地獄(すっちー)①
不安と恐怖は比例する。
不安があればそこに必ず恐怖があるし、恐怖があればそこには必ず不安がまとわりつく。
しかし、だからといって不安=恐怖ではない。
それが最も説明しやすいのが今の状態と言えよう。
俺は今、道に迷っている。
引越しを手伝い終えてやっと休めるかと思いきや、次の日が俺の通う学校、西野中の始業式とは思いもしなかった。
勿論、俺は登校することを心に決めていた。
しかし、この有様である。
道に迷った挙句、「遅刻した転校生が『へヘッ遅れちまったぜ!』などと言った後に黒板に自分の名前を殴り書きし、『俺が今日転校してきた××だ!よろしくな!』」などと言う至極恥ずかしく生きていることを自分で必死に否定したくなるような展開になる可能性は俺のようなネクラには0であるが、遅刻した俺に対してのクラスの雰囲気が暗すぎた場合、俺の口が制御不能になりかねない。
そんなことをあれやこれやと考えていると、白いスポーツカー(俺は車に関しての知識が微塵も無い)が俺の横を光の速さで走り抜いていった。
きょとんと立ち止まったままの俺を置いて車は住宅街を駆け抜ける勢いだったが、その車は俺の横に戻ってきた。
車の窓(名前知らず)が開く。
そこに黒いジャンパーの似合うダンディな男が現れた。
ダンディすぎて逆にダンディではないその男は、俺を見るとニヤと笑った。
「その制服、俺の学校だな。」
ほう、この人も通っていた学校なのか。
つか誰だお前は。
「え~と・・・・・あなたは?」
すると、男は少し考えるような動作を見せた後、時計を見ながら答えた。
「少し心外だな、俺はその学校の英語の教師だ。そしてもう遅刻だぞ」
なぜ教師のお前が遅刻している。
そして心外とは何だ?
「え~と、俺は今日西野中学校に転校する仮名を西と申します。」
男は少し驚いたような表情になった。
その表情がどことなくジョニーデップに似ている。日本人の癖に。
「おっと、転校生か。なら俺を知らないのも無理は無い。」
男は笑った。
「しかし道草食ってる場合じゃないぞ」
道草食うとは酷いことをおっしゃる。
「いえ、道に迷ってしまって」
「・・・・・・・?」
男は少し沈黙した後、
「・・・そうかそうか。乗っていけ。送ってやる。」
哀れむような目で見た後、そう言った。
むぅ。この男には苛々とはまた別の感情を抱く。
悶々というか、なんというか。
しかしもしこの男が不審者だったら、どうしよう。
車に乗ったが最後、俺は姉と父に一生会えなくなるのではなかろうか。
「なにもたくさしてる?早くしないと先に行・・・・」
「乗らせていただきます」
否、このまま歩いたらそれでも姉と父に一生会えなくなる。