天国と地獄
校舎から出て、振り返る。
やはりまだ真新しい校舎から、大勢の生徒達が出てくるのが分かった。
そして、また前を向く。
私の目の先には、先ほどから頭の片隅から離れない、廃墟という名の天国があった。
「・・・・・・あは、あはははは」
幸せだ。
先程までの学校が『地獄』だと感じてしまっているのは、この『天国』のせいでもあるだろう。
『天国』を目の前にした人間にとって、目の前の『天国以外』はすべて『地獄』に見えてしまうのではなかろうか。
否、私であるが。
「早速、行ってみるか。」
落ち着いた事を言ったわりに、私は走った。
恐らく100メートルにも満たないであろう距離を、生まれて初めて全力疾走した。
そして息も絶え絶えになりながら、改めて『天国』を見た(3、4回目である)。
所々『立ち入り禁止』と書かれた板が何枚も打ち付けられている、元は玄関であっただろう大きな四角形の穴。
汚れている窓や、壁。
もはや動かない、秒針の折れた大きな時計。
何故かは分からないが、大きく穴の開いた四階の壁。
全てが、私の嗜好であった。
これぞ、廃墟。
これぞ、天国。
「これぞ、天国ぅぅぅぅぅ!!!!!」
私は大きな四角い穴に打ち付けられた板を力ずくで取ろうとした。
取ろうとした。
取ろうとして、
取ろうと思った、
取りたい、
お願いします筆者、どうか次の段落では『私は頑張ってその板を取った』と書いてください。
・・・・・・・。
私は悩んだ。
なんとしてでも、天国へ行きたい。
しかし、ただの木の塊にまんまと追い払われようとしている。
私は考えた。
1『木工室へ行けば、チェーンソーがあるかも知れない。』
2『この天国裏へ行けば、裏口があるかもしれない』
3『あの四階の穴にロープを投げてオロナミンCを飲めばなんとか行けるかも知れない。』
私は再度悩んだ。
何故1を思いついたのか。
たとえどんな地獄から開放されたとはいえ、さすがにまだ12時である。
こんな真昼間から15歳男子がチェーンソーを唸らせながら廃校舎を切りにかかっている光景が、どれだけ恐ろしいのか(しかも私は今日転入したばかり)。
1、却下。
2を考えた後でこの廃校舎の裏に回ってみたものの、『裏口』というのか学校にどれだけ希少価値なのかを改めて実感した。
2、却下。
3を考えた後、私は自分が病んでいるのだろうかという不安に陥ったが、まずこの廃校舎を『天国』と称している時点でそれは手遅れではないのだろうか。
否、これを行使した場合私は本当の『天国』へ行ってしまうのではなかろうか。
3、却下。
・・・・・私は考えた。
その結果、この校舎を猥褻物陳列罪で訴えられないかと思われるほど観察することにした。
左右に回って左右を観察した所、少し小さな穴が開いていた事が分かった。
もう少し大きければ、入れるだろう。
『もう少し大きければ』。
「・・・・金槌は木工室にあるかな?」