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あんなタイトル  作者: 櫻木サヱ
もうひとつの影
9/22

2話 桜の木が呼んでいる

夏休みの朝。セミの声が元気よく鳴き響くなか、美咲は電車に揺られていた。窓の外には、去年も見た緑の山々が流れていく。


「やっと会える…」


胸の奥が少しずつ熱くなる。祖母の家に向かうのは、もちろん祖母に会うためでもあるけれど、本当の理由はひとつ。――あの“影”に、もう一度会いたいから。


駅を降りて田んぼ道を歩くと、懐かしい景色が広がった。大きな桜の木が、祖母の家の庭からこちらをのぞいている。去年と同じ場所に、変わらず立っている姿に、美咲は思わず小さく手を振った。


「ただいま!」


玄関を開けると、祖母のやさしい笑顔。荷物を置いて靴を脱ぐと、家のにおいが一気に蘇る。畳の香り、少し湿った木の匂い…。すべてが懐かしい。


けれど美咲の耳は、別の音を探していた。

夜になれば、きっと聞こえるはず。あの、小さな囁き声が。


その日の夜。布団に入り、静けさが広がると、美咲は息を止めるように耳をすませた。


――サワ…サワ…


風にゆれる桜の葉の音。その奥に、確かに混じっていた。


「…また来たね」


心臓がドキンと跳ねる。声は去年と同じ、でも少し寂しそうに聞こえた。美咲は布団を抜け出し、そっと窓を開けた。


月明かりに照らされた庭で、桜の木の影がふわりと揺れた。

そこに――待ちわびていた友だちの気配があった。


「今年も一緒に遊ぼうね」


美咲が囁くと、影はひらりと揺れて返事をしたように見えた。


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