報酬
そして受け取った報酬は1万ギル、2つの小さな革袋にずっしりと入っていた。
こちらの世界の通貨は鉛や亜鉛で製造されているらしい、数えてみると1つの革袋に鉛で出来た薄い硬貨が50枚入っており、リブロいわくその1枚で随分と贅沢できるらしい。
「こんなにもらっていいのかよ……すげぇお宝拾ったじゃねぇか!」
「俺だってここまでもらえるなんて思っても無かったぜ! 早くダンの所へ戻ろう! 今夜は宴会だ!」
随分と待たせてしまったがダンは大丈夫だろうか、急いで中央広場へ戻ると、ダンは噴水の陰でぐっすりと寝息を立てていたのだった。
それから俺とリブロとダンの3人で近くの酒場へ殴りこみ、やがて酒場全体を巻き込んだ大宴会へと発展していった。
元の世界だと俺の年でお酒は法律上禁止されているのだが、ここではそんな事は関係無い、俺は大いに飲んで喰って騒ぐ事に決めたのだった。
「ベリアルよぉ、お前、宿は取ってるのか?」
「取って無いよ、こっちに来てからリブロ達に会うまで路頭に迷ってたからな」
異郷のお酒はとても飲みやすく美味しかった、そのせいで俺は中々の量を飲んでおり、もちろん酔っぱらっていた。
元の世界でも自宅で親父の晩酌に付き合っていたのでそれなりに耐性はあるのだがこちらの酒は総じてアルコール度が高いらしい。
「でもよぉ兄ちゃん、そんな大金ぶら下げてたらあぶねぇぞぉ」
骨付き肉にかぶりつきながらダンが言った。
もしこの金が奪われたとしても簡単に取り返せる、その時は俺の愛剣 豪華絢爛がきらめく時だ。
それにどこかに預けると言ってもここに留まるつもりは無い、なら自分で持っていたほうが安全だ。
「それでだ、ベリアルに少し相談なんだが……」
「んぉ? なんだよリブロ、急に真面目な顔して……」
魚らしきモノを焼いた料理を頬張りながら、俺はリブロの神妙な態度に違和感を感じた。
「お前も旅をして来たならこの国の現状を知っているだろう? 至る所で侵略戦争が起きている、この街も危ないかもしれない……だから……俺は帝都アポストロスへ行って軍に入るつもりだ」
リブロはそこで一度言葉を切り、グラスに入った氷をカラカラと回した。
ダンも食べる事を止め、不安そうな顔でリブロを見つめていた。
「それでだ、帝都に行くには金がかかる、自慢じゃないが俺は貧乏でな……まぁ距離でいえば歩いて2,3日なんだが……頼む! 俺と一緒に帝都へ行ってくれないか! お前だって旅人だ、ここに留まる気が無いのは目を見れば分かる、頼む!」
予想していた事が起きた、これだけの金が目の前にあるのだ、そうなるのも仕方ない。
リブロには恩が有るので断るつもりは無い、本人的にはただ通りがかっただけだ、だがもし換金の情報を知らなければ俺は飢えて未だこの街を彷徨っていただろう。
だがその話を承諾する前に話しておかなければならない事がある。
「そうか……だがその話をする前に2人に打ち明けなきゃいけない事があるんだ」
俺は2人にここまでの経緯を話した、この世界の住人では無い事、旅の連れと言った2人、ナイアスとミトラの事、その2人を探さなければならない事。
リブロとダンは俺の言葉を黙って聞いてくれていた、話が終わるとしばしの沈黙が続いたのだった。
「そうだったのか……にわかに信じられん話だが……嘘を付いているとも思えん。でなければアルミニウムの事も説明出来まい」
「俺っちはそんな事気にしないぞぉ、でもリブロが出て行くのは寂しいなぁ」
「信じてくれてありがとう、なぁリブロ、俺はあんたに借りがあるんだ。だからあんたの相談は却下させてもらう、そして逆に頼みたい。俺の為に帝都まで付き添って欲しい、傭兵兼この世界の先生としてだ」
俺の言葉を聞いて一瞬驚いた表情をしたリブロだったが、フッと笑ってこう言ったのだった。
「お前はいいヤツだな……わかった、その依頼、受けてやるよ」
「ありがとう、助かるぜ」
そうして俺とリブロはがっちりと握手を交わし、お互いのこれからを祝して乾杯を交わしたのだった。
ダンはと言うと……骨付き肉にかぶりつきこちらの話はもう聞いていなかった。
しばらく語り合い酒盛りを終えた俺は、リブロの計らいで宿を取ってもらい、その日は眠りについたのだった。