がして仕方ないんだ」
この世界に来てからまだ2カ月程、世界の情勢は軽く掴んでいるつもりだった、フェデラシオンはアポストロス帝都率いる連合国家に属さない国を纏め上げ、連合国家の領地を次々と襲撃し略奪と侵攻を繰り返していると言うのだ。
国家規模で言えばアポストロスとフェデラシオンは同程度の領地と協定国家が存在する、その割合は4:4、残りの2割は中立国家だそうだ、俺がこの世界に来た時に訪れたキャラウェイは中立国家の街だったのだ、その街が襲撃されたで皇帝が怒り、中立国家の安全を守るために、とこの大規模遠征を画策したと言うのが大義名分だが……
仮に敵側の軍勢も約10万と考えた場合、どういった兵器があるのか分からないがその犠牲者はかなりの数だろう、市街戦もあるはずだ、もし避難が出来ていなければ戦闘に巻き込まれ犠牲者の数はさらに膨れ上がるだろう。
戦時下において非戦闘員の犠牲者は大体25%から50%だと学校で習ったが実際の所どの程度なのか想像出来なかった。
「頼むぞ……ベリアル……共に生きて帰ろう……」
フローの言葉で俺の考えは中断された。
「わかってるさ、無茶はするなよ?」
「お前もだ、ベリアルは少し自信過剰が過ぎるぞ?」
ククク、とフローが笑い、俺もそれに釣られて笑いが込み上げて来た、緊張からおかしくなってしまったのだろうか、しばらく2人とも笑いが止まらなかった。
「アハハハハ! 出来ればまたリブロとお前と3人で飲み交わしたいものだな」
「馬鹿言え、お前の彼女と子供の5人だろうが」
「あぁ、そうだな……その時は大いに騒ぐとしよう、俺はもう寝るぞ、ベリアルも寝るといい」
「そうさせてもらうよ、おやすみ」
俺とフローはテントの前で別れ、それぞれ自分のテントへ戻って行った。
堅い床に寝転がり、天幕を見つめながら俺は考え事をしていた、フローが良くない事が起きると言っていた事を思い出し、少し引っかかる事があったからだ。