我輩はブン太である。
我輩は猫である。
…いや、あの有名な某作家の話をしようとしたんじゃないです、すみません。
しかし嘘はついていない。
我輩はこの辺り一帯のボスを仕切る、トラ猫のブン太である。
弱小な子猫時代からここまでのしあがるのはかなり苦労したが、最後の前ボスとの戦いで受けた深い傷は我輩の誇りであり勲章である。
弱い者イジメをする悪猫達を見かけると、左頬に受けた傷跡がうずくわ!!!!
いや、熱くなりすぎた。
すまぬ。
『ブンちゃ〜ん、また縁側で日向ぼっこしてるの?気持ちいぃのか〜?』
む、今年10才になる末っ子のみゆきが近づいてきた…。
や…やめろ!!!!
頭を撫でるな、首まわりを掻くな!!!!足腰が立たなく・・・・ふにゃぁぁぁ〜ゴロゴロゴロ
『みゆき〜そろそろ出かけるわよ〜』
『は〜い!!じゃあブンちゃん、お留守番よろしくね』
ふぅ、やっと解放された…。
みゆきめ、この我輩を一瞬でひれ伏させるとはボスになれる素質を持っているな。
よろしい、将来が楽しみだ。
この心優しいボスは、家族の将来の有望性についても考えなくてはいけないのだ。
やれやれ頂点に立つとは難しい。
にゃぁぁぁぁ!!!!
む!!これは若い雌猫の叫び!!
今我輩が助けにいくぞ!!!
我輩は留守番を頼まれていたことも忘れて縁側から飛び出した。
いや、しかし若い雌猫を救う為だ。致し方あるまい。
けっして、若い雌猫だからだと言うわけではないぞ。
道路の前に出ると、雌猫に迫っている黒い雄猫がいた。目付きが鋭く悪そうだ。
かわって雌猫の方を見ると、真っ白でキレイな毛並にブルーの瞳だ。
…
しぎゃぁぁぁぁ!!!!!
(貴様ぁぁぁ!!!そのお美しいレディから前足を退けろぉぉぉぉ!!!!)
我輩が凄い勢いで走り寄ると、黒い悪ブタボケ猫は驚いて逃げ出した。
逃がすかぁぁぁぁ!!!!
前足嗅がせろぉぉぉぉ!!!!!
我輩も負けじと黒猫を追い掛けた。
いや、正義の為だ。
けっして黒い感情などない。
そしてしばらく追い続けた所、足が疲れてヨロヨロになった黒猫は石につまづいて盛大にこけた。
チャンスとばかりに我輩は黒猫に爪を立て叩きのめし、ヤツの前足をマタタビのように嗅ぎ、やっと解放してやった。
うむ、これでいい。
頂点にいる立場上、妥協を許すわけにはいかないのだ。許せ黒猫よ。
さて帰ろうと回れ右したところ、我輩は固まった。
ココは、どこだ?
見たこともない住宅街。歩いている人間も猫も顔見知りはいない。
我輩は血の毛、いや、気が引いた。
どうやら迷ってしまったようだ。
もう辺りは薄暗い。
晩御飯時なのだろう、周りの家からヨダレが垂れそうな香りが漂ってくる。
く、万事休すか…。
いつも作ってくれる母親のネコマンマを思い出す。
猫舌の我輩に気を使って温目に作られており、我輩の大好きな魚の切り身ゃ蟹のカマボコなどが混ぜ合わせてあるのだ……。
い、いかん。涙どころかヨダレまで垂れてきた。
これでは我輩のクールなイメージが台無しだ!!!
早く家に帰らなくては…
しかしどうやって…
む?!
今、みゆきの声が聞こえた気がするぞ!!!
『…………太ぁぁぁ!!!!』
間違いない!!!
こっちだ!!!
こっちの方向だ!!!!!
『あぁぁぁ!!ブン太!!もうどこ行ってたの?心配したんだよ?』
み…
みゃぁぁぁぁぁぁ〜〜!!!!
我輩はみゆきに飛びかかった。
会いたかった!!!
会いたかったぞみゆき!!!
『もう、しょうもない子だなぁ〜お家帰ろうね』
そう言ってみゆきは我輩を抱えたまま歩きだした。
ま、待て、みゆき。
我輩はもうそんなに子供ではない。一人で歩けるのだ。
こんな姿を近所の子分猫達に見られては、ボスの威厳が無くなるのだ。
う、しかし、何と優しい抱き方をするのだ…。
眠くなって……しまうでは………ないか…………にゃ…………
『あれ、寝ちゃった』
ブン太の鼻息で、鼻がプスプスいっている
『可愛いなぁ、ずっといつまでも一緒にいてね!!ブン太♪』
みゆきは幸せそうに笑った。