天国と地獄③
「・・・・・・」
その少女は動揺した私に動揺したようであった。
とことん私の心を傷つけたいようだった。
「・・・・・・あの」
「はい」
「さっきの・・・・・『ガン、ガン』って音はなんだったんですか・・・・・?」
「あー・・・・あれはきっと・・・・・」
私はここでしらばくれようとも思ったが、彼女の言い方からしてそれは出来ないように思われた。
『なんだったんですか・・・・・?』とは、あたかも私が知っているような言い方だし。
「えーっとね」
「・・・・・」
「きっと、トールがヨルムンガンドを倒そうとしていたんだよ」
ナイスジョークのつもりで言ったのだが、はたしてこの少女(『さっきゅんさん』だなんて死んでも言えない)は北欧神話を分かっているのだろうか。
もしも分からなかったとしたらとんだ恥である。
つか絶対知らないだろう。
全く、どこまでこの乙女は私の心を出血させたいのか。
否。
今のは私の自業自得である。
「あー・・・・・ミョルニルですか」
乙女は少し恥ずかしがるようにして笑った。
今なんと言った、こいつ。
まさか北欧神話を知っているとは。
私が唖然としていると、少女は頭を下げた。
「先程は無礼な態度で接してしまってごめんなさい」
思いもしない謝礼の言葉だった。
なんだかこちらの方が申し訳ない気持ちに・・・・
「私、あなたが怖かったんです」
ならなくもなくもない。
もはや私の心臓は出血多量状態であった。
「アアーイイエーコチラコソー」
見よ、この紳士的な対応を。
「あ、今は大丈夫です」
「そうですか。それは良かった」
「はい。」
「うん。」
「・・・・・」
「・・・・・」
・・・・・お願いだからその震える体をどうにかしてくれ。
「あのー、僕は今日転校してきたばかりで・・・・って言ってもご存知でしょうが、やはりこの学校のことをよく知らないのです。」
「あぁ・・・・・はい」
「ですから好奇心でこの校舎に入ってみたんですが・・・・・まさかこの校舎、『廃校舎』なんかじゃ無いですよね?」
「うーんと・・・・・」
乙女は考えるような仕草をした。
「君の目がおかしくなければ、見た目で分かると思うよ」
私の心臓は、死んだ。