夏休みは10分じゃ足りない!!
サンサン太陽。
水着ではしゃぐギャル。
楽しそうな親子連れ。
スライダーから聞こえる浮かれた悲鳴。
俺はこのキラキラした世界の外側の人間。
なぜならその世界を高さ2mくらいの椅子から監視するのが仕事だから。
『ただいまより10分間の休憩です。
みなさん、プールから出てください。』
放送が流れ、客は一斉にプールサイドに上がる。
俺も休憩に入るから椅子から降りたその時、
「あの〜、すいません。」
と声をかけられた。
振り返ると俺と同い年くらいの2人組の水着ギャルが話しかけてきた。
男子高校生には刺激が強すぎる。
気づけば胸元に視線が吸い寄せられていた。
「このあと時間ありますか?
もしよかったら…一緒に…」
と、女の子が言いかけた瞬間、背後から
「たーむら!!チーフが呼んでたよ!」と、山田が腕を回し話しかけてきた。
「えっ!?はっ?」と、俺が戸惑って、しかし話しかけてくれたギャルの方を向いたら、彼女たちはとてもバツが悪そうな顔をしていた。
2人で「…行こっ」と言い、ギャルたちは去っていってしまった…。
その間も山田は俺に腕を絡ませたまま離れない。
「お前なー!なんなんだよ!いつもいつも!
せっかくいいところだったのに!
俺の彼女が出来る機会奪うなよ!」と言い、山田の腕を振り払う。
「だって、田村があの子たちの胸ばっか見てるから!『田村に遊ばれちゃう!』と思って助けたの!」
「はぁ!?」
「はいはいはい。もうすぐ10分経つから。山田ちゃんは持ち場に着いて。田村っちは休憩な。」
チーフの仲裁が入り、喧嘩は強制終了させられた。
「なんなんすかね、アイツ。
いっつも俺が女の子に話しかけられてると邪魔してきて。自分に彼氏できない僻みなんすかね。」
「ん〜。邪魔するってことは気になるってことなんじゃない?」
「はぁ?そうっすか?仮にもしそうなら、もうちょっと可愛く振る舞うんじゃないんですか?」
「好きな相手にはなかなか素直になれないんじゃない?それにかわいいじゃん、山田ちゃん。」
「えっ?チーフ…もしかしてアイツのこと…。」
…俺、どうした?なぜか胸がザワザワする。
「ん〜、どうだろうね。あっ、俺、そろそろ行かなきゃ!しっかり体休めとけよ〜!」
チーフは相変わらず食えない笑顔をして、持ち場に走っていった。
あの日のチーフの言葉がやけに頭にこびりついて、それ以来気づくと山田を目で追うようになっていった。
山田が大学生の客から声をかけられているのを見た時、自分でも理解できないほどイライラしていた。
だけど、足は動かなかった。
そんなことをしているうちに、あっという間に夏休み最後のバイトの日になった。
何事もなく1日を終え、帰ろうとした時、たまたま山田と帰りが一緒になった。
駅まで歩く道のり、緊張からかお互い何も話さず、アスファルトを見つめてる。
すると山田が
「来年もこのバイトする?」と聞いてきた。
「えっ?あー。今はそうしようかと思ってるかな?」と、俺は答えた。
「そっか。じゃあまた来年会えるね。」と、少し寂しそうな笑顔で俺を見つめた。
その顔を見て俺は胸が苦しくなり、思わず山田を抱きしめた。
「来年まで待てない。毎日会いたい。」
腕の中にいる山田から「はっ」と息を吐く声が聞こえ、ゆっくりと俺の背中に腕を回してくれた。
夕日で耳まで染まったお互いの顔を見合って、山田は静かに頷いた。




