第1章 帰ろうか
だがナイアスが間違えるのも無理は無い、顔は幼く少女の身長は見た感じ150cmも無くスレンダーな体型、なおかつぬいぐるみまで抱いているのだから。
「ちっこくて悪かったですね。ちなみに自己紹介はいらねぇですよ、貴様等二人は有名人なもんで知らない人はいないと思うのです、独断と偏見ですけどね」
「そ、そうだったの……ごめんね? じゃあ君の名前教えてくれるかな?」
ナイアスが圧倒されている、やるなこのちびっこ。
だがその口調が子供相手の口調から変わって無い事に彼女自身も気付いてないだろうな。
「ウチの名前はミトラです、いい加減そのがきんちょ扱い止めやがれ」
「は、はいすいません! でもミトラはどうしてこんな時間に?」
ごもっともな質問だ、彼女が7不思議の1つだと思うのだがこの時間にいる理由が分からない。
「ウチはただ続きを書いているだけ、死んじゃった友達の作品の続きをね。とくに理由がある訳じゃねぇですよ? 先生方もウチが残っているのは知ってるし」
「死んじゃったってもしかして自殺したって言うあの……」
「そうですよ。入学してすぐ精神を病んでしまって、あれよあれよと言う間にそこの窓から飛び降りやがったです。原因は恐らく古代の魔人を復活させようとして儀式に失敗して魔人の呪いに取り込まれてしまい……魂を喰われやがったに違いないです」
「「はい……?」」
俺とナイアスは同時に変な声をあげてしまった、普通の無表情少女だと思ったのにいきなり変な事を言い出し始めたからだ。
「友達の呪いはウチにも影響が出て来てて……うずくんですよ、右手が、右目が。解放しろ、全てを捨てろ、と心の中に響きやがるですよ……ウチが封印した力を解放するのを待っているのかも知れない……」
ミトラは右手で右目を押さえ、左手で右腕を押さえている。
あぁ……この子ちょっとヤバい子だな、俺の勘がそう告げている、あまり関わらない方がよさそうだ。
ぽかんと口を開けたままミトラと俺を交互に見ているナイアスに目配せをし、指先で部屋の扉を指さす。
俺の意図に気付いてくれたのか、ナイアスは扉へ向かって行った。
「貴様等、不法侵入したくせに今度は黙って出て行こうってのかコラ、何でここに居るんだとさっきから聞いてるのが聞こえねぇでやがりますか」
駄目か、そりゃそうだよな……しかしこの子、顔に似合わず滅茶苦茶な日本語を喋るもんだな、敬語なのかガラが悪いのかよく分からなくなってくる。
ミトラの声に止められ、ナイアスも大人しくこちらに戻って来るのだった。
俺とナイアスは7不思議の話とそれの正体を暴く為に侵入してきた事、4つは解決出来た事、全てを話した。
「そう……なら、そこにウチの呪いを解くカギがあるかもしれない……無理矢理と思うかもしれないけど、ウチも明日から手伝う、異論は認めないわ……」
話を聞き終えたミトラは開口一番そう言い放った、さっきとは別人なんじゃないかと思うような静かな喋り方だった。
「ウチの事を断りやがったら先生にチクるですから」
「わ、わかった! 明日からミトラも一緒だ! ナイアスもそれで良いだろう?」
「そうね、そうするしか無いみたいだし、良いんじゃない」
「良い判断をするじゃねぇですか、それじゃ明日ベリアルの教室に行くから待っていやがるです」
ミトラはそれだけ言うと、パソコンの電源を切りさっさと行ってしまったのだった。
「はぁ……俺達もそろそろ帰ろうぜ、もうこんな時間だ」
俺はそう言うと腕時計をナイアスに見せながら文字盤を指先でトントンと叩いて見せた。
時刻は22時を回っていた。
文芸部を出て扉を閉めるとご丁寧に鍵まで差してあった、ミトラが差していったものだろう、鍵を閉めて通用口まで歩きだす俺とナイアス。
「ミトラさんて結構強烈な子だね……あんな子私達の学年に居たなんて知らなかったなぁ」
「俺も知らなかったさ、あの子には失礼だけど友達、少ないんじゃないか?」
「なんだ、じゃあベリアルと仲良くなれそうだね」
「てめぇ! それどういう意味だ!」
「きゃー友達のいないベリアル君が怒ったーこわーい」
笑いながら逃げて行くナイアスを追いかける、侵入した時の不安も廊下の闇に対する異質さも無くなってしまったみたいだ。
学校の7不思議なんてやはり創作物なのだろう、7つの内4つは人間だった。ならば残りの3つも人間が関わっているに違いない、そう思うと明日の夜がとても楽しみだった。
通用口の警備室へ鍵を返し、警備のおじちゃんと軽い話をした後、俺とナイアスは校舎を後にするのだった。
「今日はありがとうね、なんか拍子抜けしちゃった」
「お前が怖がりすぎなんだよ。人体模型のラレスさんを見た時のお前の顔面白かったぜー」
腰を抜かして座り込んだナイアスなど滅多に見れるものじゃない、この件が無ければ一生見る事は無かったかもしれない。
思い出すだけで笑いが込み上げてくる、俺はその笑いを必死で押さえ冷静な表情を保つので精いっぱいだった、ここで笑えばエリ絞めを喰らう事は確実だ。