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第3話 魅了スキルの被害者から契約書が届きました

 静かに火咲の元を離れた俺は、学園都市ガーデンを歩いていた。


 通りに並ぶ店先には、ファンタジー世界らしい魔物肉の肉串やら見たことないキノコのシチューやらが並んでいたり、魔法学園らしい魔導書や魔道具などが売られていたり、薬草や魔法素材などが売られていたりと、多種多様なラインナップが揃っている。


 俺はそうしたファンタジーな光景を楽しみながら、ゲーム内端末を操作して、【ひさきちゃんねる】を盗み見ていた。


 現状のコメント欄がこんな感じだ。


≪ちゅきちゅき、だいちゅきって俺にも言って≫

≪ちゅきちゅき助かる≫

≪彼氏初公開おめでとう≫

≪切り抜き作っときました≫

≪これがスキル【ちゅきちゅき】の力≫


 一方、火咲はぶち切れていた。


「こら、こらぁああああああああ!」

「なんなの! なんなのこれは! なんでいつのまにか同接が100倍に増えてるのぉおおおおお!」

「キョウスケ!? キョウスケはどこ!? 問い詰めなきゃ! あいつを殺さなきゃぁあああああああ!」


 と、火咲が俺を追いかけることにしたらしく、猛スピードで学生寮から外に走っている。


 や、やばいぞ。このスピード差からして、火咲が脳筋肉体派ステータスビルドであることは明らか。追いつかれたら、光の速さで撲殺されるっ!


 に、逃げなきゃっ! 逃げなきゃ、死ぬっ!


「居た居たぁ! キョウスケ、待てぇえええ!」


「ひ、ひぃ! なぜここがっ!」


 【ひさきちゃんねる】の画面を見ると、火咲はフレンドリストから俺のいる方角を見て追いかけていたっ!


「あ、ここから先は《《諸事情で》》配信じゃ映せないから、いったん切るねっ」


 同時接続者が切り抜き動画の拡散か何かで増えたらしいコメント欄は、火咲が突如配信を切ったことで大荒れしていた。


≪おもろすぎ≫

≪諸事情とは……≫

≪死んだな、あいつ≫

≪こんな可愛い子がここまで怖い顔できるの新鮮≫

≪これが新作VRMMO初日の配信内容である≫


「【流動地面】っ!」


 と、俺と火咲の間には大通りで50メートルほどの距離があったのだが、火咲の足元から俺に至るまでの地面が突如、液体のように変化して、すごい勢いで俺の方に向かって流れだした――!


 これは、魔術のリストにあった【流動魔術】という奴かっ!


 流れにサーフィンするように乗った火咲の身体は、あっという間に液体に足を囚われた俺に追いつき、叫んだ。


「死にさらせぇええええええええ!」


 こわっ! キレた女って、こわっ!


 そんなことを思っている間に、火咲の右ストレートが俺の頬に炸裂し――


 脳が揺れ、激痛と共に、俺は意識を手放したのだった――


 ああ、このゲーム、痛覚とか現実通りなんだな……





 *****





 それから、火咲が流動魔術で作ったらしい土の塊でグルグル巻きにされながら、俺は火咲の尋問を受けることになった。


「え!? 【魅了】スキル!? そんなバカげたスキルがあるわけっ!?」


「残念ながら実在する」


「魅了スキル……現実ではすごい女たらしなんですね!」


「誤解だ。敬語を使うのをやめろ」


「キョウスケ、そんな奴だったなんて……見損なったよ」


「誤解だ」


 と、そんな話をしながら、火咲が手元から紙を取り出して何かをさらさらと書いている。


「何書いてるんだ?」


「キョウスケがそのバカげたスキルを二度とわたしに向かって使えないようにする契約魔術の文面だよっ! 破ったら100回死ぬより酷い苦痛が襲うからっ!」


「……マジ?」


 別にこれ以上魅了スキルを火咲に使おうとは思っていなかったが、うっかり使っちゃってとんでもない苦痛を味わうことになるのはちょっと怖い。いや、すごく怖い。


「キョウスケのせいで、わたしの配信イメージぶち壊しなんだからねっ! 清純でキュートなアイドル系美少女配信者は見知らぬ男に『ちゅきちゅき、だいちゅきー』とか言っちゃいけないのっ! マジで物理的に拷問してでもサインさせるからっ!」


「ぐぬぬっ……」


 まあ、幸いなことに契約範囲は火咲に使わない、だけだ。


 友人を洗脳まがいの方法で魅了しても後味も悪い。


 ここは素直にサインして、先ほどの惨劇を早く忘れてもらうとしよう。


「わかったよ、サインしてやる」


「あー良かったー。でも、契約内容にないからって、他の女の子に無制限にそれ使わないでよっ! 頭おかしくなるくらい好きになっちゃうんだからっ!」


「はいはいっ。細心の注意を払いますぅ」


 俺は手を自由にしてもらい、火咲の書いた契約内容を読み、サインする。


「でも、火咲は流動魔術と契約魔術を取ったんだな。残り一つは? てか、そっちも固有スキル教えてくれよ」


「まあいいけどねー。わたしは主専攻が流動魔術で、副専攻が契約魔術と式理魔術。固有スキルはねぇ……」


 火咲がステータス画面を見せてくれる。


「エピックスキル【観客】だよっ」


「どんな効果なんだ?」


「わたしはねー、わたしを見てる人間、つまり観客の数がいつでもわかるんだ! でねー、観客数が100倍になるたびに、すべてのバフの効果が+100パーセントされるんだー!」


「へ? めちゃくちゃ強そうじゃね?」


「そう! さっきの騒動があるまでわたしの観客は300人くらいだったから、わたしにかかるバフはおよそ+120パーセントされてた! でも、さっきあんたのせいでとんでもないことになったから、一時的に観客が3万人くらいいて、その場合バフは+220パーセントくらいされちゃうんだ」


「なあ、それ聞いて思ったんだけどさ……さっきのはいくら何でも【魅了】が綺麗に入りすぎてたっていうか……そのスキル、魅了もバフ扱いで強化してね……?」


「あ、あり得るっ……! ちょっと待って、ステータスログ見てみるっ」


 火咲が、ログ機能でさっきゲーム的に何が起きていたのかを確認する。


==========

エピックスキル【観客】


現在の観客数:286人

バフ増幅率:+123%


増幅対象:

【魅了】+123%

==========


「うわぁああああ! 本当にバフ扱いで強化してるぅうううううう!」


「意外とポンコツスキルだな……」


「こんなスキル捨ててやるぅうううう! でも強すぎて捨てられない……ううっ……」


「ま、まあ、お前には【魅了】を使わない契約も結んでるし、大丈夫だろっ!」


 俺は火咲を慰め、ぐだぐだのうちに二人でいったんパーティを組んであたりを散策することになったのだった――


 配信は今日はしたくないらしい。ソウデスヨネー。


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