お金が無い
考えてみれば異世界観光なんて出来る事じゃないし、しばらく遊んでも問題は無いだろう、見る限り危ない世界ではなさそうだ。
しかし突然異世界へ飛ばされたのにも関わらずこうも開き直れるとは、自分の胆力に脱帽する。
「善は急げだ、丘から見た感じこの街結構広いしな、迷子になっても困る事は無いし、ウロウロしてりゃあ金だって落ちてるだろ」
そうして俺は、いかにもな裏路地や商店街、雑貨屋、洋服屋、色々な所をたっぷりと時間をかけて見て回った。
だが……
「金らしき物がひとっつも無いってのはどういう事じゃぼけええ!」
街に入った時は2つの太陽はまだ真上には無かった、それが今では、2つある内の1つが沈みかけてるじゃないか。
このまま日が沈んだら俺はどうすればいいんだ、腹も減ったし喉も乾いた、金……どこにあるんだぁ……
街角の1画の木箱の上に座り込みながら俺は途方に暮れていた。
そんな時、道を行く男性2人組が妙な事を話しているのが耳に入ってきた。
「最近は鉄や銅やアルミの価値が大分上がってるらしいぜ?」
「らしいなぁ、けどアルミニウムって何だ? うまいのか?」
「馬鹿野郎、アルミニウムはなぁ……作り出すのに高度な手法が使われるんだ、おまけに銅や鉄なんかと合わせて特別な金属が作り出せるっていう金属なんだぜ、貴族様や王族くらいしか拝む機会は無いがね」
「へぇー俺っちみたいな一般人には関係の無い話だなぁ」
「そこらへんの石ころにでも銅が入ってるなら換金所へ持って行ってひと稼ぎ出来るんだがなぁ……そんなうまい話はねぇよなぁ」
アルミだと……銅だと……ひと儲けだと!
「なぁあんたら! すまないが換金所ってのはどこにあるのか教えてくれねぇか!」
通り過ぎる男2人組を慌てて呼び止める、俺の記憶が間違いなければこの世界の金が手に入る!
「どうした兄ちゃん、そんな血相変えてよぉ」
「財布でも落としたのかー? 俺達はこれから酒場で1杯やるんだぜーうへへ、良いだろう」
いかにも金が無さそうな奴らだ、ここで俺が財布を出したら奪われそうな雰囲気だった、呼び止めながら財布が入っている所とは違うポケットへ手を入れソレを探る。
あった、1円玉だ、こいつはアルミニウムで出来てるはず、こいつをチラつかせて情報をもらおう。
「いや……ついさっきそこでコイツを拾ったんだ! 見慣れないもんだから換金所に持って行こうと思うんだが……この街は初めてで分からないんだ、案内してくれたら1杯おごらせてくれよ? いいだろう?」
我ながら巧みな交渉術だと思った、ひょっとして俺はこういう才能があるんじゃないか?
ポケットから出した掌には1円硬貨が2枚、それを手に取りまじまじと見る男性2人、逃げられても追いつけるので緊張は無い、ただ腹が鳴って死にそうだ。
「こりゃあ見た事ねぇなぁ……よく判らんが……うし、俺が案内してやるから付いて来いよ」
「俺もいくぜぇ、へへこれでうまいもん食えるなら兄ちゃん様って呼ばせてくれぇうへへ」
「ダンはメシと酒がありゃあいいから気楽なもんだぜ」
「うへへ、そういうなよリブロぉ、傭兵だなんてこの街じゃはやらねぇぞ、自警団にはいりゃーいいものをぉ」
ダンと呼ばれた男はこの頭の悪そうな方だな、リブロと呼ばれた男は筋骨隆々としていて中々知恵もありそうだ。
「悪いな、案内よろしく頼むぜ」
目上の人にこんな喋り方は良くないのだろうが、いかんせん異世界だ、舐められたらたまったもんじゃない、強気で行かなければ。
換金所はこの街の中央、あの高い建物の中にあるそうだ、だけどアルミニウムが貴重だなんて……案外文明は低いのか?
手持ちの硬貨がどれくらいだったかは覚えて無いが、1円玉以外は全て銅で出来ているはずだ、日没ながら運が向いて来たらしい。
2人の会話を聞いていると、どうやらこの街はキャラウェイと言う名前で、様々な種族との交流が盛んな場所らしい、他の街から逃げて来た無法者等もいるので治安はそこそこ悪い。
そこで、腕に覚えのある男達が自警団と言うものを組織している、俺の世界の警察みたいなもんか。
だが雑多な街は俺にとって都合がいい、明らかにおかしい俺の服装も、2人に突っ込まれない所を見ると俺も流れ者だと思われているみたいだ。