夜が明けて
「…………聞こえてやがるですかクソ野郎」「ベリアル聞こえる? この声が届いているか分からないけど……」「黙りやがるですよナイアス一方的に話せばいいと言われたじゃねぇですか」「……分かってるけど心配じゃない! 腐っても幼馴染なんだから!」「じゃあさっさと伝えやがるですよ……」「今私とミトラはフェデラシオンて言う所にいる! 戦っては駄目! 騙されないで……じゃないと……私はそんなの嫌なの!」「時間です、お引き取りを」
「……なんだ……今のは……」
ノイズ交じりに脳に響いた声、要点はまるっきり分からなかったが今のはナイアス、ミトラ2人の声だった。
ズキズキと頭が痛み、喉が渇いて仕方がない、体がだるい、飲み過ぎた……俺はゆっくりと瞼を開け、のろのろとベッドに起き上がった。
最後に聞こえた違う女性の声は誰だ……あいつらフェデラシオンに居るとか言ってたな……リブロに聞いてみよう……
宿屋から渡された寝巻からソロモン高の制服へ袖を通し、窓の外を見る、相変わらず2つの太陽が空を照らしていた。
その時、コンコンと扉をノックする音とリブロの声。
「起きたかい? もう昼だぜ、いつまで寝てるんだ」
「あぁ……すまない、今行くよ」
宿を後にした俺とリブロは旅の支度をする為に商店街へと出向いた。
今日は旅の準備の為に一通りの店を回る予定だった、リブロの話によると道中に人を襲う動物もいるので用心した方がいいとの事だった。
まずは装備からと言われ、連れて来られた所はもちらん武器、防具屋だった。
ショートソードからトゥ・ハンデット・ソード、変わった所でシャムシールやソードブレイカー等もあり剣の道を歩く俺としてはとても心躍る場所だった。
その中で1つ目を引く剣があった、それを手に取り、試しに軽く振ってみると今まで使いこんで来た剣のようにすっぽりと手に馴染んだ。
「これにするよ」
「まいどー」
買い物を終えて外に出ると胸にプレートを、ガントレットにスチールグリーブを着けたリブロが待っていた、どうやら彼も装備を新調したようだ。
「いいのか? そんなバスタード・ソードで」
「いいんだ、変にごちゃごちゃしてるよりこれが使いやすそうだ」
「わかった、防具は俺が見つくろったからそれを付ければいい、よし! 準備も済んだし何か食べて出発するか」
「そうだな! ところでダンはどうしたんだ?」
「あいつはここの住民だ、ここで生まれてここで死ぬんだとさ」
侵略戦争があると言っていた、ここも戦場になるだろうと、それでもダンはここに残るのか。
あぁ見えて強い男だったんだな、俺は絶対に無理だ、死ぬと分かっているなら逃げる事を選ぶ、俺の世界は誰でもそうだろうと思う。
「強いんだな、あいつ」
「あぁ、それにいい奴なんだ」
少しの沈黙の後、リブロが見つくろってくれた防具を制服の上から身に着けていく、さっきのバスタード・ソードもそうだがこの鎧もかなり軽い、ジャケットを羽織っているようなものだ。
「それと……お前にはこれも似合うと思ってなぁ……店主、持ってきてくれ」
あいよ、とだけ返事をして店主は店の奥へ引っ込み、すぐに出て来た。
店主は黒い布地に赤い刺繍が施されたマントを手にして俺の肩に着けてくれた。
「これは派手すぎじゃないか……?」
「いいや、よく似合ってるぜ。立派な剣士だ」
穏やかな笑顔を見せるリブロを見て俺は親父を思い出していた、俺は向こうの世界では行方不明扱いだろう、だがあのメールが届いてくれていれば救いだ。
「すまない、親父……」
「どうした? 浮かない顔して……気に入らなかったか?」
「いや、そんな事無い、気に入ったよありがとう」
会計を済ませて外へ出る、これで俺も立派なこの世界の住人になったわけだ。
準備を終えた俺とリブロが手近な店に入り、遅めの昼食を取っていると真剣な面持ちでナイアスとミトラの事を話出した。
「ベリアルの言っていた女の子2人だがこの街で見かけた奴はいないようだ、今日の朝に4方の出入口付近にいる奴らに聞いてみたんだが収穫は0だ、すまない」
「いやいや! 聞き込みまでしてくれてたのかよ……ありがとう……」
リブロと居ると不思議な事に、この世界にいる不安を感じない、昔からこの世界で生まれ育って来た錯覚に陥る。
今になって思うが、俺は本当に運が良かったんだと思う、心細くないと言えば嘘だがそれ以上に今が充実している、これでナイアスとミトラが見つかれば最高だ。
「っ! そうだよ! なんで忘れてたんだ!」
思わず立ち上がって怒鳴ってしまった、静まり返る店内、集中する視線、向かいに座っているリブロも驚いてグラスを片手に固まっている。
「ど、どうしたよベリアル。何か思い出したのか?」
座れ、と手で合図しながらリブロが口を開いた。
「昨日起きる寸前に声が聞こえたんだ! ナイアスとミトラの声だった! 今はフェデラシオンにいるとか言ってた……戦うな、騙されるな、とも……」
「フェデラシオンだと!? なんでまたそんな遠い所に居るんだぁ?!」
「知ってるのか!」
リブロの言葉に俺の体は無意識に前のめりになっていった。
「知ってるも何も、帝都を含む連合と戦っている相手がフェデラシオンさ! 正確にはフェデラシオンを筆頭とする連邦国家だ、ここからだと2週間はかかる、だがそいつ等はあちこちで侵略や略奪を行ってるって話だぞ」
2週間もかかるだと……だが俺の脚ならもっと早く着くかも知れない、だが帝都までリブロを連れて行くと依頼しちまった……くそっ! どうする……