追憶
この学校の旧校舎に、幽霊が出る、という噂があるが、恐らくその幽霊は俺だろう。
しかしだからといって俺が他界し、ここの旧校舎に出る幽霊かというと決してそうでもない。
俺の心臓は動いているし、それにこの世に未練などない。
ならば何故俺が『旧校舎の幽霊』なのか。
簡単な話である。
俺がこのもはや廃墟と化した旧校舎を愛しているに過ぎないからだ。
俺がこの学校に転校してくるまでの十四年間、楽しく辛く苦しい十四年間だった。
ここまではよろしい。
しかし、ある二つの問題があった。
一つ、俺が廃墟にしか興味が無いこと。
二つ、俺の周りに廃墟と呼べる廃墟が無いこと、である。
友と遊ぶときは毎日山へ街へ海へ廃墟を探しては、得た物は労力だけである。
こんなことではいつもついて来てくれる友に申し訳ない。
私は何度か廃墟から目を逸らそうとしたが、一時間も経たぬ内に目は廃墟へと移っていた。
そもそも何故俺が廃墟好きなのか。
姉の話はこうである。
「多分だけど、お父さんが夏に花火を見るときにいつも行ってたビルあったでしょ?あんたの事だから、きっとそれに影響されたんでしょ」
欠伸をしなから夕食を作っている姉に私はうんうんと頷いた。
「あ、じゃぁお姉ちゃん。」
「何?」
「そこのビルの行き方、分からない?俺、覚えてないんだ。」
それどころか父が花火に連れて行ってくれたことすら覚えていない。
「あー・・・・・・」
私は希望の光が射したかのように返答を待った。
「たしか壊された」
希望の光が絶望に変わる瞬間だった。