プロローグ
開かずの扉。
その話を知らない者はいないだろう。
怪談を語る上で確実にその話題が上る大物。
中に入ったらあの世行き。
扉が開いたら別世界、
呼んで出てくるモノは大体怪異。
中から水の流れる音だとか、赤ん坊の泣き声だとか、呻き声だとか。
そしてそれは学校の片隅にあったり、廃校舎だったり、病院だったり、打ち捨てられた廃墟だったり。
それは怪談のパラレルワールド。
そんな開かずの扉の前に俺は立っている。
カチコチと腕時計が音を刻む。
俺の額に浮かぶのは脂汗と冷や汗、どちらだろうか。
いや、今はそんなのは些細な事でしかない。
震える手でその扉をノックする。
コンコン、コンコン。
返事は無い。
もう一度試みる。
コンコンコン、コンコンコン。
今度は少し強めにノックする。
駄目か……
諦めかけたその時。
ドンドンドンドン!!
「!」
反応があった。
人間試してみるものだ。
よし、次のステップだ、声をかけてみよう。
「もう……いいかい?」
しばしの沈黙が続く。
「うぅうぅ……もうすぐだ……もう少しなんだ……」
中からはくぐもった苦しそうな声が聞こえてきた。
俺はダラダラと汗を流しながら思わず笑ってしまった。
世の中には様々な笑い顔がある。
微笑み、苦笑、失笑、大笑い、悪意のある笑み、引きつった笑い。
今の俺の顔はどんな笑い顔なんだろうか。
恐らく苦笑と失笑を混ぜて引きつらせた笑顔だろう。
声が聞こえてきたのと俺に猛烈な悪意が向かってきたのはほぼ同時だった。
腹の底からギュルギュルと悪意が押し寄せる。
背中が凍りつく。
焦るな、そうだ、落ち着け、落ち着くんだベリアル・ストライクス。
怖くなど無い、誰も俺を止める事など出来ないのだから。
俺は床を見つめながら己の心に語りかける。
……ぎぃぃぃいい………
その時軋む音を響かせながら扉が開いた。
俺はゆっくりと顔を上げる。
目の前に現れたのは青白い顔をしてげっそりとした男。
目は落ちくぼみ、頬は痩せこけ、生気の無い瞳をしている。